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9/9

恐怖の親子丼――?

そして俺は……また目を覚ます……。

 明るい部屋でハッと目覚めた――。

 勢い余って、足で蹴っ飛ばしたのが……コタツの足だったのに気付くのに数分を要した……。


「あなた……、寝てたの?」

「はっ! ここは? ……まさかの、夢オチか!」

 コタツに入り、座椅子に座ったまま俺は……。ウトウトしていたらしい。

「……はあ? なに寝ぼけてるのよ。それより、早く食べないと冷めちゃうわよ、夜食――」


 ――あなたの大好きな、親子丼――。


 目を見張った。

 回転する丸ノコ、首を折られて捨てられる雛、食用に加工される廃鶏……。あれは全部……夢だったのか?

 いいや、そんなハズはない。

 目の前に親子丼が湯気を立てているのを見て確信する。あれは、鶏達の訴えだったんだ。この親子丼は、


 ――俺が御飯の上に乗っているんだ――

 転生してブロイラーになっていた俺が――


 今、俺がしないといけない事……。目を閉じて思い起こす。

「……いただきます……」

 両手を合わせて丁寧にお辞儀をすると、丼を持ち口へと寄せる。湯気と共にいい香りが嗅覚を奮い立たせる。

 一口食べると、卵の甘みと出汁の染みた柔らかい鶏肉の旨味が口一杯に広がり、涙が流れた――。


「ううう……まい、うまい、本当にうまい!」

 数年ぶりに食べたような錯覚に陥る……。親子丼の美味しさと熱さに、涙と共に鼻水が溢れ出るが、もう食欲を抑えられない――。箸を止められない!


 トウモロコシよりも格別にうまい!

 この世にある全ての食べ物で、一番うまい!


 丼に口を付け、流し込むように親子丼をむさぼる俺の姿を、妻は呆れた表情で見ていた。

「大好物だからって、オーバーねえ。ゆっくり食べないと血糖値上がるわよ?」

「うま過ぎる……ありがとう。ありがとう!」

 本当に――ありがとう!


「そんなに好きなら、生まれ変わったら、「親子丼」に……」


 ゴクリと飲み込み、箸がピタッと止まってしまう……。ヒヨコと鶏の鳴き声が鮮明に頭の中に響き渡る……。


 ピヨピヨ。


「い、いや……お、俺は……」

 鼻の奥がツンと痛くなった……。涙が目から頬、そして顎へと伝い落ちる……。

「俺は、生まれ変われるのなら……鳥になりたい。大空を飛び回る大きな翼を持った……」


 自由に飛び回れる、大きな翼を持った鳥――、

「――ではなく、人に食べられるためだけに……生まれて、寿命をまっとうせずに出荷される……ブロイラーに、俺はなりたい……」

 今は……なぜかそう思う。


 親子丼をこんなに美味しく食べているだけでは……その報いを、いつか人は受けなければならないのだ……。

 鶏だけではないんだ。

 他の生きるもの全てに感謝し、いつかは変わってその報いを、受けなければいけないはずだ……。


 ――転生してブロイラーになる日がくるんだ――。


「なにそれ? 変なの~」

 妻は隣で缶ビールの蓋を開け、一緒に置いてあった、鶏皮の唐揚げを頬張りビールで流し込んだ。

「……俺にも一口くれよ」

 缶ビールを妻の手から受け取る。

 心地良いシュワシュワとした音と共に、噛み砕かれた鶏肉と卵が胃袋へと運ばれて、代わりにゲップを口から吐き出した。



「ごちそうさまでした……」

 ……?

 ふと隣をみると、妻が缶ビールを片手に握ったまま、ウトウトしていた。


 ファンヒーターからは、生暖かい風が吹いていた。



ご愛読ありがとうございました!

感想や評価、お待ちしております!

「ピヨ、コケ、コ~」

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