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ヒヨコが可愛くなくなる日

「ビヨ……? ビ、ビヨ?」

んん? なんだか喉の具合がおかしい。可愛らしく鳴けない~!

 数週間が経っただろうか、俺は思春期を迎え声変わりをしていた。

「ビヨ……ビヨ……」

 昨日まで出せていた可愛らしい声が……急に出せなくなっていた。ピヨが出ない。

「ビヨ……」

 可愛らしいヒヨコが可愛くなくなる瞬間を……、まさか自分が演じるとは。


 所詮、鶏って……そんな扱いだよな……。小さいヒヨコの頃は子供達が「かっわいい~!」って目をハートマークにさせて近づいてきて、触って、頬ずりしてくれて……。

 でも、大きくなるにつれ見向きもしなくなり、鶏になった暁には、

「怖い!」

「赤色のトサカが気持ち悪い!」

「このチキン野郎!」

 ……だぜ。ハーっハッハッハ! 笑ってしまうぜ! ニワトリのバカ野郎だ!

「ビヨ、ビヨ」

 でも、鶏でもヒヨコでもないこの微妙な期間……。確かに可愛くないのかもしれない……。



「コーケコッコー!」

 朝でもないのに……鶏の鳴き声で目を覚ました……。なんて美しい鳴き声なのだろう……。

「コーケコッコー!」

 他の誰かも競うように鳴き声を上げる。


 鶏に生まれたからには……鳴かないわけにはいかないだろう――。どれ!


「コケコー、コッコ~オ~!」

 急に隣の鶏がクチバシデ俺の頭や顎やらを突いて、怒りを露わにしてくる!


 イテ! なにすんだてめー!


「コッコッコッコッ、コケー!」

 目を血走らせて必死についばんでくる。情けないが俺は逃げるのに必死になった。

 それでもしつこくしつこく尻尾の辺りの毛をついばみ、大事な尾羽が数本抜き取られて散らばった――!

なにしやがるー――!

 温厚な俺も、その散らばった羽を見た時にはさすがに怒り、我を忘れた!


 ――トサカにきた~!


 追いかけてきた鶏の方を振り向くと、一気にそいつの赤い炎のようなトサカへとクチバシで猛攻撃し、突いて、噛みついて、血が流れ出るまで突く!

「クルルッ! クルルッ!」

 向こうも負けじと俺のトサカを突く! こちらも負けじと突く!


 赤いところを突く! 血が流れているところを狙ってさらに突く! 向こうがこちっちを向いている限り、突いて突いて突きまくっていると――、急に背を向けて逃げていった。


 ――待ちやがれ!

 追いかけようとしたとき、大きな人間の手によって俺は抑え込まれた!


 放せバカ野郎! あんにゃろうを……血祭りにしてやるんだ! ブラッドフェスにしてやるんだ~!


 もう、さっきの奴がどこへ逃げたのか分からなかった。それどころか、なんで俺がそんなに怒っているのかすらも……忘れていた。

 掴まれた人間の手から見渡すと数千羽の鶏が色々なケージに種類ごとに分けて入れられていた。まるで純白の汚してはいけない絨毯のように……敷き詰められている。


 人間の手から放されると俺はトボトボと水飲み場へと向かい、水に顔を付けてブルブルっと額に着いた血と水を飛沫にして飛ばす。

 そして零れている糞付きの餌をまた……ついばみ始めた。


 ぼーっと鶏の脳で考えていた……。働かずに食べていけるのなら……働かなくていいだけ人間より幸せなのだろうか? 毎日毎日、勉強に明け暮れた学生時代。その後は、就職して犬のように働いて、飯を食って、夜遅くまで毎日毎日残業して……。ここでの生活と……何ら変わらないのではないだろうか……? 絨毯のようなブロイラーのうちの一匹と……。


 足元に転がる餌をついばむ。

 不便といえば……WI‐FI環境が整ってなくて、ネットが出来ないことくらいか……。


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