23:かわいいはつくれる?
「ボイチャすればわかるんじゃないの?」
母親宅から帰ってきたタクミくんがいとも簡単に答えを出した。
「あのひと──『メイちゃん2号』と? 」
「そう。だってあの女すごいアピールしてるし。なんでかうちのギルドハウスに入り浸ってていいかげんうっとうしいし」
あれ以来、メイちゃん2号はアラタくんたちの所属するギルド周辺にやたらと現れた。曰く、ぼっちだから友達が欲しいとのことだ。しかし、そのためになぜアラタくんの所属するギルドメンバーが巻き込まれなければいけないのか、理解に苦しんではいた。
タクミくんはといえば、彼女を適当にあしらい続け、その塩対応ぶりにそうそうにメイちゃんはタクミくんを『囲い』に抱き込むのは諦めたようだった。土田さんも相手にしていないのだが、なんだかんだでユキノリさんが話を聞いてあげたりと優しい態度を見せているので、メイちゃん2号は彼のログインをこまめにチェックしては、嬉しそうにギルドハウスにやってくる。
ユキノリさんは最近は戦闘には行かず、のんびりと採取や生産をしているので、次第にメイちゃん2号とユキノリさんがふたりでいる様子が自然になった。
タクミくんがうっとうしがるのもわかる。ユキノリさんは彼女に対してガードが甘すぎるように見えるからだ。
同じギルドに在籍する、土田さんや三浦さんもそれに気づいているが、あえて指摘していないらしい。そもそもユキノリさんは、界隈で厄介者だったアラタくんの母親と友人関係を築けた稀有な人だった。奇特すぎる。
考え事をしながら作るのは煮込みハンバーグだ。シチュー風にしあげれば肴にもなるし、おかずとしても食べられる。何より野菜も肉もたっぷり摂取できる。
キッチンでひき肉と炒め玉ねぎをまぜていると、宿題を終わらせたタクミくんが手伝いにきた。なのでふたりで夕食の支度をしながら、ユキノリさんにまとわりつく女性キャラについて話していたのだ。なぜ「女性キャラ」かと言えば、中の人が男性の可能性もなくはないから。ボイスチェンジャーを使ってネカマに徹する男性もいるのだ。
「あんまり話したくないな」
「それはわかる。アラタさんの声聞いたらあの女、さらにうちのギルドハウスに入り浸りそう」
「そうなの?」
「そうだよ」
他人の声がどうとか意識したことがない。仕事で声優と一緒になることもあるし、スタジオで顔をあわせない場合も、音声通話会議などで接することもある。なんならパブリシティの一環でちょっと売れそうなアイドルと会う機会もなくはない。
そういう環境で、ネットゲームの中の女性の声がどう、とか意識するのもいまさらな気がする。
──ああ、でも。
アラタくんは思いついて、笑いをこらえる。
ユキノリさんの、穏やかな話し方、声音は好きだ。
それはユキノリさんが特別だからで、彼の声を聞くとアラタくんは安心するからだ。
■
「どこから声だしてんだろ、あれ」
半分呆れたような様子でルーナちゃん(という名で活動している三浦くんだ)がつぶやいた。誰に言うでもなく、ただただ感想をのべただけなのだろうが、それは同じ場にいた全員が感じたことであった。
メイちゃん2号をVC通話に誘ったのはタクミくんだ。
小学生ならではの天真爛漫さを装い「いっしょにレイドいこう。音声通話しながらで」と、彼女がしぶるのも構わずに、パーティー編成をした。そこにはもちろん、ユキノリさんもアラタくんも『身内』として組み込まれている。付き合いのいい三浦くんも土田さんも一緒である。メンバーを聞いたメイちゃん2号は「じゃあちょっと待って」と十分ほどみんなを待たせたあとでログインしてきた。
「こんばんは、メイでっす」
どこか跳ねるような語尾で話すその声は愛らしく高くて、そして。つくりものめいて聞こえた。砂糖の入りすぎたココアみたいな彼女の声に、みんな思うところがあるようだった。だから彼女に対する会話はどこかよそよそしく、上っ面をつるつると撫でるだけのようなものになったのだった。
レイドボスを倒したあとは特に話題も盛り上がらず、そのパーティーでのVCは終わった。その後はメイちゃん抜きの『身内』だけのチャンネルに移行し、ふだんどおり適当にしゃべったり離席したりほかのことをしたり、てんで自由に過ごす夜になった。
いつもどおりのことだ。




