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摩耗核惨事  作者: pip-erekiban
第三章 参議院行政監視委員会
71/77

佐竹参考人に対する意見聴取‐六

(佐竹参考人)

 お答えします。

 もし「摩耗」のような生物が、今このタイミングで福井県に上陸した場合、まず問題となりますのは、福井県内に十数基立地している原子炉を襲撃する事態が考えられます。自衛隊といたしましては、当然福島第一原発廃炉作業区における「摩耗」襲撃事件が念頭にございますので、これを撃破すべく現有戦力を福井県内に展開することが予想されます。行動類型は災害派遣となります。

 一方で、こういった場合には当然住民避難も問題になりますが、原子力災害対策基本法によりまして、福井県内へと通じる北陸道や近畿自動車道敦賀線などの高速道路は一般車両の通行は全面的に遮断されることになります。つまり、一般道を使用して汚染区域外に脱出することはほとんど不可能であって、大変な交通渋滞が発生することは間違いなく、福井県内及び周辺地域の交通は麻痺することになります。

 南相馬市及び六ヶ所村近郊における防衛作戦の経過を見るまでもなく、「摩耗」の撃破は容易ではありませんから、自衛隊の防御作戦によっても幾つかの原子炉、それに関連する施設の襲撃は免れず、それによりまして建屋内に保管されている使用済み核燃料は、福島第一原発廃炉作業区及び男女みながわ原子力発電所襲撃の際と同様に、幾つかが地上に転落し、大気圏内で燃焼する事態が考えられます。

 そうなりますと、高速道路を使用しての避難が事実上不可能な一般車両につきましては、汚染区域外へと脱出するより以前に強い放射線に曝され、避難を試みようとする避難者又は汚染区域内残留を決意した者の区分に関わらず、急性放射線障害によってほとんどの方が亡くなることが予想されます。

 もし防御作戦が奏功して、福井県内で「摩耗」の撃破に成功した場合であっても、避難区域は近畿一円を含んで東海、北陸地方に拡がり、居住可能地域は岡山鳥取以西の中国、四国、九州、沖縄地方に局限されることとなります。汚染区域からの脱出に成功するのは、汚染区域の西方外縁部に居住するごく一部の方々にとどまることになります。

 近隣諸国家は、放射能汚染の拡大という事態を我が国政府が阻止できない状況を看過することはありません。「摩耗」の撃破に成功した場合であっても、使用済み核燃料保管用プールから転落した核燃料を撤去し汚染の拡大を防ぐために、軍隊を我が国領土に進駐させることは間違いありません。我が国が独力で、地上で燃焼する核燃料を撤去し得る能力がないことは、摩耗核惨事によって明らかなわけですから。

 更に、「摩耗」の撃破に失敗した場合も同様に、これを撃破するために我が国の領土内に軍隊を展開することは明らかであります。「摩耗」駆逐作戦に大量の資材を投入し、損耗した自衛隊の戦力では、進駐してくるこれら外国軍隊を阻止することができず、寧ろこういった外国軍隊による事態の収拾に期待する国民、政治勢力も一定数現れることが予想され、国論は二分されるでしょう。

 避難に関しましては、限られた国土内に多くの避難民を居住させることになり、仮設住宅を設置する面積の確保に困窮することが予想され、また経済的な打撃によって社会保障が滞り、多くの国民が海外への避難を希望することになります。しかし外国は、多数渡航してくる日本人が難民化することを恐れ、受け入れを一部にとどめるでしょう。

 国内では物流の途絶や生産ラインの壊滅、また政府に対する不信から通貨の信用が失われます。物品の絶対量が不足し、貨幣価値が下落することになりますから、大変なインフレーションに陥ります。円の国際的信用も失われますので、海外避難は更に困難なものとなります。既に海外避難している一部国民は、円の暴落により現有の財産では現地生活を維持することができなくなり、現地就労か帰国かを迫られることになります。

 このような状況に陥りますので、国際連合は日本政府の統治能力及び事態収拾能力に疑問を抱き、今度は国土の全部を国際管理しようと乗り出してくるでしょう。我が国政府はこれを拒否することができず、主権は全く失われることになります。

 現在、大気圏内で燃焼する核燃料の完全な撤去や廃炉作業、汚染された土壌の除染は技術的に確立されておらず、将来にわたり日本各地でこれに起因する公害が発生し続けます。経済崩壊に起因する社会保障の停滞は、医療や福祉に大打撃を与え、さらに放射線障害等によって国民の平均寿命は大幅に低下します。乳幼児の死亡率はアフリカの新興国並となり、世界水準から見ても最底辺のレベルに低下することが予想されます。

 放射性物質の半減期を鑑みると、こういった状況は最低でも三〇〇年は継続することになるでしょう。そして、ようやく立入禁止の指示が解除されたそのときに至って、かつて汚染区域だった我が国の国土に再び立つであろう人間が、遺伝的要素や言語、生活習慣を含めて我々の子孫に当たる「日本人」と呼べる人間である保障は、全くないのであります。

 以上が、「摩耗」再出現のよって予想される事態であります。

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