【第二話:破滅はある日、突然に[三日目/前半]】
エクレウス・ビレッジ、その廃墟での三日目。
早朝の曇り空から、徐々に降り出した雨、アメ、あめ。
土砂降りという訳でも無い。しかし止む気配が無い、天候。
切られた縄を確認したが。重い疲れを感じる。
無理は禁物か……。長丁場になる。それは理解していた。
いったん寝床に戻って、床に着く。
しばしの眠り。雨音と、冷気に身震いし目が覚める。
浅すぎる眠りに加えて、時計も無かった。昼なのか、夕方なのか? 身体の節々に、疲れが沈殿した俺では、判断が付かない。
不味いな。
雨は視界をさえぎり、臭いを消す。ちいさい音なら、雨音にまぎれてしまう。
村人たちの遺骸は……一応昨日のうちに、いくつか無事だった家屋の中に安置してはいる。
また魔獣どもがくるかもしれん。俺はどうなっても構わんが……とむらう前には困るな。
そんなのは建前で、本音を隠していることに、俺自身気が付いていない。
しばし考え、槍を持ち、ナタを鞘ごと腰にくくり付ける。本当は「銃」の類でも有ればと、思ったがアレは高い。
特に消耗品の弾丸も高い。しかしスキル持ちの高級傭兵――遊歴騎士の戦闘力に比肩する威力だ。
条件さえ整うのなら、だ。
反撃の来ない遠距離。千差万別なの魔獣たちの性質を熟知し、急所を知る。そして何より、それを狙える腕前。その腕前
の中には、銃をきちんと支えかつ、火薬の爆発力を受け止めて、受け流す筋力がいる。それに技術も必要だ。
魔術? 数少ない銃使いよりも、直接戦闘に役立つ魔術師は、さらに少ない。魔術師自体の絶対数は騎士よりも、はる
かに多いのだが。
魔術とはこの世界では、スキルの技術的模倣であった。
まずはアビリティの再現――補助魔術・付与魔術に始まり、応用して医療系など。派生して日常生活に役立つ物の方が数多く。
そもそも成り立ちの根っこが、錬金術でありそこから派生して、火や水を操る四大魔術の系統があるそうな。
攻撃魔術まで昇華し、魔獣を倒せる腕前となると、なかなか居ない。発動に時間がかかるのだ。
ただ、銃よりは魔導器の類は一般的だった。ただ俺の様なスキル持ちは、魔導器の力素と俺の
力素が干渉しあい、複雑な機構の道具は使いづらい。
銃に負けない位の値段が付くが、金さえ有ればスキル無しにもあつかえて。買える代物ではあるのだ、魔導器は。
冷たい雨の中。錆びた槍を杖代わりにして、歩く。様々なヒモというヒモを繋いで、村々のあちこちに張り巡らしていた。
鳴子の様に、場所によっては空缶を吊るし、簡単な警戒装置とする。
場所によっては、ぬかるんで。足跡の類は……無い。いや、このぬかるみでは分からない。鳴子も……絶対では無い。
ほんの少し鍛錬を始めていたが、まだ触りといった程度の俺。
大気のマナを吸いこみ、自身の色と溶け合わせオドとなす。魔獣はそれを、体内の力晶なる石で
持って増幅・変換・運用しているそうだ。
騎士――スキル持ちの場合は、魔導回路が体内に皮膚の真下に形成されていた。お偉い錬金術学士
様のお話では、力晶も魔導回路も同じモノ。体内に両方あってもおかしくないって話だ、理論上。
でも実際は無いので様々な見解やら、仮説やら実証実験やらあるらしいが。
それらの成果の一つで、スキル持ちの力素を通す道具が作られた。そして威力を高めるだけの剣や槌鉾や槍の類は、
――品質さえ問わなければ――比較的安価で手に入り。
それの一つは、今10歳児の杖代わりとして、錆びていようと一定の効力は発揮するのである。
雨音。雨が激しくなりはじめ。
俺の足音。
槍棒の反対側――金具ついた石突の部分が、時折村道の石畳みを打つ音。疲れからか、俺はよろけてしまい不規則に石
畳を打ちすえてしまう。
俺の冷静でない部分が命じる。必要以上に村の隅々まで回る。
雨の中、とむらいの墓穴を掘るのは流石に非効率。その辺は分かっていたが。だからと言ってじっと待ってはいられない。
いや、何か動かないと気が狂いそうだった。なまじ前世の記憶があるのだ。
大人の心に、子供の体。そのくせ子供としてやり直してからの記憶も、明確にある。
じっとしていると様々な事を思い出してしまう。大小さまざまな大きさの魔獣たち。
喰らう為と言うよりは、かみ砕き吐き捨てる。
まるでチューインガムを噛んで、カスを捨てるかのごとく。無造作に。
俺は気絶して、気がつけば穀物倉庫で目覚め、前世の事を思い出す。
誰かが寝かせてくれていたのか? 気が付いた時には全て終わったいた。
「思い出される」気絶前の光景。前世を思い出す直前の光景。
魔獣どもは爪や角で振り払う。炎を吐く。雷撃を放つ。
たわむれなのか? まさか? けれども。逃げ惑う皆の後ろを、小突いて回るモノも居た。
羽根持つ大蛇。双頭の山猫。蜈蚣の下半身を持つ猿に、角持つ山犬。えとせとら。一つとして同じものは居ない異形。
神話の時代から連綿と続く、幻獣どもとは異なる。狂乱惑乱の軍勢。それらが数十。
首領格。こん棒ふりあげ、巨狼にのる大猿神の、口元がわずかにめくれ上がる。鋭い犬歯が見えた。
まさか? 嘲笑?
明らかに異質なモノではあったが、知性があった。錯覚かもしれないが、そう感じた。
た の し そ う だ っ た 。
途切れていた記憶が脳裏に浮かぶ。映像と音と臭いをともなって、逃げた俺を責める。
ふざけるな!!
槍は真横に俺は振った。
雨粒を撫で切り、大気をふるわす風音の直後。槍に確かな手ごたえと、一瞬獣めいた臭いに、鉄さびにも似た臭気
――血の臭い。
雨が更に激しくなる。豪雨。すぐに汚れは洗い落とされる。地面に落ちる小猿もどき、醜悪。
加えて俺の前方に、たくさんの気配。
気が付いていた。
「まがいもの、ゴブリンもどきめ」
俺のつぶやきさえも、はげしい雨音にかき消され。
村と森との境目の斜面の縁に作られた街道沿い。斜面の上手に俺、村外れ。一方斜面の下手。
その森の茂みや木立の陰に、子供くらいの人影めいたモノたちが無数。確かに居る。
子猿に似たソレラは確かに「ゴブリンもどき」だ。唯一幻獣の名を冠し、その外見も有しながら、似て非なるモノ魔獣の一種。
オリジナル――幻獣ゴブリン種は絶えたか、元々存在しないかは所説あったが。
50年前に発見されて、一応平和的解決経て、旧大陸で相当数暮らしていると言う。
俺にも一人知り合い居るしな。
姿形がゴブリンに似て、その数も魔獣被害の大半を占める為、学者以外ほとんど正式名称で呼ばれない最下級の魔獣種。
ゴブリンもどき。
奴らと遭遇し、ああこれで楽になれる。そう思ったのは事実だ。ああ、でも。
コワシてやる。
コワシてくれ。
そんな矛盾した気持ちがない交ぜになって、弾けて。
気がついたら、俺は槍を振るっていた。
■■■
横薙ぎ。
10歳児とは思えぬ腕力にまかせ、強引に先頭の子鬼を吹っ飛ばす。
次は?
叩く。頭を。
ひるんだ別の子鬼。素早く槍を手繰り寄せつつ、蹴り落とす。
斜面。つまりは坂の上。つまりは高低差がある。位置エネルギー。
ニュートンが万有引力を発見した際、木からリンゴが落ちたごとく。吹っ飛ばした子鬼の地点に、さらに蹴り落としたのだ。
どこに? 目算――推定25から30の数か? その群れの中に落とす。ドミノ倒しで崩壊しかかる。
伏兵。
木々を伝って、とびかかってくる子鬼!
突く。
ただし、皮膚にひっかけて。最大の懸念は槍の穂先が敵に突き刺さり、抜けなくなる事。
ひっかけた後に一歩踏み込んでのフルスイング。穂先より抜ける。
三番目の子鬼は、放物線描いて、下の樹の幹にぶつかった。
大きく息を吐く。いや、吐くだけの余裕を作れた。
剣と魔法の世界であろうとも、人間が基本ベースなのには、変わらない。スキル持ちでも変わらない。
通常状態――有酸素運動。ごくごく短時間の無酸素運動――ひと呼吸、今一連の動き。
この流れは、ビギナーズラックである自覚は、あった。
俺の怒りが、尻込みするのを、忘れさせ。上手くいったに過ぎない。偶然。でも結果は結果だ。
ゴブリンどもは様子を見る為か、立ち止まる。
ビギナーズラック。ではあったが、俺が特別優秀だったり、チートだったりする訳では無く。
この国――というよりも。それを含む、南北新大陸一帯の地域の特殊性が、遠因だ。
10年前後周期で各地で発生する、魔獣の暴走惑乱。そうでなくとも、強力な個体や群れは頻繁に。
地域常設軍や遊歴騎士では、対処しきれず。援軍が来るまでは、自衛してゆくことになる。
スキル持ち。言い換えると、全人口の1/10か2/10居る騎士候補。武器の習熟、防具の扱いには早ければ早い方が良い。
前世の事を思い出す2年前には、剣・槍の訓練を始めていた。
スキル持ちでなくとも。自身を守る術は何がしか得る。学ぶ。農閑期には野獣を狩りだす、すべにもなる。
たかが二年程度の経験、訓練。それは自然と下地になって。
これらはチートでは無い。特殊能力では無い。人が人として、過酷な地域で生きる。先人から続く、その蓄積だ。
俺の武器としての好みは、実は槍では無く、剣だ。剣にこだわりつつも、適正はむしろ槍にあると言われた。
その辺の実感は、今でも分からないけれど。元服後――15歳でもそう。10歳児も、そう。
敵集団をあいてどる場合、可能なら地形を駆使する。不可能ならば、突っ込め!
蛮勇に他ならない。この時は特に。自暴自棄だ。
心の奥底では、戦いの末に死にたい。
殺してほしい。同時に相手を滅ぼしつくしたい。
だから突っ込んだ。
意外な行動だったのか? ゴブリンもどきたちが、一瞬固まった様にも思えた。
何でも良い。刺し貫くのは悪手。立ち止まるのも悪手。それらだけは分かっていた。
右腕を意識する。むき出しの二の腕に浮かぶ黄色の輝線の紋様。呼応して槍の穂先にも、黄金の輝きの模様がいろどられる。
切れ味優先! 穂先近く――槍を短めに持って、先頭のゴブリンに突っ込み。
短刀の様に、横に薙ぐ。
のど元から鮮血。
体のおもむくままに、サイド・ステップ。
右だ!
同時に左手二の腕、黄色の輝線。
槍はすでに左手へと持ち替えられていて。
視ずに思いきり振りぬく!
ナニカが潰れた感触。
気にしない。
気にする暇ない。
一歩踏み込む。
左前に。
周囲は敵だらけ。
振れば当たる。逃げろ!
敵集団の中に逃げろ!
一か所の場所に居ない。
つねに移動せよ。逃げつつ。
そして……殺す。
一匹でも多く殺す。
息の続く限り。
生きている限り!
殺せ! ころせ! コロセ。俺もコロセ。
コワセ! コワシ続けろ!
気が付けば…………森が始まる入り口で、立っていたのは俺だけだった。
「……ははっ、あはははっ、はははは……あはははははははは」
何が可笑しいのか自分でも分からない。ただ虚しさだけが心に有り。
森の木陰の天蓋。
雨は、その傘の役立たないほどになっていた。
俺は狂ったように笑い続ける。狂っていたのかもしれない。
コロシてよ。ダレかコロシてよ。コロシテくれよ。
豪雨は惨劇のあとを洗い流し。視界をせばめ、臭いを消し、ささいな音も打ち消してしまう。
不思議とそんな中でありながら。
俺は様々な事に敏感だった。
アビリティが暴走していた。
暴走気味の俺の五感は、感じ取っていた。
何を?
はがねの剛腕の一撃。
その出がかりを。
強烈な一撃も、技が出始める直前が分かれば、当時の俺でも難なく回避出来る。
回避。
いつの間に背後に回り込められたのだろう?
気配すら無かった。むしろ、その方が問題。
即座にその意味を悟る。てかげんされたか?
振り返る。
着古した黒の皮鎧。
そこに収まりきらぬ真金の筋肉の束。
巨漢、ハンサムなゴリラ。
それが親父――義父との出会い。
その背後、魔術師の証の一つ。
無造作にガラスの杖構える、長身。
食わせ物な美女。
美しきカマキリ。
それがお袋――義母との出会い。
「なぜ!」
そう問いかけたのは当然で。明らかに、俺に避けられるのを前提にした――威力こそ一撃必殺の勢いなものの、当てる意図無い「手加減」に他ならなかったから。
「ん? そりゃ蛮勇めいていてもさ。村の生き残りにして、初陣には十分すぎるやり取り見て、お前に敬意をおぼえたからさ」
「やっぱアタシしゃ実戦は不得手だわ。アタシは何度か助太刀に入ろウと思ったンだけどさ。このヒトに止められた。そしてそれは正解。……アンタ強いね」
昼行灯夫婦。
専門外では役立たず。本当に役立たず。戦闘ではこれ以上の人材は無いが、それ以外の日常生活が出来るとは思えない、「濃い」出で立ち。
そんな第一印象は間違っていなかったことを、色々思い知らされた。その後ほんとうに思い知らされた。
……いろいろ……と。
■■■
見ていた事を一切感じさせなかった、手練れの二人組。
俺はこの二人が怖かった。得体が知れない。この二人が怖い。もどきは勿論、あの暴走惑乱の魔獣どもよりも。
槍や剣を振るっていた「色々思い出す前の」二年間。俺なりに学んだ事があった。
その一つ、間合い。
怖い。二人の間合いが読めない。
槍を構える。剣を構える。
その攻撃可能範囲――間合い。
前世現代日本に言う、武道が一、剣道。
その知識に照らして言えば、最適距離は「一足一刀の間」という。
何故剣道? 申し訳ないが、中身のベースが現代日本人だった高山ヒロムであった事ゆえに、どうしても影響が濃い。
加えて生まれ変わり、成人――元服した今でも、師匠について剣道をベースにした剣術を学び、模索中なのだ。
くわしくは、いずれ。許せ!
その「一足一刀の間」。剣を中段に構える。一歩踏み込むと同時に、振りかぶり振り下ろす。
その切っ先が相手に届く、その間合いを言う。
それより遠い距離を「遠間」。近過ぎる間を「近間」という。
その術理に当てはめると、俺より高所――有利になる場所から見下ろす巨漢との位置は、近過ぎる――近間。
有利さを打ち消している? 巨漢の側からしても近過ぎた。
子供だった俺は、彼の懐に入る位置取りとなっていた。腰の剣鉈を引き抜ければ、意表をつけなくもないかも。
可能性。あくまでもそれは、可能性。
わずか2年。されど2年。そのつたない経験で、初陣を生き残り。今新たな脅威を知る。
鉈を引き抜ける可能性は「妄想に過ぎない」絵空事と、理解してしまい、コワイ。
この二人は……ナンだ?
「悪い、自己紹介まだだったな。俺はマーチ・ラインと言う。一応、正騎士長の資格を持つ」
マーチ・ライン! 一年十二か月の内「三月」の名を持つ、我が国現役最強とも噂される遊歴だ。
辺境――要はド田舎の俺すらも、何度も聞いた騎士の名前だ。
曰く旧大陸に渡り、老いた幻獣族長格のマンティコアに力比べで勝ち上がった。
曰くたった二人で暴走惑乱を仕掛けた魔獣の群れを、退けた。
事実は小説よりも奇なり、というこれらの一連の事象は、のちに親父自身から、その逸話を聞かされることとなる。
二人組? とすると、豪雨の中濡れる事もいとわぬ大人のオンナの彼女は? 地・水・火・風――いわゆる四大の申し子と名高い――
「アタシしゃ、このヒトの情婦さ。ジェーンとでも、オバサンとでも好きに呼びなっ。騎士候補の坊や。
所有資格は従騎士だけど、まぁ手習いで、ちょこっと四大をあつかう。後方支援の器用貧乏だねえ」
ジェーン・ライブラ。のちのジェーン・ライン。四大のエキスパートとして有名になりつつあったが、彼女の台詞は謙遜としては、無理がある。実績的に。
しかしかなり後になって、謙遜でも無く彼女の認識からくる、本音と知る。
彼女の認識する腕前の下限は高過ぎるのだ。かといってそうでない者をおとしめる訳では無く。
あくまで技術者。モノづくりのエキスパート。錬金術師。
魔術の杖や魔導具などを真贋合わせて探求する。
その一人者たらんという決意のあらわれだったそうな。
お袋は単なる色ボケ魔女にしか見えんが、欲目無しに凄い人ではある。
その道では本当に凄い人なのだ! その道においては!!
この時点で親父との間に、娘を二人も作っておきながらまだ籍を入れずにいた。その理由は……余りにも馬鹿らしく。本題にも外れるので、ここでは省略する。
「さて、お前さんが名乗るも名乗らないも自由だがな」
激しい雨で、無手――寸鉄帯びず、自身の肉体だけを武器とする騎士。彼は、格下の俺相手にすら、油断無く。
こうのたまうのである。
「まず、俺とやりやおうや」
今でも目を閉じると思い出す。
俺――オーガスト・スミス・ラインが、騎士を目指す原点だ。
無造作なその立ち姿に隙は無く。武骨ながら、親しみ伝わる笑顔を満面に浮かべた巨漢の戦士が、そこに居た。
■■■
なだらかな丘の斜面。その上に作られていた、俺の村。その斜面を縁取る支道は、ゆるやかに螺旋を描いて街道に続く。
横目に森の入り口を見ながら。こんな辺境に珍しく、整備された支道の石畳。
荷車が通りやすい様に、路面は磨かれたように平らだった。
何が言いたいか?
豪雨による湿り気は、潤滑油の代わりとなって滑りやすい。
滑らかにつややかに。マーチ・ラインの巨漢が後方へと動く。支道にそって滑らかに。しかし一瞬で。
サー・マーチ・ラインのアビリティ?
暴走した俺の五感が、その可能性を否定する。
あり得ない! なんで!?
重心を操り、考えられないレベルの最小限の動きでの移動。
縮地。アビリティでは無い。
単なる技術。
現代日本にだって細々ながら伝わっていた技法。
元服後の俺なら、その事が分かる。
剣道の師匠も前世持ち(チェンジリング)。
しかも前世も今世も年下にも関わらず。この地においては、その道の大家。縮地歩法の専門家。
縮地のすべも含めて、剣道・剣術を学ぶ元服後。
俺は不肖ながら、その一番弟子だ!
その時は脅威としか思えなかった。身体が反応していたのは僥倖としか思えない。槍棒を縦に構えて盾となす。
一拍遅れて、蹴りが放たれていた。
重い蹴りだったと思う。
槍は真ん中で真っ二つに折れていたのだから。
その勢いを殺す為に、二三歩後ろに下がっていた。
ここまででやっと頭の理解が追い付く。
背後に下がりつつの中段の蹴り(ミドル・キック)って……。
どんだけなんだよ! デス・マーチ!!
そんな彼の異名で悪態をつく。心の中でそう叱咤して、無理矢理奮い立たせる。俺自身を奮い立たせる。
怖さを無理矢理抑え込む。
槍は、棒きれと槍の残骸となり果てた。
だけれど失われてはいない!
「ぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁああああああっ!」
半ばやけくその雄たけび上げて、突っ込む。先ほどのと比べても蛮勇も蛮勇。愚行の中の愚行。
先ほどの短いやり取りで、たつ推測。彼らは味方だ。援軍だ。戦いを挑む意味は無い。むしろマイナスになる行動。
でも。
無視した。
≪第二話[三日目/後半]へ続く≫
明日の同じ時間に更新します。