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摩耗核惨事  作者: pip-erekiban
第三章 参議院行政監視委員会
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尾形参考人に対する意見聴取-二

(尾形参考人)

 ただいまの委員のご質問にお答えいたします。

 先ず私は、政府からの意見聴取に対して当該巨大球体を生物であると認定した記憶も事実もともにございません。


(青木委員)

 新聞、テレビ等ではそのように報じられております。いかがでしょう。


(尾形参考人)

 もっとも、当時の政府担当者より、当該巨大球体が生物である可能性の有無についてご質問がございましたので、その件に関しましては、あのような生物が出現したとしても不思議ではない、ということは申し上げました。その点は事実であります。しかし、あたかも私が、巨大球体を生物と認定した責任者であるかのような報道がなされておりますけれども、それは事実と全く異なるわけです。


(青木委員)

 それでは尾形参考人にとっては誤解ともいえる報道がなされた理由については、いかがお考えでしょうか。


(尾形参考人)

 まあ、その点に関しましては報道の方が自由に報じられているわけでございまして、取材等が私のところにございましたら、ありのままお答えするつもりではございましたが、そういった取材のようなものの申し出は私は如何なるマスメディアからも受けていないわけであります。

 一応心当たりと言いましょうか、そういったものにつきましては、先ほど申し上げたとおり、あのような生物が出現したとしても不思議ではないという私の発言を以て、政府担当者が巨大球体を生物と認定し、マスメディアの方々がそのように報じたのではないかと思います。

 それでは政府担当者からの質問に対して、何故私が当該巨大球体に関して生物である可能性があると答えたかについて説明いたします。

 現在、地層調査等諸研究の成果によって明確に確認できる最古の生命は、約三十五億年前に生息していた海底の嫌気性生物であります。これらの生物は、空気を嫌う、という名前が示すとおり、現在我々が摂取している酸素を嫌いました。嫌いました、というよりも嫌気性生物にとって酸素は猛毒でした。これらの生命はいわゆる単細胞生物でございまして、酸化という現象に非常に弱い生物だったわけであります。ですからこういった嫌気性生物は、先ほど最古の生命であると申し上げましたが、現在も生息しておりまして、その生息域は太古から拡大することなく、相変わらず海底の熱水噴出孔周辺に限定されているわけであります。

 さてこれら嫌気性生物にとっての転機は約二十億年前に訪れたと考えられております。この時期に何があったのかといいますと、いわゆるシアノバクテリアというバクテリアが排出する酸素が、ようやく地球上に充満し始めた時期に当たるわけです。おそらく嫌気性生物にとっては環境の激変によって非常な困難に直面した時代だったのではないかと考えられます。

 しかしながら周知のとおり、その後生物は絶滅することなく、かえってカンブリア紀には爆発的に進化発展し、現在に至るまで地球上のあらゆる場所で繁栄を極めております。これは、我々の遠い祖先であるこれらの嫌気性生物が、いずれかの時点で酸素の無毒化に成功し、それだけにとどまらず、寧ろこれを積極的に摂取し、エネルギーに変換する術を得たことを示しています。

 さて嫌気性生物が酸素を摂取する術を得たことと、巨大球体が生物である可能性がある、と申し上げたことにどんな関係があるのかと申し上げますと、およそ生命というものは、環境変化等の困難に直面した際に、そのまま拱手傍観して絶滅してしまう種もあれば、我々の思いもよらない方法で環境に適応し、存続していく種もある、ということをいいたいわけであります。

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