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12:せっかく、全てから自由な場所なのに

 俺、三浦ミノルがアルバイトとして入社した際、社長は言った。

「あたしの元旦那、ゲイなの」

 その情報、必要ですかね? というのがしょっぱなの違和感だった。


 そしてその『元旦那』はどうやら、業務委託でシナリオをお願いしている、あの、感じのいい関さんだということに、俺がようやく気が付いたのは入社して一カ月経過した頃だ。


「むしろなんで今まで気づかなかったんだ」

 師匠は呆れた様子だったが、俺は女の『はっきり言わないけど気づいて』砲を食らっても気づけずに成人した男だ。母親や、クラスの女子がいくらそれを撃ってきてもスルーしてしまう。

「ある意味、三浦くんのそのシールドはうらやましい」

 と、プランナーの瀬名アラタくんは笑う。いやでもモテにほど遠いからな? この盾装備してると。


 瀬名くんのように顔がよくて背が高く、手足もすんなり長く、賢い男として生まれる方が武器として使えるからいいと思う。失礼かなと思いつつも俺がそう告げると、瀬名くんは「そうだね」とさらに笑みを深くする。不可思議な男だ。美人だけど。




 数日ぶりにゲームにログインすると、見計らったかのようにユキノちゃん(中身はつまり、社長だ)から個別チャットが来た。いわく、自分の息子がストーカーにあっているという相談だ。しかしユキノちゃんにかかると、相談というよりも騒ぎを一緒に楽しんでほしいという悪趣味さを感じてしまう。俺がユキノちゃんを嫌いなせいだろうか。嫌いなんだよ、自称サバサバ女。本当にサバサバしてるなら、フレと慣れ合わずにバリバリと野良パーティーで遊んでればいい。


 ユキノちゃんはなんだかんだと言い訳しては、ギルドの人間に手伝わせてなんとか強いボスを倒して体裁を整えるタイプのお姫様だ。ユウコさんの会社のスタイルと変わらない。強い傭兵のおかげで成り立っている。ある意味、それで回っているんだからよしとすべきなんだろう。師匠の土田さんも、外部スタッフの関さんも「ユウコさんはそういう生物」として扱っている気配がある。瀬名くんもそうだ。


 すごく侮られているけど、すごく大事にされてもいるのかもしれない。ユキノちゃん(ユウコさん)について 見た目はまあまあ綺麗なんだけど落ち着きの悪い椅子、と誰かがたとえてた。

 最初はよくても、座っていると腰や足に違和感を覚える。つまり長く付き合いたい女性ではないってこと。誰が言ったんだ。


 実際そうなんだろう。関さんは仕事仲間として淡々とユウコさんに接しているが、ユウコさんは未練なのかなんなのか、『これ、あたしの元男なんですよ』感を常にまとわせている。おかげで弊社の女子社員は関さんにうっかり近づけない。いや男もだな。

 しかし瀬名くんはユウコさんなんかどうでもいいんだろう、関さんととても仲がよい。あのメンタルと顔面偏差値は本当に羨ましい。学歴だって瀬名くんは、そのへんのおばさんが聞いたら「あらあら、まぁまぁ」と驚嘆するような大学を出ている。

 俺は瀬名くんのスマートさを尊敬しているが、ああいう風にはなれないとつくづく思う。育ちが違うというか、生まれが違うのだ。

 気づけばユキノちゃんからパーティー勧誘のお誘いがきていて、俺はめんどくさいな、と思う。

 Discordのサーバーに、ちょうど瀬名くんがあがっていた。

『ちょうどよかった、瀬名くん、俺とパーティー組む約束してたことにして?』

 俺の突然のお願いにも、瀬名くんはさらりと返してきた。

『またユキノちゃん? いいよ』

 瀬名くんはちょうど誰かと組んでいるところだったようだけど、すんなり俺にパーティー申請をしてきた。受け入れると、パーティー一覧に関さんの息子さん、タクミくんのキャラがいた。


『こんばんは!』

『こんばんはー。小学生元気だな、もうレベルカンストしてんの?』

 タンク(盾職)を育てていたタクミくんのキャラはすくすく育っていた。

『キャラ育ってるから、ばーちゃんがアカ貸せとかいってくるんだよね』

 先日変なおっさんに追いかけられたというタクミくんは言う。俺もタクミ祖母の配信をちょっとだけ見たけど、いろんな意味でキツい感じの配信者だった。というか同じサーバ―なのか。高難易度レイドにはこないだろうが、野良で知らない間にパーティーを組んでいた可能性はなきにしもあらず。高齢プレイヤーの多いゲームではあるが、配信で暴言とか頭の中身が若くてすごい。


『でも父さんがさすがに今回キレたから、もうばーちゃんもあんまり連絡とってこないとは、思う』

『たいへんだな』

 祖母のゲーム配信動画から個人情報が漏れて、変なおっさんに追いかけられるとか、小学生には過酷な試練すぎる。瀬名くんも言っていたが、ほんと、PTSD抱えかねない案件だ。


『あのおっさんに「似てないね」って言われたのまじできもかったな』

『似てない?』

『ばーちゃんに似てない、って意味だと思う』

『ユウコさんはあのおばあちゃんに割と似てると思うよ』

 辛辣なことを瀬名くんは口にする。

『ユキノちゃんはあざとさで売ってるからちがくね?』

『あのおばあちゃんも、リスナーが男だってわかるとあからさまに態度に出るから。あと年下っぽい相手には年齢でマウンティングしてくるのが「昭和」って感じ』

 さらに辛辣な返事がかえってきて、俺は『瀬名くんは女嫌いか?』と思わず答えてしまった。

『嫌いなんだと思う。たぶん』

 たぶんって何。ふだん、おだやかな様子でいる瀬名くんが、ユキノちゃんもアラタくんの祖母も嫌いなのは理解したけど。

『まぁゲームでまで性別なんか気にしたくないな』

 どのダンジョンに行こうか、と俺たちは相談する。タクミくんの装備をととのえにいくか、とか。

『ネトゲの中でくらい、年齢も性別も国籍も、いろんなものから自由になりたいよね』

 瀬名くんがしみじみ、といった風情で言う。

 そのとおりだ。俺たちはゲームの中のアバターを得ているのだから、もっと自由でいいんだと思う。


 現実になんか縛られないで。


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