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人生二回目!――八月の騎士の魔獣戦線――  作者: みゃ~うち?/宮内桂
6/8

【第二話:破滅はある日、突然に[三日目/後半]】

 俺は暴れたかった。

滅茶苦茶にしたかった。

 滅茶苦茶にしてもらいたかった。

 わけが分からなった。

 泣いていない。涙が出ていないから。

 でも……じっさいは泣いていた。

 悲しくない。ちゃんと冷静に対処できていたじゃないか。でも……実際は誤魔化していただけ。自分すら誤魔化して。

 俺以外全滅。けれど●●の遺骸は足首から下だけ。だったら……そんな都合の良すぎる妄執にすがりつくくらいに誤魔化して。

 実際は、狂いかけてたのだと、今なら分かる。

 でも、目の前の大男は、その全てを否定する存在に思えたから……。ソレを否定し返すには?

 相手をコワす! それゆえの突撃だ。


 槍の残骸――左手の棒は、突撃と同時に反対にひっくり返されていた。金属器具――石突き金具を上に。それを突き出す。

 難なく避けられる。

 想定済み……では無い。考えての動きでは無く、単なる条件反射。

 間髪いれずに体が自然に動く、この場でのおそらくは最適解へ。

 右の槍モドキは若干長い。俺の体は何を思ったのか? 

 対戦相手の動きを阻害するはずも無い所を突き刺きさそうとした。

 刺した。

 どこに?

 地面に。

 石畳の石と石の、間の隙間。

 重心の移動。

 俺の四肢、皮鎧に包まれていない部分全て――全身の全回路。それらを力素が駆け巡り、橙色の輝きに満ちる。

 

「ちっ、不味いな。マジもんの暴走か!」

 地面に突き刺した地点を支点とする。

 槍を高跳び棒と見立てて、宙を舞え!!

「マーチ! ヤバかったら勝手に助太刀に入るからねっ!!」

 俺は右手一本で棒高跳びを再現して見せた。相手の意表を突く! それ以外何が出来るか? 

 それほど届かない力量の差。

 実践経験の差。

 そもそも根本の、才能の差――大小、体格差からくる筋肉の量の差。

 正攻法が一番なんだがね。何事にも例外はある。相手の予想外の行動をとる。

 奇襲!

「いらん、俺の方で何とかする」

 俺の体は豪腕騎士の頭上に居た。

 綺麗な放物線を描いていたと思う。

 技量を数段上げた今でも、再現不可能な、会心な一挙動だった。

 両手は邪魔に成らぬよう、揃えられつつ。でも理想の落下地点、

 のちの親父様の真下に落ちる頃には、両の凶器は下を向いていた。

 槍の穂先。

 鋼の石突。

 俺はまるでスローモーションの様になった世界の中で、一部始終を見つめていた。

 自分の事なのに。

 他人ごとの様に。

 五感の暴走ゆえか。ゆっくりと落ちてゆく。墜ちてゆく。堕ちてゆく。


 黒の使い古した皮鎧。ゆえに黒の災厄や、黒騎士とも言われる。

 災厄? 

 その異名は人の脅威、魔獣や悪人どもにのみ向けられる災厄で。

 毒を以て毒を制すのが、本道よ。そう本人は言ったとか、言ってないとか。詳細不明。


 そのトレードマークたる皮鎧の真下の、筋肉たちがうごめいたのが、わかった。

 筋力は正義だ。どこで聞いた言葉か?

 思い出せない。でもその通りだ! 半歩後ろに下がると同時に、左脚を軸に体を半回転。

 たったそれだけの動きでかわしつつ。彼の動きはまだ終わらない。

 会心の一撃をあっさりかわされて、そのまま地面に落ちようとする俺。その前に。


「……ごめんな」


 そうつぶやきつつ、踏み込みつつ放たれた右腕の掌底。鋼鉄の拳で無く。指そろえられた手のひらの一撃。

 大きな衝撃。

 俺の体が一瞬、三重にぶれた。


「なんだい? 今のは?」


 未来のお袋の声が驚きで、かすれた。

 見間違いでは無い。必殺の一撃受ける瞬間、半透明の俺の体二体と本体の計三体、それが重なっていた様に見えた。

 その現象は実在だ。半透明の俺は、ダメージを受けた「過去の俺」。

 これもクロックワークの一側面。受けたダメージを、直近の「過去の俺自身」にも割り振って、ダメージを軽減する。そんなスキル。

 これでダメージは大よそ1/3。

 それでも無理矢理、落下のベクトルを狂わされ、俺はぶざまに転がる。

 槍を石突の棒を、双方失って。

 剣鉈も鞘ごとどこかに飛んでいた。転がる勢いのまま、そのまま斜面を落ちる。

 あえてそのままに。

 作用反作用。

 無理に起き上がって踏ん張ると、その残る勢いのせいで、足を痛めたり骨折しかねない。

 体がそれを、知っている。

 勢いがゆるやかになるころ、起き上がって、飛び込む。

 最後には自身の体だ、筋力だ。それはのちに親父から嫌と言うほどに学ぶこと。

 全身を意識して、ストックしてた力を解き放つ。

 クロックワーク!

 俺の両足は服の下、脛当ての下で、赤く輝いて居ただろう。

 強烈な一挙動の後には、隙が出来るはず。

 懐に飛び込め!


 今度は左拳に力をこめて。

 ……元服後(いま)にして思えば笑ってしまう。俺が最後に放とうとした左拳の一撃は、ヒーローの技の猿真似。

「――ィィダ~……」

 唯一の例外一件を除いて、みなオートバイ乗りの仮面の英雄たち。

 俺が死んだ後も続く、現代日本の特撮ヒーローシリーズ。

 その技の模倣。 

 一呼吸おく。

 懐に再度飛び込めたのは僥倖と言えた。

 先ほどは半ば偶然。今度は必然。 

 石畳を踏みしめろ! そこで得た反発を伝えて腰をひねろう! 上半身の半回転。拳を握りしめ。

 さらに肩・二の腕に手首まで無理なく伝えろ! 

 そして……決めろ!! 

「パァァァァンンチっっっ!!」

 決めた。決まった。真芯に捕らえた手ごたえ。

 俺は知った。何になりたかったかを知った。

 本当の自分の気持ちを知った。

 俺は特撮ヒーローの様になりたかったのか。

 未来(あした)を守る正義の使徒に。

「つう……」

 親父がうめきをあげた。


 そして負けた。

 負けた事を知った。

 野球に例えると。名捕手の鉄壁の構えのごとく。

 俺の最後……いや最期のつもりで放った一撃は。

 黒騎士の、重ねた両の掌で受け止められていた。

 抜ける。

 力が抜ける。

 暴走はあくまで一時的な物だったのだろう。

 スキル持ちの暴走――九分九厘は暴れるだけ暴れて、たいていこうなる。

 俺もその例外には、ならなかったようだ。

「末恐ろしいガキだな」

 言葉は乱暴極まりないが、称賛の響きを心地よく感じながら。

 俺は崩れ落ちて、意識を手放した。

                        ■■■

――現代。ユニコーン・タウンの俺の家。

「っ!!」

「で! どうなったのさ!!」

 ココアの入ったマグカップは、もう湯気をたててはいない。

 蜂蜜入りホットミルクのも同様。

 さめきったそれらに口をつけるのも忘れて、妹たちはそのマグカップをきつく握りしめて。

 強い目力でにらみつける様に、視線で話の続きを促した。

「俺が暴れたのは俺が知りたくない事を二人が告げるかもしれない。そう思ったからかもか。実はいまの俺にも、正直あの時の俺の気持ちは分からん。もう身体ん中でめちゃくちゃだったからな。……変なところで、俺の勘は当たるものでな……。親父とお袋が俺の村に早く駆け付けられたのは、ミア・ヴァルゴの遺体を村に届けるためだった」

「っ!!」

「……」

 はは、俺のそっけない言い方に強く反応するジュライにセプテンバー。

 上妹は事前情報として、下妹は本能で察したのだろう。ミアは……俺の初恋の相手であって、二つ下の妹分――幼なじみだ。

「単なる偶然か、何か予感を感じたのか……親父たちはミアの死を告げる使者って訳で、俺が八つ当たりしちまったのも、そんなところかもな……ははは」

 ……ダメだな。ミアの事を思い出すと、今でも堪えてしまうのが自分でもわかる。笑い声がほら、乾いちまっているじゃないか。

「「…………」」

 妹たちにそんな顔をさせる為に俺は話をしたんじゃない。それにこれはもう――

「――過ぎた話、終わったことだ」

「「…………」」

 それからの事後処理の話に、妹たちは話をはさむこと無く。たんたんと俺の話は続いた。

 目覚めた俺にミアの遺体を見せてくれたこと。

 その右手には、血にぬれた糸の束の様なモノ――のちにレギオンなるスキルの手がかりと、なり得る魔獣化した蜘蛛の糸だと判明する。

 その左手には……血で染まった封筒。ミアの従姉宛ての手紙だったらしく。その内容はその従姉あね――リンダ姐と出会うまで不明のままで。

 ミアは、大空をゆく怪鳥の魔獣に、咥えられて移動していたらしい。

 雨……血のしずくが、親父の頬に垂れ落ちて。怪鳥の存在に気がつき撃退、怪鳥を殺処分。ミアの存在を知る二人が村に駆け付けた時には……といった流れであった。


「そのあとは……そうだな……三人で村を片付けて。弔いして。親父たちは親父たちでエクレウスでの用事もあったらしいから、それも済ませて。

それから俺はオーガスト・スミス・ラインとしてこの家に来て。一応実の父と親父とは従兄弟になるのか。あとは二人の知っている通りだ」

 心配そうに、いや悲痛な顔色で。俺を見つける四つの視線。

 他人ひとといたわれる優しい娘たちになった、うれしさと。

 家族を思う愛情を感じて。

 自然に俺の右手は、交互に二人の頭をなでていた。

 兄になった五年前。

 あの後俺を拾った両親は、親戚筋とは言え、俺を実子達(チビども)と変わらない愛情を、注いでくれた。

 加えて飾らない。ありのままを見せてくれた。自暴自棄だった俺に、幼児達(チビども)をあてがい、世話をさせた。それもまた、心のリハビリになるだろうとの考えもあっただろう。実際チビどもと接するのは、大変だった。


 年子で姉よりも体力筋力体格に恵まれている分、脳ミソ筋肉な、いもーと――下の妹。

 体格が劣るも悪知恵働いて、いつも妹を泣かせる小狸な、あね――上の妹。

 一歳と2か月年齢差、14か月。

 ソイツらが力の限り俺に反発し、わめき、なついて、デレる。そん時の気分で二人の怪獣が大暴れだ。下の妹は、俺の歳より早くスキルに目覚めソレすら駆使する。上のは、魔術に対する適性を早くも示して対抗する。

 あの両親の実子だけあって、天然素材なトラブルメーカーであった。

 村――今は「(タウン)」に昇格しているが、何かが有れば村のみんなが避難するための家。

 俺の家。

 築200年超えとも聞く。ほぼ建国の時期と同時期に建てられた、半漆喰半木造(ハーフ・ティンバー)

 無駄……では無いが、要人来訪の際には本陣になり、避難所にもなる……我が家はやはり、普段は無駄に広い屋敷だ。使用人なんぞ雇わないし、その分その維持にも時間がかかる。

 悲しむ。悔む。嘆く。そんな負の意識に、耽溺する暇があるか? ()えよ! そんな暇!!

 でも俺がまともに戻れたのは、多分そのお陰。だから妹たちを愛しているし、家族を大事にしたい。

「じゃ、寝るか! 二人ともトイレに行ってから寝るぞ。けっこう遅い時間だしな。明日も明後日も休みとはいえ、習慣を崩すのはあまり感心出来な――」

という俺の言葉をさえぎって。

「……兄様、私はする事が出来ました。明日朝一で姫様の元に参じなくてはならない所存。自室に引き上げさせて頂きます」

「みゅ。こりゃだめだね。ジュライ姉ちゃんホンキもーどだ。えーっと、アタシもよびだされるの、わかってるからねーちゃんにさいしょっからつきあうねー。にいちゃん、さらばだ!」

 二人はすぐに、立ち上がってマグカップ片手に、愛用の枕も引き上げて。

 バタン。

 無常にも、俺の部屋の部屋は閉じられる。

 何なの。何なんだ、この、裏切られた感は?

 まるで馴染みの女に、女にしか分からない理由で振られ、置いてきぼりされた、この感じは?

「えーっと…………」

 我ながら間の抜けた声は、自室の空気にただよって、かき消えて。


 微妙な空気の中、一人寂しく俺は就寝するのだった。

 ええーい、泣くもんか! …………しくしくしくしく。

≪番外ジュライズ・リポートに続く≫

明日の同じ時間に更新します。

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