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第八話

「……う……ん……。」

目が覚めると目の前には見知らぬ天井があった。

「…ここ……は…?」

体を起こそうにも体が全く動かない。視界の端にかすかに点滴が見える。どうやら治療されているらしい。

「気がついたようね。」

凛とした声が聞こえた。同時に銀髪の女性が顔を覗き込んできた。

「…だれ…?」

「私はミーティア。貴方たちを助けてここまで連れて来たのよ。」

「…っっ!!ルナは…ルナは無事なのか?」

「安心して、妹さんも生きているわ。少なくとも貴方よりは軽傷よ。」

「ルナは…どこですか…?」

「別室で治療中よ。」

「いかなきゃ…。」

起き上がろうにも体が言う事を聞かない。

「無理よ。貴方はもう一週間も意識を失っていたのだから。少しずつ体を慣らしていかないと。」

無理に起き上がろうとする俺をミーティアさんは制した。

「くっ……。」

「ところで貴方名前は?」

「ヴァン…ヴァン・ヘルシングだ。そういえばここは一体…?」

「ここは、聖王騎士団本部の中よ。」

「聖王騎士団って確か…昔…父と母がいた…。」

「貴方の両親はかつての同僚よ。改めて自己紹介すると私は聖王騎士団第七特務部隊所属ミーティア。貴方の両親もかつては私と戦っていたわ。」

「そうですか…。」

「…聞かないのね。貴方の両親の事。」

「覚悟はしてましたから…。」

「そう…。貴方の両親は立派だったわ。今日はもう休みなさい。すぐに動けるようになるわ。」

そう言ってミーティアさんは部屋を出ていった。


「……ん……。」

いつの間にか眠っていたらしい。目の前にはさっきと同じ天井。

「……いっっ……。」

全身を貫くような痛みがあるが何とか起き上がれた。

「…ルナ…。」

そのままベッドから立ち上がろうとしたが、足に力が入らず床に倒れることになった。体が鉛のように重い。なんとか立ち上がろうとしていると急にドアが開いた。

「何をしているの。まだとても動ける状態じゃないわ。」

部屋に入ってきたのはミーティアさんだった。ミーティアさんに助け起こされる形でベッドに戻った。

「まったく、無茶をするわね。あと数日は治療に専念しないと傷口が開いて悪化するわよ。」

「…俺は…ルナのそばにいないといけないんだ…。」

「……。」

「ミーティアさん。ルナの容体はどうなんですか?」

「……傷の方はたいしたことはないわ。ただ、まだ意識が戻っていないわ。」

「…意識が…戻っていない……?」

「そうよ。」

「……。」

「私からも質問していいかしら?」

さっきまでとは違う真剣な表情をしてミーティアさんは言った。

「なんでしょうか?」

「貴方が意識を失う前に何が起こったのか話してくれないかしら?」

「……。」

「私が分かっていると言っても推測だけど、貴方たちは魔族の集団に襲われた。貴方の両親は貴方たち兄妹を逃がすために戦い、貴方たち兄妹は逃げる途中で襲撃を受け倒れた。でも不自然な点がいくつかある。まず貴方たちがなぜ生きていられたのか?普通の魔族なら人間を放置してどこかに行ったりはしない。間違いなく止めを刺していくでしょうね。貴方たちを見つけた場所の近くには魔族の死んだ跡があった。考えられるとすれば、何者かが魔族を倒したために貴方たちは殺されずに済んだという事。仮に誰かが通りかかって魔族を倒したのなら貴方たちを放っては行かないでしょう。そう考えると可能性としてあるのは貴方たちが魔族を倒した。でも武器もなしにどうやって倒したというの?」

「…あの時…突然…手の中に剣が現れたんだ…それで…あいつを刺した…気がついたらその剣はなくなっていた…。」

「…なるほど。貴方も異能者なのね。」

「…異能…者…?」

「ある特殊な能力を持った人の事、私もその一人よ。」

「…。」

「まぁ、異能者については後で説明するわ。話を続けていいかしら?」

「…はい…。」

「貴方が倒した魔族というのは吸血鬼だったんじゃないかしら?」

「…そうです…。」

「そして、貴方の妹はその吸血鬼に噛まれた、そうよね?」

その言葉に心臓が凍りついた。ここは聖王騎士団本部、聖王騎士団の目的は一般市民を魔族の脅威から守ることにある。そして、吸血鬼は魔族であり、吸血鬼に噛まれた人は吸血鬼になる。すなわち、ルナは…。

「先に言っておくけれど、私は貴方の妹を殺すつもりはないわ。貴方の妹には確かに吸血痕があったけれど不思議なことに吸血鬼化が進んでいないの。」

「…えっ…。」

ミーティアさんの言っている意味が分からなかった。呪いを浄化できなかった以上、ルナが吸血鬼になるのは必然と言える。だが今ミーティアさんは吸血鬼化が進んでいないと言っていた。襲われてからもう一週間以上もたっているのに吸血鬼化していないのは通常ではありえない。

「それから、もう一つ。貴方は吸血鬼に噛まれた直後の貴方の妹に噛まれた。普通ならこの時点で貴方も吸血鬼化してもおかしくない。でも貴方からは吸血鬼の呪いは検出されなかった。貴方をここに運んで治療する際に貴方の体を調べさせてもらった結果分かったことよ。」

「…どういう事ですか?」

「検査の結果、貴方の体から異常な量の退魔属性の魔力が検出されたわ。考えられる可能性としては、貴方のその異常な退魔の力が貴方の体内に侵入した吸血鬼の呪いを浄化したということ。」

「なっ……。」

「ただ、そう考えれば全部説明がつくわ。これほどの退魔の力があれば吸血鬼を倒すことも、貴方が吸血鬼の呪いに侵されていないことも、そして貴方の血を飲んだ貴方の妹の吸血鬼化が進まないこともその全てがね。」

「……。」

「ただ、あくまでも仮説にすぎないわ。確かなことは、貴方の妹は吸血鬼化が進んでいないといえ、今もなお吸血鬼の呪いに侵されているということ。すでに聖水による浄化は効果がないわ。」

「…そんな……それじゃぁ…ルナは…。」

「貴方の妹が完全に吸血鬼と化し、本来の自我を持たずに行動するのであれば、私は彼女を吸血鬼として処理するわ。」

「……。」

「少なくともまだ彼女が人である以上、私は彼女を人として扱うわ。それだけは安心して。」

「……。」

「明日には動けるようになるわ。今日はもう休みなさい。」

そう言ってミーティアさんはドアに向かった。

「……ミーティアさん。」

「何かしら?」

ドアの前でミーティアさんは振り返る。

「……ルナは…助かりますか…?」

「…何とも言えないわ。彼女しだいかもしれないわね。」

そう言ってミーティアさんは部屋から出ていった。


「…………。」

ミーティアさんが出て行ったあと、すぐには眠れなかった。さっきの会話が頭の中でグルグルと渦巻いていた。異能者、異常な量の退魔属性の魔力、呪いを受け付けない体、自分がそういう存在であると知らされてもなおルナが吸血鬼化の危機にあるのは変わらない。ルナを助ける事ができない。

「くっ…そ……。」

守ることも助けることもできない無力な自分を呪った。ルナを守るためなら、助けるためならば、どんなことでもしよう。例えそれが世界を敵に回すことになろうとも…。そう心に誓った。


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