尾形参考人に対する意見聴取-四
(尾形参考人)
暗室において五〇年にわたり幾世代ものショウジョウバエを飼育した事例について説明申し上げます。
この実験は、ショウジョウバエを光源のない真っ暗な環境におき、世代交代を繰り返すうちに、どれだけ世代を経たら遺伝子に変成を生じるか、ということを調べた実験であります。結果を申し上げますと、五〇年、一四〇〇世代を経た段階で嗅覚と視覚を司る遺伝子に、非常に微妙ではありますが明らかな変化が現出したということであります。もっとも年数というものは人間側の都合で便宜的に使用される時間の尺度なので、ここでは世代で考えてみましょう。ショウジョウバエのように、種の存続のためには雌雄の交配が必要な、比較的複雑な遺伝的構造を持つ生物ですら、僅か一四〇〇世代で環境に対する遺伝的変化が出現するわけです。なおこれを人間の尺度で考えてみますと、単純に一個体が十五年で生殖能力を得ることを以て一世代と仮定いたしますと、環境が変化したことによって遺伝的変化が生じるまで一四〇〇世代、実に二万一〇〇〇年の時間を要するということになります。
翻って単細胞生物が自己複製に要する時間を鑑みますと、環境変化に適応した変化を生じる期間は人間視点の時間軸に置き換えた場合、ショウジョウバエなどと比較しても更に短いものとなる可能性があります。
したがいまして、一九四五年に米国ニューメキシコ州で行われた所謂トリニティ実験によって人工核種が環境中に初めて拡散されてから既に八〇年近い歳月を経ておるわけですから、世代交代の早い種にあっては放射性物質に対し何らかの遺伝的変化を生じている生物種が出現していても何の不思議もないわけです。
ショウジョウバエはおよそ五〇年で遺伝的に変成した、という先ほどの話を思い出してみてください。実際高濃度の放射能汚染地域における奇形種の発生は世界各地で報告されています。そういった意味で、当該巨大球体が生命ではないと確定的に断定することは誰にも出来ないし、その可能性は大いにある、ということは政府担当者に申し上げました。
(青木委員)
ありがとうございました。決して政府担当者に対して、巨大球体が生物であると断定的にお話しされた事実はない、と理解いたしました。別の質問に移ります。
巨大球体は宮城県男女ノ川原発を襲撃した後、一旦女川湾に海没いたしました。この際、湾から周辺に押し寄せた津波の遡行高から、球体の質量が実に七十五万トンを超えていたものと推定されております。事前の観測においては直径にして二二〇メートルにも達していたことも判明しております。
質量に関しまして、大型タンカー数隻分もの重さを有する生物が、自重に押しつぶされることなく陸上を移動できたことについて、いかがお考えでしょうか。
(尾形参考人)
自重に押しつぶされることなく陸上を移動可能か、という委員のご質問ですが、誤解があるようなので説明しておきますと、私自身は巨大球体は最終的に青森県六ヶ所において自重に耐えきれず崩壊したものと理解しております。
(青木委員)
現在の廣瀬内閣総理大臣は当時、防衛大臣として本件核惨事に対処いたしました。廣瀬総理は防衛大臣在任当時から、摩耗については自衛隊の攻撃によって撃破されたものであると説明していましたが、参考人がそうではなく自重に押しつぶされたと考える理由について教えてください。