モブモフ長は隠れキャラに餌付けされる。
異世界スイーツ短編参加作品です。
エセ乙女ゲーですみません(泣)
よく仕事したのです。
少し休みなのです。
私は置いておいたタオルケットにくるんと包まって横になった。
「長〜ってまたかよ」
「寝るのです」
「執務机で寝るんじゃねぇ」
タオルケットごとアゼルに持ち上げられてぽいっとソファーに投げられた。
空中でタオルケットをはがしそこねてそのままぽすっとソファーにおちる。
「長……あんた職業間違ってる」
「むっー諜報は家業なのです」
必死でタオルケットから顔を出して抗議したのです。
私はモモンガ獣人でウーフィというのです。
「ったく、このちみっこ長はよ、せっかく社食に寄ってオリビエさんからの差し入れもらってきたのに」
「ありがとうなのです」
バスタオルからもぞもぞでてアゼルの持ってる袋に飛んだ。
袋にそのまましがみついた。
「長、あんたやっぱり職業間違ってる」
ゴソゴソと頭を突っ込んで生クリーム大福を出して顔を上げるとアゼルが呆れたような顔した。
「じゃ、何があってるのです? 」
「…………愛玩動物? ……」
アゼルが小首をかしげた。
そして落ちそうになった私を抱きかかえた。
「それ、職業じゃないのです」
「それしか思いつかない」
「むっーひどいのです」
パシパシとアゼルを叩くとはいはい、一服しましょうねとタオルケットに降ろされた。
むっー小荷物じゃないのです。
「ミルクたっぷりだよな、愛玩長」
私、専用のデミタスカップを渡されたので両手で抱えた。
「ありがとうなのです、ミルクティー美味しいのです」
ゴクゴクのんで小首をかしげた。
むっー愛玩長ってなんなのです?
愛玩動物じゃ無いですかとアゼルがわらってソファーに腰掛けた。
「王妃様に報告書を届けたのですか? 」
「はいはい、届けましたよ、あれ嫁姑問題で使うんですかね? 」
アゼルが顔をしかめた。
ブラックコーヒー入りのマグカップをあおった。
「諜報活動によるとちがうとエアルの報告書にあったのです」
マンゴー生クリーム大福にかじりついた。
むっーなかなか餅が噛み切れないのです。
「そうなのか……長、大福も食えねぇのかよ」
呆れたようにアゼルが給湯室からキッチンバサミをもってきて大福を切ってきくれた。
「ありがとうなのです」
「……で王妃様はなにをやりたいんだ? 」
「おとめげーうぉっちんぐ? とかなのです」
おとめげーってなんなんでしょうか?
「あんなにすきがなさそうなのに……いうのことかいておとめげーうぉっちんぐ……よくわかんねぇ」
おとめげー自体したことねぇよ。
俺は剣と魔法と学園モノみたいのに転生してモフモフハーレムを……愛玩動物しかいない……俺は人間族だしよ〜。
とアゼルがよくわかんないことをぼやいた。
ハーレム持ってるのは兎獣人族の長のウリル様なのです。
娘のラレル様は王弟シルフィード殿下の婚約者で泣き虫でお間抜けなのです。
「そんな情報いらない」
そういいながら私を抱き上げた。
「むっー愛玩動物扱いしないのです」
私はデミタスカップからミルクティーをすすった。
「このモフモフ感癒やされるな」
アゼルが私を撫で回してるところで扉がそっと開いた。
「……アゼル……長、独り占め協定いはん」
黒猫獣人のエアルが静かに入ってきた。
そしてそのまま私に茶色い丸いお菓子をくれた。
「お前だって抜け駆け予定だったみたいじゃないか」
「カルメ焼きなのです〜」
ホクホクと私はデミタスカップを文句言うアゼルに渡してかじりついた。
「……学園に……お姫……見に行った」
エアルが私の頭を撫でた。
ああ、ウエリ王国の本当は留学生で王子な姫君の諜報に学園に行った帰りに街の屋台でカルメ焼き買ってくれたのですね。
「あの姫君、監視する意味あるのか? 」
「……面白い」
むっーそんなにおもしろいのですか、私もいつか学園の天井裏から覗きたいです。
そうにつぶやいたら二人がそれは無理という顔をした。
むっーどうせポテっと落ちるのです。
事務仕事しかできないのです。
「なんだ、もう餌付けタイムだったのかい? 」
「オリビエ〜生クリーム大福ありがとうなのです〜」
猪族のオリビエがなにか持って入ってきたのでブンブン手を振った。
「餌付けって……まあ、そうだがよ」
「……オリビエさんも……抜け駆け」
アゼルとエアルがオリビエを見た。
「タヌちゃんがさぁ、中々楽しそうな甘友ハーレム形成しててさぁ」
オリビエは社員食堂のパティシエという表の顔を持っていて裏では諜報をしている。
「タエーナシア外務文官の情報必要なのか? 」
「たぶん、必要なんじゃないかい? 」
オリビエはそういいながらスプーンとカップを私に持たせてくれた。
黒いつやつやしている冷たそうなゼリー?
「甘いのです」
やわらかくてあんこの味がするのです。
うっとりするのです。
「新作の水羊羹だよ」
「あんこの味がするのです」
「うん、それと同じ豆を甘く煮て裏ごしして寒天で固めたものだからね」
気に入ったのなら良かったとオリビエが私の頬をなでた。
オリビエは時々こうして新作食べさせてくれるから大好きなのです。
「あらあら、モブモフちゃんは逆はーね」
綺麗な声がして扉が開いた。
地味な格好をした美人エルフが狼獣人の護衛を連れて入ってきた。
「王妃様」
私はすぐに床に降りて礼をとった。
部下たちも礼を取ってる。
「いいのよ、うふふ、諜報部に隠しキャラいっぱいでモブモフちゃんがこんなに可愛いなんて」
王妃様は嬉しそうに私の手を持って可愛い〜ちっちゃい〜と笑った。
なんで王宮のはしのはしの諜報部に王妃様が来てるのですか?
モブモフちゃんはゲームでミニキャラで諜報部にいたけどスチルはなかったのよねぇと王妃様がうわ言のように言ってるのです。
モブモフちゃんってなんですか?
「王妃様、ご用事はお早めに」
「そうね、実は今度タエーナシアちゃんを囲むお茶会をするからジェルアイナ様の情報が欲しくて」
護衛にうながされて王妃様が私の手を離した。
エアルがそっと記憶端末のクリスタルを王妃様に差し出した。
「引き続き諜報おねがいしますわね」
王妃様は嬉しそうに受け取って端末を通信機に差し込んだ。
見るのはお部屋でと護衛にうながされて王妃様はしぶしぶ出ていった。
モブモフちゃん今度お茶会しましょうねと微笑んだ顔を見た時に少し寒気がしたのは気のせいなのです。
アリーナ嬢と王太子エルリック殿下及びラレル嬢と王弟シルフィード殿下がイチャイチャしていたというのは想定内なのです。
そのお茶会で姫君が作った茶色のお菓子でタエーナシア外務文官がむせるのをうっとりと姫君が見ていたのは不気味なのです。
今日もよく働いたのです。
タオルケットに包まってゴロリと机に横になったところで今度はエアルが現れてタオルケットごと抱き上げられた。
「……ジェルアイナ姫……側近ヘイル氏……街……謎の……集団……密会」
耳元で囁かれて何故か耳元をアマガミされた。
「エアル? 」
「……長……いい匂い」
うっとりとエアルが私に顔を寄せた。
あ……オリビエ特製のまっちゃクッキーつまみながら仕事してたのバレたですか?
「まっちゃクッキー、食べますか? 」
「……長がいい」
エアルが私の頬をなめた。
ほ、捕食者でしたっけ?
「おい、抜け駆け禁止」
「そうだよ、餌付けタイムは一緒に」
アゼルとオリビエが入ってきた。
「ち……はな……いい」
エアルが私を抱きしめたまま後ろに飛んだ。
「長を放しやがれ」
モフモフ長しか俺にはいないんだぞとアゼルが叫んでタオルケットを掴んだ。
「むっーアゼルはモテるのです」
侍女のお姉さんや武官のお姉さんにかっこいいと言われてると情報がメリーから届いているのです。
「食われかけてるぞ、危機感なさすぎ」
「やっぱり捕食者なのですか? 」
きがついたらエアルにほほなめられてたのです。
「……長……」
なんかハアハア言ってる。
「助けてなのです〜」
エアルの手をパシパシ叩いた。
「長、刺激しちゃあダメですよ」
気がつくとオリビエがそっと近づいてきたので思い切ってその腕に飛んだ。
「……返せ……僕の……」
エアルが逆毛を立てて威嚇する。
アゼルが前に立って小太刀を構えた。
オリビエが私を首の後ろにしがみつかせてパレットナイフを構える。
走る緊張感に思わず震える。
「ちみっこ長はみんなで餌付けってきめたはずだ」
「威嚇すると泣かれますよ」
二人が緊張感のない発言をした。
むっー私、餌付けしてる愛玩動物じゃないのです〜。
「……長大好き、僕だけもの……」
エアルはうちの本家の坊っちゃんで認められないって泣いてたのを拾ってきたのです。
初めて見たものを親と勘違いしているのと同じなのです。
エアルが爪を出して襲いかかってこようとした瞬間にまた扉が開いた。
「ウーフィちゃん、本業終わったから副業〜」
騎士の格好をした白い獅子獣人がのそりと入ってきたのです。
「メリー助けてなのです〜」
私はエイッとたくましいメリーの元に飛んだ。
メリーは女の子だから安心なのです。
「あんたら……ウーフィちゃんの取り合いってどういうこと?」
メリーが私を抱きしめて闘気をだした。
さすが本業近衛騎士、すごいのです。
「メリー姐さん、落ち着いて」
「餌付けタイムをめぐってだよ」
「……長……僕の……」
アゼルたじろぎオリビエ余裕でエアルは思いつめてメリーにたいじした。
「こんなちっちゃい愛玩動物をいじめるなんて良い度胸だわね」
メリーがみんなを睨みつけた。
走る緊張感……って私愛玩動物なのですか?
「……お茶……」
エアルはため息をついて給湯室に行った。
「長はミルクたっぷりだぞ」
アゼルが小太刀を収めてついていった。
「今日のお菓子は水饅頭ですよ」
オリビエがパレットナイフを収めて箱をテーブルにおろして棚から皿とフォークを出した。
「本当にかわり身が早いわね」
メリーが私を抱いたままソファーに座った。
「綺麗なのです」
紫やピンクの餡が入った水饅頭にうっとりしたのです。
「可愛いね」
オリビエがにっこり笑ってちっちゃい私にジャストサイズの水饅頭を渡してくれた。
噛み切れるのです、美味しいのです。
「めんどくさいウエリ王国の側近はとらえて強制送還したし、当分本業はいそがしくないからおとめげーうぉっちんぐの方をしたいわ」
本当は王子な姫君担いで革命なんてゆめの見すぎよねとメリーがつぶやいて水饅頭を手にとった。
「タヌちゃんも巻き込まれたようですね」
オリビエが水饅頭を皿にわけ終えたところでお茶が来た。
タヌちゃんってタエーナシアさんですよね。
低身長仲間でとっても親近感があります。
お気の毒に……直接会話したことないけどぜひオリビエの甘味で癒やされてほしいのです。
甘友ハーレム作ってるのに恋人は辛党らしいですけどね……
たまにはお外に出ようとメリーに誘われたのです。
お外……メリーがついていれば大丈夫なのです?
「むっーダメだったのです」
私はメリーの腕の中でうなった。
社員食堂の前で待ち構えたように奴らがいたのです。
「落ちこぼれが良くも顔をだせたね」
黒猫獣人のジュリーが嫌な笑いを浮かべた。
「兄様は元気ですの」
ジュリーの双子のタリーいたのです。
エアルの異母兄弟だけど苦手なのです。
二人の職場は諜報機関本体の精鋭で私のうちの本家なのです。
私は猫獣人が出なかったし諜報活動ができないので落ちこぼれ扱いなのです。
私のお父さんがモモンガ獣人で結婚を反対されたのです。
「小うるさい連中ね」
メリーがいきりたった。
「おばさまは優秀ですのに」
「分隊の長をこんな落ちこぼれがなんて……」
二人の黒猫獣人がそっくりの顔で嘲笑った。
確かに落ちこぼれなのです。
情報整理しかできないのです。
涙がボタポタと落ちてきたのです。
泣いたらますますバカにされるのです。
「あら、モブモフちゃんは優秀よ、きちんと裏の裏まで読んで情報が来てるもの」
綺麗な声がして振り向くと王妃様が優雅にレースの扇を扇いで歩いてきた。
急いでメリーから飛び降りて礼をとった。
「この間の裏情報ありがとう、おかげでウエリ王国にうまく恩が売れたわ」
王妃様が私の頭をなでた。
「ありがたいお言葉なのです」
「いいえ、正規筋では姫君が転生者まではつかんでなかったの」
私の頭を撫でながら礼をする双子をちらりと見た。
「次こそは必ず」
ジュリーが悔しそうに答えた。
「頑張ってちょうだいね、私の諜報機関に負けないように」
王妃様が華のように笑ったのに少し寒気がした。
「今日は逆ハーじゃないの? 」
双子を無視して王妃様が私を見た。
「今日は私とデート中です」
メリーがにっこりわらった。
「あらいいわね」
「王妃様、お時間でございます」
「残念ね、またいい情報を期待してるわ」
王妃様がにっこりわらって私をなでて去っていった。
双子が睨んだのでめんどくさいと思いながらメリーに飛びついて社員食堂に入った。
「……長……」
「やっと来たか」
「オススメはこちらのマンゴープリンですよ」
私の部下たちがニコニコ待っている。
うん、頑張るのです。
双子や本体に負けずに楽しい役に立つ諜報活動を行うのです
諜報機関王妃陛下所属分室で頑張るのです。
「そのための英気を養うのです」
「餌付けタイムだよ」
「……長、買ってきた……」
「お茶はミルクたっぷりでな」
私は社員食堂のテーブルに飛んだ。
長〜椅子に座りやがれ〜。
ウェーターのケンさんに睨まれてますよ。
……わたあめ……
何はともあれ幸せなのです。
これが逆ハーなのです?
「そうだけど違うのよね」
メリーがため息をついたのです。
甘いものは美味しいのです。
でも、餌付けタイムってなんですか?
私は愛玩動物じゃないのです。
モモンガ獣人で立派に大人なのです。
マンゴープリン美味しいのです。
明日も諜報活動のまとめ頑張るのです。
本当にウーフィちゃんは誰が好きなんだろうねとメリーがお茶を飲んだ。
えーと惚れたはれたはとりあえずわからないので仕事頑張るのです。
今日もよく仕事したのです。
少し寝るのです。
「だから〜タオルケットに包まって執務机で寝るなって言ってるだろうがこの愛玩動物〜」
いつも通りアゼルにソファーにタオルケットごと投げられた。
ひどいのです〜。
「きんつば持ってきたよ」
「……リンゴ飴……」
オリビエもエアルもきたのです。
メリーは本業が忙しいと言ってたからこれで全部なのです。
みんなに囲まれてる日常が一番なのです。
だから頑張るのですー。
お茶飲んだらもっと頑張るのです。
そう思いながらアゼルの膝の上で専用デミタスカップからミルクティーを飲んだのです。
読んでいただきありがとうございます♥