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摩耗核惨事  作者: pip-erekiban
第一章 本会議
9/77

代表質問に対する答弁-一

(内閣総理大臣廣瀬和夫君登壇)

(廣瀬内閣総理大臣)

 ただいまの野島議員の質問にお答え致します。

 まず、私が所信表明演説におきまして表明致しました原子力発電所再稼働方針について説明致します。

 現在、我が国の置かれている現状つきましては、議場にお集まりの各党各会派の皆様方はよくその逼迫した状況をご存じであろうと思います。未だ統計は発表されておりませんが、国内総生産につきましてはこれが大幅なマイナスに転じることは明らかであり、加えて失業率も前年同期比で約六〇〇パーセントもの増加を見ている状況にございます。更に除染、復興のために必要とされる資材の運用に大量の電力が不可欠であり、休眠状態にございました火力発電所を稼働させるにあたり、これを動かすためのガソリンの輸入額は、国民の健康で文化的な最低限度の生活を支える福利厚生に影響を及ぼすほど高額となっている状況でございます。

 これはひとえに、我が国が資源に乏しく、自前のエネルギー源を確保できない経済事情があるからでございます。私は確かに、先の佐竹内閣における二党間合意については議員ご指摘のとおり、その議論の場に加わり、合意形成の過程をこの目で確認致しました。

 しかしながら図らずも内閣総理大臣という重責を担うことになり、除染、復興の使命を帯びる立場に立って感じたことは、二党間合意で交わされた原発稼働停止の政策を継続することは、除染や復興のみならず、国民生活に重大な損害をもたらすことが明らかである、という厳然たる事実であります。

 思えば今から八十○年前、我が国は米国に対し、無謀ともいえる戦争を挑み、その過程におきまして自国国民のみならず周辺諸国家諸国民に対し大変な戦争の惨禍をもたらしました。歴史認識につきましては様々な見解がございまして、本日はこれを議論する場ではございませんのでその是非について申し上げることは差し控えさせていただきますが、当時の所謂ABCD包囲網により、石油輸入が途絶致しましたことは、国民の間に非常なエネルギー不安をもたらしたであろうことは想像に難くありません。そして国民の間を覆った不安が、米国との戦争に反対する冷静な議論を封圧したという側面も間違いなくございました。その結果、我が国国民だけで三一〇万柱もの尊い命が奪われるという惨禍がもたらされたわけであります。

 今、幸いにして我々には、当時は実用化されておりませんでした原子力という新たなエネルギー源が選択肢として与えられております。我が国の原子力関係省庁、技術者、電力会社等は、商用原子炉の稼働につきましては相当の経験を積み、しっかりとしたノウハウを構築して参りました。今後、この度の大惨禍から我が国が再び不死鳥の如く復興するためには、エネルギー源の確保は欠かせません。そのためには、核燃料サイクル政策の継続によって、自前のエネルギー源を確保し続けなければならないのは勿論のこと、そのために原子力技術を高いレベルのまま将来にわたり維持し続けなければならないことは明らかであります。

 先の内閣におきまして野党第一党と交わされた二党間合意につきましては、こういった既に確立され、国際的に見ましても高いレベルにある我が国の原子力技術の維持と、今後の技術者の育成を根底から破壊するおそれがあります。(「じゃあ何でその時反対しなかったんだ」などと呼ぶ者あり。議長「静粛に願います」)

 これこそ、私が朝令暮改の誹りを恐れずそれを覚悟の上で、昨日の所信表明演説におきまして原子力政策の維持推進を表明するに至った所以でございます。二党間合意という小事に拘り、復興の大義を見失うことは責任ある内閣の取るべき態度ではありません。

 議場にお集まりの各党各会派の皆様方には、二党間合意の破棄を政争の具にすることなく、関係各委員会におきまして復興に向けた真に実りある議論を期待致しますと共に、国民の皆様方、殊に本件摩耗核惨事におきまして多大な被害を蒙られた被災者の皆様方に対し、ご理解を賜りますよう内閣と致しまして丁寧な議論と説明に努めて参る所存であります。

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