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天 てん  作者: 雨世界
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5 天の秘密

 天の秘密


 放課後の教室に、一人の女子生徒がいた。

 それは、雨野天だった。

 晴が教室の中に入ってきたことに気がつくと、天はそっと見ていた窓の外にある夕焼けの風景から目を移して、晴を見た。

「こんにちは」

 にっこりと笑って天は言った。

「……うん。こんにちは」

 晴は言った。(こうして天が晴に花森高校に転校してから、声をかけてきたのは今が初めてのことだった)


 誰もいない教室の中で天は、とても悲しそうな顔をしていた。

 それはあの、強い雨の日に見た、……雨の中で泣いていた雨野天の顔によく似ていた。

 それは教室の中でみんなと楽しそうに笑ながら話をしている明るい天とは、違った表情だった。

(どちらかというと、晴がよく知っている天の顔だ)


 晴はそんな天の顔を見て、まるで雨野天という女の子はこの世界に二人いるみたいだと思った。


 天は窓際から歩いて、ドアのところで突っ立っている(晴は『忘れ物』を取りに来た。そういうことが晴にはよくあった)晴の前までやってくると、「三船くん。三船くんと話をするのが、遅くなってしまってごめんなさい。その、あまり勇気がでなくて。……あの雨の日に、私に声をかけてくれたのって、三船くんだよね?」

 天は言った。

「いや、そんなこと知らないけど……」少しとぼけた顔をして晴は言った。

 理由はわからないけど、天はどうやら、あの雨の日に泣いている自分を晴に見られたことを気にしている、だから、晴に声をかけることができなかった、というような雰囲気が感じられた。だから晴はそんなことは知らない。とあの雨の日に雨野天という名前の女の子が泣いていたことを、自分が忘れたことにすることにしたのだ。

 そんな晴の言葉を聞いて、天は「え?」と驚いた顔をした。

 でも、それからすぐに晴の言葉の意図に気がついた天は、「ふふ」と、とても嬉しそうな顔で笑って、「ありがとう。三船くん。三船くんは優しいね」と本当に自然な笑顔で晴に言った。

 その雨野天の笑顔を見て、三船晴は、雨野天という名前の女の子に、今度こそ、本当に一目惚れの恋をした。(きっと、あの雨の日に天と出会った日から、僕は天に恋をしていたのだとは思うけど……)

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