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摩耗核惨事  作者: pip-erekiban
第三章 参議院行政監視委員会
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米田参考人に対する意見聴取‐十一

(乾委員)

 八戸市内における水際阻止は検討しませんでしたか。

 常識的に考えると、リアス式海岸の断崖を乗り越えられないであろう「摩耗」が北上を続けた場合、直近の八戸で再上陸することは容易に想像できたはずです。


(米田参考人)

 お答えします。

 八戸における水際阻止については当然検討いたしました。委員は、八戸上陸は容易に想像できたはずだとおっしゃるけれども、もし予想が外れた場合、再度部隊を集結させることは道路事情等諸般の事情から考えても不可能に等しく、必ず出現する六ヶ所村近郊に部隊を配備したということであります。

 岩手県沖において阻止作戦を継続実施した結果、「摩耗」が攻撃部隊に対して何らの報復行動も取らず、重砲火器その他を一切投射しなかった事実から、我々といたしましては「摩耗」にはそういった周辺装備がないことについて確信を得ましたので、作戦開始時間が深夜未明でありましたことから、攻撃の実を挙げるため、探照灯によって「摩耗」を照射し、その姿を目視できる地点から一〇式戦車、九〇式戦車によって一斉に射撃を開始いたしました。同時に、後方に配備していた一五五ミリ自走榴弾砲によっても砲撃を実施したわけであります。この際、戦車については南側の「摩耗」侵攻予想経路を扇の要とすれば、それを取り囲んで扇状に戦車部隊を配備いたしました。これによって、防衛戦を突破された後の陣地変換を容易ならしめるためであります。

 「摩耗」は相当量の砲弾の直撃を受けながらも健在でありまして、想定していた防衛戦を突破されることが明らかとなった時点で扇の要を北側とし、陣地変換をおこなって「摩耗」背後から砲撃を続行いたしました。しかし、午前二時五十五分、核燃料再処理施設に対する破壊が開始され、空間線量の著しい上昇を観測し、汚染が懸念される状況に至ったため、作戦の終了及び全部対の撤収を下命いたしました。


(乾委員)

 想定されていた防衛戦を突破された後、戦車部隊は核燃料再処理施設に向けて砲弾を発射する場所に位置することになったわけですが、そういった施設に対する誤射の危険性を勘案すれば、防衛戦を突破された時点で砲撃を中止すべきではありませんでしたか。

 お答え下さい。


(米田参考人)

 もちろんそういった施設に対して誤射してしまえば、これは大変な事故につながるわけですけれども、弾殻だんかくの散乱その他を考慮し、攻撃可能な最大限度の範囲で攻撃を続行いたしました。

 砲弾を発射する方角が、単に北側に変わった、というだけであれば、我が自衛隊戦車部隊の練度からしてそうそう的を外すものではない、という自信はありました。


(乾委員)

 現場周辺は今も立入ができないほどの汚染区域になっております。したがって施設に対する誤射や、弾殻の散乱による施設破壊がどの程度本件核惨事に影響しているか、検証する術が現在のところありません。

 参考人は、現在退官して一私人となっている立場から虚心坦懐に事実を見詰め、施設に対する誤射や弾殻による施設の破壊が本当になかったと、自信を持って答えることができますか。


(米田参考人)

 その点に関しましては自信を持ってない、と回答申し上げます。たとえばこれが非常に小さな的であったとするならば、そういった誤射の可能性もあったと考えますけれども、本件の的というものは、先ほど質量から考えれば俊敏であると申し上げましたが、時速にしてせいぜい三〇キロメート程度の移動速度でありましたし、直径にして約二二〇メートルにも及ぶ巨大なものでしたから、これに対して的を外す、ということは、日頃の戦車部隊や自走砲部隊の練度を知っている私からすれば非常に考えづらいものがあります。相手が戦車程度の大きさしかなかったら、分かりませんよ。的も小さいし移動速度だってもっと速いですから。それだって、一〇式や九〇式の自動照準器で追い切れるんです。戦車よりも遥かに大きくて、移動速度も劣っている「摩耗」相手に的を外す、ということは考えられません。

 これはたとえば、今後、周辺の除染が進展して現場の検証ができるようになったら、やがて明らかになることだと考えています。できれば一刻も早く、そういった検証をおこなっていただきたい。同時に、撤収に失敗して現場に遺留されている多数の戦車、自走砲、その他車両に、今も遺留されているであろう搭乗員の救出も切にお願い申し上げます。現場は相当汚染されておると聞き及んでいます。ご遺族には申し訳ないことですが、「摩耗」崩壊とともに「摩耗」体外に流出した核燃料による汚染の中で、いかな密閉性が高い戦車内であろうと、食糧確保等の問題もございますし、半年以上生きながらえているという僥倖ぎょうこうを私は信じません。多数の人員が、今もあの汚染区域の中に、荼毘だびに付されることもなく眠っているのです。この場を借りてお願い申し上げます。どうか一刻も早い救助を皆様方にお願い申し上げます。

 以上です。

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