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24:かつてのメイちゃん、あたらしいメイちゃん

 かわいらしい声でさえずる『メイちゃん2号』は、それ以来、ギルドのVCにやってくるようになった。昼夜問わず、ときおり早朝深夜にVC部屋を作成して誰かが来るのを待っている。そして誰か(だいたいは男だ)とコンテンツに遊びに行ったりしていた。よくいる女性ゲームプレイヤー、なおかつ稼働時間が長め。そんな人は珍しくない。昼夜問わず、途切れずに誰かしらいる。それがネットだ。さびしさとか暇とかを紛らわすのに、適しているし、そこに複数の人間がかかわればちいさな社会が形成される。だからオンラインゲームのギルドは、時として人間同士の感情に左右されることがある。


 ある夜、ギルドメンバーに召集がかけられた。招集をかけたのはユキノリさんだった。しかし理由は、メイちゃん2号によるものだ。

 メイちゃん2号の要求はかんたんで、つまり最近実装された、高難易度のNM討伐を手伝ってほしいということだった。NMとはノートリアスモンスター、つまり希少な敵だ。トリガーとなるモンスターを気が遠くなるほどの数狩って、運がよければ現れる。数万体倒して現れるかどうか、というところだ。

「周りの人が全部やってるんで、あたしもやってみたくて」

「周りの人ってだれ」

 普段あまりメイちゃんに関わろうとしない土田さんがVCでなく、ゲーム画面上のテキストチャットで尋ねた。メイちゃんはしばらくの間のあと「友達」と返す。


「じゃあその『友達』に手伝ってもらえばよくないかな?」

 土田さんの質問の意図を悟って、傍らにいたルーナちゃんが小首をかしげて問う。中身は二十一歳男性プログラマ見習いの三浦くんだが、キャラクターの外見は愛らしい妖精の女の子だ。透ける羽をきらきらさせ、かわいらしいローブに身を包んでいる。三浦くんは自キャラをかわいくすることにゲーム内通貨を惜しまない。だからメイちゃんは三浦くん(ルーナちゃん)があまり好きではないようだった。自分よりかわいい装備を身に着けている、かわいい女の子だから。


「みんな忙しいっていうから、ここの強い人たちに手伝ってもらいたくて」

「お手伝い、かあ」

 ルーナちゃんはそれ以上何も言わず、さっさと戦闘用ではないジョブ、つまり生産職に切り替わってしまった。金策のために錬金薬でもつくるのだろう。要するに「他人あなたの要請に付き合う義理はない」と判断したようだった。

 ルーナちゃんのあからさまな態度に、メイちゃんは機嫌を悪くしたようだった。声音が変わる。ボイスチャットの利点は即時情報共有に長けているところでもあるが、こうやって発信者の感情をあらわにしてしまう。

 そもそも「友達がやっているから私もやりたい」のなら、関わりの薄いこのギルドメンバーでなく、その友達に頼めばいい、というのは当たり前の感情だ。


 しかしみんなを呼び出したのはユキノリさんなのである。

 アラタくんとしてはユキノリさんが行くなら同行する、というスタンスでログインしたため、周囲の冷たさに苦笑したい気分だった。このギルドでのメイちゃん2号への空気感は理解していたが、実際目の当たりにすると、やはり「女の子に冷たくしてはいけない」という、世間のお決まりが頭をよぎってしまう。基本、ネトゲの男は本来、女に優しい。むだに甘い。

 ギルドのメンバーは、悪意があるというより、警戒感をメイちゃんに抱いているのだ。利用されるのではないか、偽られるのではないか、騙されるのではないか。ネットゲームでお決まりのパターンなのだ、そういった、詐欺めいたことをされて逃げられるのは。


「ユキノリさんがみんなを呼んだんだから、僕はユキノリさんにつきあうよ」


 アラタくんの言葉に、メイちゃんの周囲の空気が晴れるようだった。パアアアッという効果音さえ聞こえそうだ。うれしそうにメイちゃんはアラタくんのそばに近寄ると、ハグの行動表現を駆使して抱き着いた。

(こういうところなんだろうな)

 別にアラタくんは「メイちゃんにつきあう」とは一言も告げていない。あくまでも「ユキノリさん」だ。なのに、勝手に「自分を助けてくれている」とメイちゃんは見做している。

 アラタくんは画面に映っている自分のキャラと、そこにひっついている『メイちゃん2号』を眺める。こういうことをたぶん、自分の母親であるメイちゃんもやっていただろう。いや、やっていた。


 ユキノリさんと再会し、付き合うようになってから、アラタくんはすこしずつ答え合わせをしていた。自分の母親が演じていたロール「メイちゃん」について、だ。


 メイちゃんはかわいく、ひたすらかわいく、ゲーム内で自分の利になる男にはひどく優しく、隙だらけの甘い菓子みたいな存在だった。男たちがむさぼろうとすると、メイちゃんはやわらかな声でいうのだ。

ゲーム内のものを彼女は求めた。強い武器がほしい、クリアしたフラグを立てたい、かわいい装備を着たい。せっせと男たちが与えれば与えるほど、彼女の欲は膨れあがっていった。

 ゲームの外では彼女の夫が毎日仕事に行き、彼女と息子のために日々の糧を稼いでいる。満たされた、ぬるま湯のようなやさしい暮らしだ。


 大人になって思い返すに、アラタくんは育てづらい子供ではなかったように思う。

 文字が読めるようになるのも早く、本や画材、テレビがあればおとなしく過ごしていることが多かった。だから、子育てがたいへんで、彼女はゲームに逃げたと、他人にしたり顔で分析されたくはない。怪我をしたのだって、一回きり、たまたま床に放ってあった母親の下着を踏んで滑り、転倒したせいだ。そのとき運悪くスプーンをくわえていたのは、アラタくんが悪い。しかし一応母親が近くにはいたので、監督責任が彼女になかったと言い切れない。


 その怪我が原因で、メイちゃんの『リアルの家』は壊れてしまったが。

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