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白の王のアルカディア  作者: 海原緋色
1/2

第一話 終わりと始まり

初投稿です。よろしくお願いします。

走る、走る、走る。


どこにいるかもわからない。ただひたすらに走るだけだ。


止まれば失う。その事実だけが僕の後ろをついてくる。


斬る、斬る、斬る。


何体斬ったかわからない。ただひたすらに持っていた剣で靄のような何かを斬る。


斬らねば失う。躊躇などしていられなかった。


ただ、限界があった。


走れば走るほど、斬れば斬るほど、靄は増え、追いかけてくる。


僕はだんだん追い詰められて、あっけなく喰われていった。大事な思い出を、いっぱい。


(なんで僕はこんな目に・・・・・・)


最後、頭の中に浮かび上がったのは、緑豊かな地にいる、白髪になってまるで別人のように見える僕の姿と、その僕を取り囲んでいる人たちの姿だった。




目を覚ますと目の前に見たことのない景色が広がっていた。


遺跡群、のように見える。


僕は柱に背中を預けて寝ていたようだ。


「やっと起きた。こんなところで寝るとか死にたいの?」


物騒な言葉が聞こえてきて、声の方向に顔を向ける。


「・・・・・・・・・・・・」


僕は思わず声を失った。


そこにいたのはとても美しい女性だったから。ポニーテールにした長く艶やかな紫色の髪に、整った顔。凛とした鋭い目。座っているので身長はよくわからないが、男なら誰しも二度見してしまいそうな容姿だ。


但し、槍を持っているので、そっちにも驚いたけど。


「・・・・・・?何?こっちをじっと見て」


僕はしまったと思った。そして何とか声を出す。


「あ、えっと、僕はアヤト。よろしく」

「私はシャルア。アヤトはなんでここで寝ていたの?」


至極当然な疑問が返ってきた。


僕は今までのことを思い出そうとする。すると、急に激しい頭痛が起こった。


「・・・・・・ッ!!」

「どうしたの?」


僕は頭痛が収まるのを待ってなんとか声を出す。


「ご、ごめん。名前しか思い出せなくて。何でここで寝ていたのかはわからない」

「記憶喪失?アヤト、所持品とかある?」


僕はそう言われて服のポケットを探し出す。中には文字がいっぱい書かれたプレート一枚しか入っていなかった。


「これしかなかった。」


僕はプレートをシャルアに渡した。


「ステータスプレートね。・・・・・・ッ!?これは!?」


驚きでシャルアは目を見開く。


「あなたは・・・・・・流れ人なの?」

「流れ人?」


僕は何のことかわからず聞き返す。


「この世界とは別の世界から来た人たちの総称。詳しく説明したいところだけど、ここにいると危険だから、一旦私の仲間と合流しよう」

「仲間?」

「私の冒険者仲間。ここにはクエストで来たの」

「クエスト?」

「それも合流したら話すわ」

「わかった。なんかいろいろありがとう」

「どういたしまして。あ、ステータスプレート返すね」


シャルアからプレートを返してもらう。プレートを見ると、自分の情報について書かれていた。


「早く行こう。これ以上待たせたら悪いし」


僕は慌てて追いかけた。




東野綾人とうのあやと 18歳 男

記憶喪失の流れ人 LV1

体力 10

筋力  7

魔力  5

敏捷  9

幸運  6

守備  7

魔防  6


スキル 言語理解 王の資格(白)











サイド:王城


「あなた方は選ばれたのです!!」


煌びやかな謁見の間に声が響き渡る。


(早く終わらないかな・・・・・・)


弓原新太ゆみはらあらたはそう思っていた。


この演説が始まってからおおよそ1時間。新太は正直うんざりしていた。途中でよくそんなに喋れるなと感心したりもしたが。




事の始まりは午後の授業を受けている最中だった。突然床に魔方陣が現れ、視界が暗転した。目が覚めると、クラスメイト全員で知らない場所にいた。その時目覚めていたのは新太だけだったが、すぐに足音が聞こえてきたので寝ているフリをした。


「こいつらが勇者一行か?伝説の神の使いにしては弱そうだな」

「お前ちゃんと学習したのか?神の使いは初期ステータスが常人より高くて成長が早いって話だったろ。今はまだ俺たちの方がステータスは高いんだよ」


兵士たちはそんなことを話している。


俺は考える。


(勇者一行?神の使い?てことは異世界に来たのか。そしてチートは確定。テンプレも確定。せめて勇者だけはなりたくないな。あと、酷い国でないことを祈ろう)


オタクという人種はこういうときに強い。だからこそであるが、異世界という未知の世界でワクワクしてしまうのだ。


ちなみに、俺はテンプレを極力回避したい派だ。観るのが楽しいのであって、自分に起こってほしいとは思わない。むしろ面倒だと思っている。


「さっさとステータスプレート作ってしまおうぜ」

「そうだな。こんな得体の知れないものに関わりたくはねぇしな」


そう言って一人の兵士がクラスメイトの手を持っていた水晶に当てる。その後、もう一人の兵士が水晶にプレートを当てる。これを繰り返していって俺の番が回ってきた。


「はぁ・・・・・・。どいつもこいつも初期ステータスが異常だな。スキルも大量に付いてやがる。」

「神の加護ってやつだな。羨ましいぜ」


俺もチート持ちだったらしい。


「・・・・・・おい、こいつ。一人だけステータスが普通だ」

「そうだな・・・・・・。可哀想だがこいつは処分だな」


処分。その言葉に驚いて兵士たちのところを見ると、見知ったクラスメイトがいた。


東野綾人。黒目黒髪の平凡な人間だ。俺とはオタク仲間で、よくこの本が面白かったとか、あのゲームが面白いだとか話をしていた。気の許せる親友だ。


その親友が危機とあって動こうとしたが、体がまるで金縛りにあったかのように動かない。


(一体どうしたっていうんだ?まさか、寝ていた時に何かされたか?)


どうしても体が動かせない。


「確か秘密をバレる可能性が高くなるからだっけか?」

「ああ、表向きは。王家は使えない人間が城にいるのが嫌なんだろうな。」


そうこうしているうちに綾人がどこかに連れ去られてしまう。


(クソッ!!動け!!頼む!!動いてくれ!!)


然しこの世は無情である。


思いとは裏腹に、体はついぞ動いてくれなかった。俺は、そのまま連れ去られていくのを見ているしかなかった。


この時ばかりは自分の力の無さを悔やんだ。






そして今に至る。


(焦りは禁物だが、さっさとこの世界のことについて調べたい。一刻でも早く綾人を見つけないと。あいつも暴走しかねないしな)


俺はちらりと横を見る。


横にいるのは鈴本舞すずもとまい。俺のクラスの学級委員長を務めていて、容姿端麗・頭脳明晰。流れるような綺麗な長い黒髪が特徴的。その完璧さからついたあだ名は美の女神。


これまで数々の男たちが勝負に挑み、そして撃沈してきた。それもそのはず。舞が好きなのは綾人だからだ。その気持ちの大きさははっきり言って異常。綾人が絡むと人が変わる。そしていたって普通にストーキングしている。綾人は気づいていないようだが。


今回綾人が連れ去られた件については言っていない。寧ろ言っちゃいけない。国が滅ぶ。


「・・・・・・大丈夫かな、綾人くん。1人で残って。」


俺から話を聞いたときからずっと言っている。


一応舞には綾人は地球に残っていると話した。ただ、舞の綾人関係の勘の良さは恐ろしいほど良い。いつバレるか冷や冷やしている。


俺の舞のイメージとしてはストーカーが強いが、普段は人当たりがよく頼りがいのある委員長だ。起きたとき、混乱するクラスメイトたちを纏め、冷静に状況の把握を始めた。これからも良いリーダーとしてやっていくだろう。


しかし懸念もある。綾人ともう会えないかもしれないということだ。会えるとしても、いつになるかわからない。そのことがこの先どんな影響を及ぼすのか、はっきり言って予想がつかない。だから恐い。


「綾人くん、待っててね。今すぐ貴方の元へ帰ルカラ。」


そう言いながらだんだん舞の目からハイライトが消えていく。


・・・・・・俺はそっと視線を前に戻した。


「勇者として我が国をお救いください!!」

「では、次に・・・・・・」


あの演説が終わったようだ。豪華な服を着た太ったおっさんが下がる。


その後もさまざまな儀式をこなしていく。


その間も、俺は時折連れ去られた親友のことを考えていた。





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