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第三話

 馬車を降りて薄暗い森の中を進んでいく。先頭を行くのはシルフィール、その後ろにルナ、ヴァンと続く。三人で任務に出る時はだいたいこの隊列で行動する。ルナが吸血鬼であることをシルフィールは知らない。そのため、前回のようにルナが直接戦闘に参加することはできないため、ルナを囲む形で動く必要がある。風術使いでもあるシルフィールの攻撃範囲は広いため、前方からの敵に対して効率的に対処することができるため、この隊列は理想的と言えるだろう。森に入った時からすでに敵の気配がしていたがそれが徐々に強くなってきた。

「ルナ、周りの状況はどうだ?」

「森の奥からかなり大きな魔力を感じる…。」

「そうか、もう少し先に進むか。」

「えぇ、行きましょう。」

周囲を警戒しながら先に進む。少し進むとルナが足を止めた。

「兄さん、いやな感じがする…。誰かが探索魔法を妨害している…。」

「シルフィール、右だ!」

前方右側の茂みから突然魔物がこちらに向かって飛び出してきた。

「はぁっ!」

そこにすかさずシルフィールが大剣を振るう。大剣そのものは魔物には触れなかったものの同時に発生した暴風と真空波で魔物は吹き飛ばされながら真二つになった。

「いけない…。囲まれている。」

「ルナ、下がってサポートを頼む。シルフィール、ここで迎撃するぞ。」

両手に剣を創生し構える。

「えぇ、派手な歓迎ね。」

「来ます。前方から三、後方から二。」

「はぁっ!」

先ほどと同じようにシルフィールが大剣を振るい、暴風が魔物に襲いかかる。同時に大剣の重さを感じさせないような素早い動きで魔物に接近し、大剣で叩き切る。その後も次々と襲いかかってくる魔物を集団になると暴風で吹き飛ばし、素早く接近して切る。一方、ヴァンも両手の剣で次々と切り倒しながら、たまに剣を投げつけるなどして、あっという間に屍の山を築きあげていく。

「強力な魔力反応…兄さん。」

茂みの奥から突如強力な魔法弾が飛んできた。持っていた剣を投げつけ魔法弾を無力化する。同時に茂みの中に切りかかるが剣で受け止められた。

「くっ…。」

茂みの中にいたのは大柄な男のような上級魔族。人間との違いは頭に鬼のような角が生えていることだ。上級魔族の多くは人型であることが多い。この魔族も例にも漏れず人型であった。

「ほう、人間にしてはなかなかやるようだな。」

「くっ…将軍級ジェネラルか。」

後ろではシルフィールが数体の人間の形をした黒い影のようなものと戦っていた。おそらく、悪魔バスタードだろう。

「だが貴様らはここで死ぬ。絶望するがいい。」

「させるかよ。」

剣と剣がぶつかり合い激しい火花を散らしながら、将軍級を攻撃する。先ほどまでの敵と比較すれば比べるまでもなく強い。お互いに攻撃が通らない状態が続く。一瞬間合いが離れた瞬間に魔法弾を構えられた。

「くらえ。」

この距離では回避が間に合わない。魔法弾が放たれる直前、別の魔法弾が将軍級の魔法弾に命中し、どちらも消滅した。

「兄さん。」

「助かった。ルナ。」

一気に接近し、剣で切りかかる。剣で受け止められた瞬間、ヴァンの剣の切っ先が折れた。それを見た将軍級は一瞬にやけたが次の瞬間、その顔は驚愕の表情へと変化した。折れた切っ先から大量の退魔の力が放出され、光の刃となって襲いかかり、袈裟がけに切りつけられる。

「ぐあぁぁぁぁぁぁ…ばかな…この私が…。」

そうして将軍級は、光の中に消えていった。

「兄さん、大丈夫?」

「あぁ、さっきは助かったよ。それよりシルフィールは?」

「こっちも今終わったわ。とりあえず、周りに敵はいないようだけど…。」

「ルナ、どうだ?」

「魔力反応なし…。敵は、いないみたい。」

「そうか。なら少し休憩できるな。」

全員が一息つこうとした瞬間、強い殺気を感じた。

「そんな…さっきまで反応は、なかったのに…まさか転移魔法…。」

ルナが異変に気づくと同時に三人の頭上にマントを羽織った男が浮いていた。圧倒的な魔力と威圧感を放ちながら三人を見下ろす。

皇帝級エンペラー…なぜここに?」

「ふむ、これ程の力を持った人間は、久しぶりだな。」

相手が皇帝級である以上、下手に行動できない。先ほどの将軍級とは比べ物にならない程の強敵だ。

「(兄さん…。)」

ルナが思念会話で直接話しかけてくる。

「(私の力ならなんとか…。)」

「(それはできない。ここにはシルフィールがいる。)」

「(でも…。)」

ルナが危惧している事は分かる。だが、今ここでルナが吸血鬼化すればシルフィールがそれを知る事になる。聖王騎士団に討伐されるべき吸血鬼が所属していること自体禁忌である以上、ここで知られる訳にはいかない。

「シルフィール、やれるか?」

ルナの力を使えない以上、二人で戦うしか方法がない。

「命がけで五分五分ね。」

「同じくだ、今は生き残る事を優先しよう。」

そう言って武器を構える。圧倒的な威圧感に体が震え、本能が逃げろと言っている。だが、ここで引く訳にはいかない。先手を撃つために一歩踏み出した瞬間、目の前に雷が降り注いだ。

「くっ…。」

間一髪でかわしたが同時に相手の力を思い知る結果になった。相手は魔法を詠唱せずに直接放ってきた。下手に動けば、こちらが攻撃する前に一瞬でやられる。

「無駄なことを。そこから一歩でも動こうとする前に貴様らは死ぬ。」

皇帝級はそう言い放つ。

「(兄さん…。私がたた…。)」

ルナが言い終わる前に皇帝級に向けて銀色の光が飛んで行った。光は皇帝級の前で弾かれると三人の前に降り立ち人影を成す。

「どうやら、ギリギリ間に合ったようですね。お久しぶりです。ヴァン、ルナ。」

「ミーティアさん!」

三人の前に現れたのは銀の長い髪に漆黒のローブを纏い、その手に銀色の槍を持った小柄な女性だった。

「どうしてここに?」

「あら、私も任務で来ているのですよ。もっとも、私の目的はあそこにいる皇帝級の討伐ですがね。」

「それなら、私たちも協力します。」

「ダメよ、シルフィール。貴方たちはすぐに引きなさい。今の貴方たちでは、彼を倒せない。」

「ですが…。」

「シルフィール、ミーティアさんの言う通りだ。それにあの皇帝級はただものではない。」

「えぇ、おそらくは魔王の側近ロイヤルナイトでしょう。」

「いかにも、我が名はカイザー。魔王ルシファーの元側近である。だが、なかなか面白い。そこの小娘が一人で戦うというのか?」

「えぇ、不満ですか?」

「まとめてかかってくれば来ればいいものを。よかろう、我が力、とくと味わうがいい。」

「来ます。三人とも早く逃げて。」

「ミーティアさん。またあとで。」

ルナとシルフィールが先に行きその後ろを守る形でヴァンが走る。

「逃がすか。」

再び魔法を放とうとしたカイザーの前をミーティアが遮る。

「貴方の相手は、この私です。」

「笑止。」

直後、人間の動きとは思えない早さで槍がカイザーに襲いかかる。だが、その突きは魔力の障壁に阻まれて届かない。

「その程度か?」

「やはり、少々本気を出さなければなりませんね。」

ミーティアの動きが更に加速し槍を振るう度に辺りに破裂音が響く。先端が音速を超えているのだ。無数の音速の突きがカイザーの動きを封じる。障壁こそ破られてはいないがそれも時間の問題だ。

「くそっ、貴様本当に人間か?」

「えぇ、人間ですよ。」

涼しい顔をしながらミーティアは音速の突きを続ける。

「バカな、人間にこれ程の動きができるものか。」

「私には、できますよ。」

「くそっ…。」

カイザーは、ミーティアから距離をとると逃亡を図ろうとした。

「逃がしませんよ。“全て貫くもの(ブリューナク)”!」

直後、光を纏った槍がカイザーを障壁ごと貫く。既に転移魔法で逃亡しようとしていたカイザーになすすべもなく消滅した。


 そのころ、ヴァンたちは森の入口付近にたどり着いていた。

「音が聞こえなくなったわ。」

シルフィールはずっと気にかけていたのだろう。さっきまで聞こえていた戦いの音が聞こえなくなったのだ。

「決着がついたか?あの人なら大丈夫だとは思うが?」

「えぇ、それでも少しは心配よ。」

「それは私のことですか?」

突然後ろから声がしたかと思うとそこにミーティアさんがいた。

「いつの間に?」

「さて、用事は済みましたから早く帰りましょう。」

「あの、ミーティアさん怪我はないですか?」

「ありがとう、ルナ。私は大丈夫よ。」

「そうですか。無事で何よりです。」

「ほら、迎えの馬車が待っているわ。早く帰りましょう。」

いつの間にか合流したミーティアさんに促される形で馬車に乗り込むと、そのまま馬車は本部へと向けて走り出した。


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