第一幕 「お前が私の相手だと? 役不足だ」
また、人気タグ盛りまくり作品で、すみません……。
一話短め、間隔広めの読みやすさ重視の作品になっておりますので、苦手な方はブラバ推奨です。
「お前が私の相手役だと? ……すまんな、役不足だ」
高校に入ってもう一度演劇部で頑張ろうと思った初日。
俺は、演劇部のエースであり、先輩である広井結女から告げられた。
「おい、何ぼーっとしている一年。ちょっと来い」
男子の先輩、部長である折尾美呂さんが俺を体育館の端っこに連れて行く。
「えーと、名前なんだっけ?」
「び、微妙阿久人です」
「びみょうあくと……す、凄い名前だな。……いいか、今ユメが言った通りだ。君が来た途端、ユメの演技が酷くなった。今は新入生を勧誘する大事な時期でもある。君のような役不足なヤツはお呼びじゃないんだ。おとなしく違う部活に行ってくれないか、な?」
確かに……新入生体験部活動でワンシーン、男子はユメと、女子はミロさんと共演できる機会を貰ったのだが、俺だけが散々だった。
広井結女。
長く艶やかな黒髪、意志の強そうな大きい瞳、身長も170センチ近くあり、スタイルもすらりと細すぎず太すぎずバランスの良い体型、親友だったヤツ曰く『静御前の生まれ変わり』。
それが正しいのかどうかはともかく、凛々しく美しいその姿は、美しい女武将とか演じれば絶対にハマり役だろう。
全国でも注目される演劇少女で、テレビにも出たことがあるらしい。
確かに、彼女の演技は頭いくつも飛び抜けていて、しかも、共演者を置いてけぼりにせず、何倍にも輝かせる力を持っている。
初めて演技をするという新入生もユメに引っ張られてどんどん演技が良くなっていた。
けれど、俺と一緒にやるとなった瞬間
「ああー、ろみおー。あ、あな、あなたはどうしてろみおなのー」
俺の何がいけなかったのか分からないが、あからさまに手を抜かれてしまった。
俺もなんとかしようと、話を成立させようとしたが、全く芝居にならないまま終わる。
シーンが終わって、ユメに言われたのがさっきの一言だった。
俺は……まだ、役不足……。
「はい……あの、すみませんでした」
とぼとぼと去っていくことしか出来ない俺。
向こうではクスクスと笑い声が聞こえてくる。
「他の部活でがんばれよー!」
「かわいそーくすくす」
「笑っちゃだめよ、ぷぷ」
耐えられない……俺は思わず駆け出した。
ああ、今度こそユメに認めてもらいたかったのに。
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阿久人が去った演劇部では練習が再開されようとしていた。
「よーし、じゃあ、気を取り直して再開しよう。次の子は、ユメを下手にしないでくれよな☆」
笑いが起きる。
「よし、じゃあ、ユメ気を取り直して頼むぞ……ユメ?」
「あの……何故、アクトは出ていったんですか?」
「え? だって、君が役不足って言ったんじゃないか」
「ええ、言いました。……え?」
ユメは、黒く艶やかな髪を揺らし、首を傾げていた。
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