私の走る意味7
「入院中に少し太ったんじゃないか?」
「そうゆうことを女の子に対して言うかな?」
私たちは学校から出て帰り道を歩いている。
「だいたいサカキがおぶってやるって言ったんだよ?」
「それはそうだが、まさかここまでとは」
「これは全部が私の重さじゃないんだよ。松葉杖とかカバンの重さも入ってるんだからね。というか、明らかに重いのはサカキのカバンだと思うけど。一体何冊本入れてるの?」
「秘密だ」
私たちはくだらない話をしながら帰り道を歩く。
もっとも歩いているのはサカキで私はその上におぶさってカバンと松葉杖を持つ係りだけど。
「なあ」
「何?」
「走れなくて辛いか?」
教室の友達はこんな質問絶対してこない。それは触れてはならない暗黙の了解みたいなもので、その話はしてはいけない空気ができているからだ。
でもサカキは、私と対等でいてくれるから。あえて空気を読まずに聞いてきてくれる。
私も気を使われてその話を避けられると正直つらかったから最初に全部言っておきたかった。
「辛くないよ」
私は笑顔で言った。私を背をっているサカキには見えないのだろうけど。
「だって。私の走る理由はもうなくなっちゃったから」
「なんだ?走る理由って?」
「サカキに見てもらうこと。でももうそうやってサカキの気をひく必要もなくなったから。今はこうしてサカキと一緒に歩いていたい」
「実際は俺が背負って歩いてるんだけどな」
そういってサカキは少し笑った。
たしかにと私も笑った。
夕焼けは燃えるような赤い色で、入道雲も赤く染まっていた。
セミの鳴き声がうるさくて、夏のにおいがする。
いつまでも続く幸せはない。でも、いつだって幸せになれる。
私はサカキの背中でそんなことを考えていた。
私は口笛でスタンドバイミーを吹く。
サカキも私に合わせて二人で一緒に口笛を吹いた。
これからきっといろんなことがある。
つらいことも大変なことも楽しいことも面白いことも悲しいことも。
でもどれもサカキが隣りにいてくれたならきっと乗り越えられる。
だから私のそばにいてください。
私は声に出さずにサカキの背中でそう願った。