尾形参考人に対する意見聴取-五
(尾形参考人)
摩耗につきましては、これを生物と仮定してお話しいたしますと、そもそも福島県沖海中から出現したことから、鯨などと同様の、海水による膨大な浮力に支えられて自重を保持していた海洋生物であった可能性が考えられます。こういった海洋生物が上陸する一つの大きな動機としては捕食行動が考えられます。
福島県沖というところは、依然として福島第一原発跡地から溶融燃料の取り出しに着手できておらず、地価に堆積しているであろう燃料デブリに接した地下水が海洋に絶えず流出し続けているところでありまして、こういった汚染水を浴び続けることで、突然変異的に巨大化した海洋生物があの巨大球体、摩耗だったと仮定した場合、海洋中に稀釈された状態で存在する放射性物質だけでは代謝を維持できなくなり、彼らにとってはより栄養価の高い使用済み核燃料や装塡核燃料を捕食するために上陸したということが考えられます。
私はその侵攻ルートについて詳細に調査を行ったわけではありませんが、ニュースで目にした巨大球体の移動方法を分析しますと、実に巧みに、自重が一点にかかることを避けている様子が読み取れました。
傍聴されている皆さんはボーリングという遊びをしたことがあると思います。私はどうにも下手くそで、そういう投げ方は出来ないのですが、ボールの進行方向がピンに対して直進方向を指向しているにもかかわらず、ボール自体は直進方向とは異なり、斜めや横方向の回転方向を示している場合があります。そういう投げ方をフックというそうですが、ニュース映像で見た限り、巨大球体がフックがかかったボーリングのボールのような挙動を示していたことは、自重が一点にかかるのを避けるためであると考えることが出来るのであります。
そのことを考慮した場合、球体表面に筋繊維状の紋様が入っていたことは示唆的であります。まるで鞠のように、複雑な筋繊維状の紋様が編み込ませるように刻まれておりましたが、おそらくはその筋繊維状紋様を蛇腹のように巧みに動かして、自重が一点に偏らないよう移動していたものと思われます。
政府による命名の由来にもなったそうでありますが、巨大球体の侵攻ルートを詳細に調査した結果、そのルート上の大地に削り取られ磨り減ったような紋様が刻まれていたそうであります。
また、巨大球体は個々の原発襲撃の際にその場に立ち止まるといいましょうか、停止した時を除いては常に異動し続けていたことも自重と関わりがあったと考えられます。あまりに自重が大きいために、捕食行動などやむをえない場合を除いて、常に移動し続けなければならなかったのだと考えられるわけであります。
捕食するために上陸し、自重を保持するために移動し続けなければならず、その移動のためのエネルギーを得るためにまた捕食して、得たエネルギーを再び捕食行動のための移動に消費する、というようなことを巨大球体は繰り返していたわけです。多分に自転車操業的ではありますが、生命の基本的営みそのものであります。
「摩耗」の映像がどの程度残されているか、私は報道されているニュース映像以上の内容は知りませんが、既に本体が崩壊している以上は、残されている映像を徹底的に解析し、真円率を測定するなどすれば、最終的に「摩耗」の身体が高い真円率を保持できなくなって自重を保てなくなったことがはっきり分かると思いますよ。今後の解析次第で自重に押しつぶされたものか、攻撃によって撃破されたものかは明らかになるんじゃないでしょうか。
(青木委員)
自重を保持しきれないほど巨大な生物という存在そのものが理解の外です。
(尾形参考人)
そもそも、先ほども説明したとおり、現在も海底の熱水噴出孔周縁にコロニーを形成して暮らしている嫌気性生物にとっては酸素は猛毒であり、酸素が有するエネルギーを代謝に利用する選択肢は彼等にはないわけです。したがいましてそのサイズは非常に小さなものにとどまっているわけですが、酸素を摂取できる生物は相応のサイズを有しています。現在よりもずっと酸素濃度が高かった時代の昆虫のサイズは、軽く一メートルを超えるものも存在しておりました。
直径にして約二二〇メートル、質量に至っては少なく見積もっても七十五万トンという当該巨大球体のサイズは、我々の常識から見れば確かに異常に巨大ではありますが、そのあたりの事情は嫌気性生物の常識から観察した我々の存在とそう変わりありません。我々の常識から放射性物質を摂取する生物の存在とサイズを推し量り驚嘆することに、さほど意味はないというふうに理解いたしております。




