お茶の時間
「お茶をお持ちしましたお嬢様。」
静かな声が耳をくすぐる。大好きな声が聞こえたのが嬉しくて、振り返った顔がほころんでいるのが分かった。
「ありがとう、真田。」
真田 は、私の執事さん。
ピシッと整えた黒髪と、インテリっぽいけど嫌味じゃないメガネ、スラッとした身体がなんともカッコいい。
いつも冷静で、大人の男って感じ。
だからかな。
ちょっと困らせてみたくなっちゃった。
「ねぇ、真田ぁ…。」
紅茶を淹れていた彼の指がピタリととまる。
「なんでございましょう、お嬢様?」
ふわりと漂う紅茶の香り。
「ちゅーして?」
イタズラっぽく、子供みたいに言ってみた。
半分冗談。
半分本気。
真田、なんて言うだろ?
「…ようございますよ。」まさかの返事。
紅茶から手を離して、その手を私の頬に添える。
切れ長の目。
形のいい唇。
私の心をとらえて離さない青年の顔が近づいてくる。
ちゅっ・・・
静かに唇が触れたのは、きっと真っ赤になっているだろう私の頬。
驚いて見開いた私の目には、妖しく微笑んだ真田の顔が映る。
「どこに、とは言われていませんので。」
いつも仕事に誠実で、悪く言えば堅物だと思っていた彼は、ちょっぴり意地悪なオトコノヒトだった。
私から離れていく彼に声をかける。
困らせてみたくて。
焦らせてみたくて。
「…真田」
「はい?お嬢様。」
「口にして?」
「…ようございますよ。」
妖しげに笑った彼の唇は、私のそれをとらえて離さなかった。