第3話 か弱い女の子
ふぅー。遅くなってすんません。
「ふぅー、なんとか間に合ったな」
「はぁ、なんで私まで行かなきゃならないのよ!」
俺と佐々波はスーパーの自動ドアの前で息を整える。
「十円で売られているジャガイモがお一人様二つまでなんだ。でもお前がいれば四つ買えるだろ?」
「まさかあんた、たかがジャガイモのために私をここに連れてきたの?!」
「そうだ」
「私メイド服なんだけど?!」
「し、仕方ないだろ?」
佐々波に恥かかせてやろうとした天罰かもしれない。俺だってメイド服姿の奴と一緒に買い物なんてごめんだ。
「恥ずかしくて死にそう!もう帰る!」
「俺だってはずい、でもせっかくここまで来たんだ!ここで逃げるわけにはいかない!」
佐々波の手を引っ張りながら、俺はスーパーの中へと足を踏み入れた。
※※※
「なあ、離してくれないか?」
「……」
「こっちのほうがはずいだろ?!」
「し、仕方ないでしょ?!」
佐々波は俺のお腹に手を回し、背中に顔をうずめながら歩く。
「カートが押しづらいんだが」
「それくらい我慢しなさいよ!」
「これじゃあメイドというよりバカップルじゃねーか……」
「ママー、あれ何してるの?」
「こらっ!指差しちゃダメ!」
「あらっ、最近のカップルときたら」
「大胆ねー」
子連れの主婦や年配の主婦が俺達を見てひそひそ話をする。ここのスーパーは当分行けないな。
「佐々波、レジだけは別々だからな」
「無理っ!」
「知らないおばさんしかいないから我慢しろよ」
「……無理っ!」
「なっ、じゃあ今日の晩飯抜きだからな」
「……無理!」
「全部無理ってお前……!」
もうすぐで野菜コーナーに着くというのに、俺は足を止めた。背中が佐々波の涙で濡れていることに気がついたからだ。
「……佐々波」
「いきなり何よ……」
あの陽キャの頂点、佐々波祭が泣いたんだ。本気で嫌がっていたことに気がつけなかった自分が情けない。
「やっぱ家に帰っていいか?」
「な、なんで?」
「家のトイレじゃないとうんこ出来ない派なんだ、俺」
「ぐすっ……、シンプルにキモい」
俺はまだ何も入っていないカートを直し、くっついて離れない佐々波とスーパーを後にした。
お仕事お疲れさまです。これからも頑張っていきます!