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摩耗核惨事  作者: pip-erekiban
第一章 本会議
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代表質問-一

六月十一日午後二時三分開議

第二〇X回臨時会開会に伴う国務大臣演説に対する代表質問


(榊原議長)

 それより会議を開きます。内閣総理大臣の演説に対する質疑を継続致します。野島伸彦君。


(野島伸彦君登壇)

(野島伸彦議員)

 昨日の総理の所信表明演説に対し、野党第一党を代表して質問申し上げます。

 質問に先立ちまして、議場の各党各会派の方々及び国民の皆様方に申し上げます。

 この度の核惨事による犠牲者は多数に上り、被災者避難者に至っては依然正確な統計が出されていない状況であります。本件核惨事は甚大な被害を我が国にもたらし、現在議場に座る議員の皆様方も、そのうちの約半数は被災者であるというのが現実であります。

 総理は昨日、所信表明演説の中で、個々の政策の是非はともかくとして、力強く我が国の復興を唱えられました。本件災害からの復興は独り政府や総理の希望ではありません。国民全体が希求して止まないところであり、私は野党第一党を代表する者として、明日の日本のため、復興に希望を託する全ての日本人のために質疑に立ちます。総理にありましては、私の覚悟に応え、真摯に質問に耳を傾けていただき、御答弁いただきたいと思います。(拍手)


 まず、総理が昨日示されました今後の復興計画について質問します。

 総理は、先の内閣において、我が党と与党国民主権党が合意に達した「核惨事発生に伴う脱原子力発電を目指す二党合意」について、当時の閣僚としてこれに同意の御署名を頂いたにも関わらず、その舌の根も乾かぬうちに合意を反故にし、昨日の所信表明演説において唐突に原子力発電の再稼働を表明されました。

 当時、合意形成の議論の場に野党第一党党首として私も加わり、政府閣僚と侃々諤々の議論の末ようやくたどり着いた二党合意の成立の経緯についてよくご存じのはずの総理が、その合意に反して原発再稼働を口走られた真意についてまずは質問致します。

 この度の災害につきましては、政府が「摩耗」と呼称し、根拠曖昧なまま恣意的に生物であると認定した巨大球体による物理的な国土の蹂躙により甚大な被害を生じました。加えて大量の放射性物質が当該巨大球体が破壊した原子力関連施設から漏出し、これが大きな惨禍を我が国にもたらしました。

 原発なかりせば。

 多くの国民がその認識を共有するところであると考えます。巨大球体が出現したとき、もしも原子力発電がなかったなら、どうだったでしょうか。

 歴史にIFはないと、定型文のように言われることがありますが、私は現在目の前に繰り広げられている惨状を見るにつけ、タブーであるIFを思わざるを得ません。

 原発なかりせば。

 東日本大震災においても、あれほど多くの国民が、長期間にわたり避難生活を強いられることはなかったはずであります。漏出した放射性物質による郷土の汚染は、被災者個人レベルにおいては生活の破綻、健康不安等をもたらし、地域レベルではコミュニティーの崩壊、延いて国家レベルでは実質的な国土の一部放棄という、主権国家にあるまじき失態を招きました。その被害は、過去全ての原子力発電によってもたらされた恩恵を以てしても、なお贖うことができないレベルに達しております。(「数字出せよ」と呼ぶ者あり)

 政権与党時代におきましては、核燃料サイクル政策に基づく原子力推進に関与した我が党は、真摯にこの過去の過ちを反省し、前内閣において「脱原子力発電を目指す二党合意」を政府与党に対して提案し、丁寧な議論の末に合意に達しました。

 原発なかりせば。

 本件核惨事においても、被害は巨大球体が上陸、侵攻した地域に局限され、今日のように甲信越以東の東日本の大部分から全国民の約半数が避難生活を強いられるような惨状を呈することはなかったのではないかと悔やまれます。

 総理に対しては、先の脱原子力発電を目指す二党合意の誠実な履行を求めるとともに、核燃料サイクル政策の一刻も早い放棄を求めます。(拍手)


 そもそも、政府が先に出現した巨大球体を生物であると断定した意思決定は、一体如何なる根拠に拠るものなのでしょうか。

 重大な責務を負う国政の場に、かかる荒唐無稽な議論を惹起せしめた政府の見識を疑います。政府が、なんの思惑もなしに、かかる非常識かつ非合理的な意思決定を行うものとは到底考えられません。そこで総理に質問致します。

 総理は、先の核惨事発生の際には防衛大臣として、対処の陣頭指揮に立たれました。その際、当時の佐竹内閣は、巨大球体を生物であると認定致しました。それによって、政府が自衛隊による災害派遣、害獣駆除という自衛隊の行動に法的根拠を与えた、いわば方便ではなかったかという指摘は現在も一定の説得力を持っております。

 先の災害において、政府は治安出動の下令という史上初の事態を前に、事態収拾よりも政権運営の安定を優先し、治安出動の範囲拡大という本来行うべき決定を行わずこれから逃げ、自衛隊による現場裁量権がより大きい災害派遣を選択致しました。これは、政府が主導すべき巨大球体駆除の責任を自衛隊に丸投げし、文民統制を放棄した決定ではなかったかと疑われます。政府はいわば、自衛隊に対するシビリアンコントロールを自ら好んで放棄したのであります。

 政府として巨大球体を生物と認定した意思決定の経緯いきさつ及び、国家の重大事案に際して政府主導による事態収拾の責任を放棄し、自衛隊にその責任を丸投げした経緯について、総理に説明を求めます。

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