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第二話

 翌日の朝、宿を出てからここに着いた時には、もう夕暮れだった。十字教会聖王騎士団本部、俺とルナはここの騎士の一員だ。聖王騎士団の目的は、一般人を魔族、魔物から保護することにある。そのため、騎士団の団員は別名、退魔士(エクソシスト)と呼ばれている。任務から帰還したばかりのため、まずアラン部隊長に報告しに行った。

「…うむ、任務完了だな。ごくろうだった。ヴァン・ヘルシング、ルナ・ヘルシング。しばらくは休むといい。」

「失礼します。アラン隊長。」

報告を済ませるとまっすぐに寮の部屋に向かった。


 途中の廊下を歩いていると曲がり角から見知った顔が出てきた。

「あら、ヴァンそれにルナも、いつ帰ってきたの?」

「久しぶりだな、シルフィール。今、隊長に報告してきたところだ。」

シルフィールは自分と同期で騎士団に入った細身の女性だ。風術と体格に合わない大剣を使いこなす風術剣士でたまに同じ任務に就くことがあり、お互いによく知っている。

「お久しぶりです。シルフィールさん。」

「久しぶり。今、報告してきたってことは、帰ってきたばっかりということね。」

「はい。シルフィールさんは、いつお戻りになったんですか?」

「一昨日くらいかしら。丁度、ミーティアさんと同じ日に帰ってきたから。」

「ミーティアさんもいるんですか?」

「ううん。今朝、また新しい任務に出て行かれたわ。」

「そうですか。」

ルナが少しさびしそうな表情をする。

「あ、帰ってきたばかりだから早く休んだ方がいいんじゃないかしら?任務の疲れもあるでしょうし。」

「そうだな。また後で話そう。ルナ、部屋に行くぞ。」

「はい、兄さん。では、シルフィールさん、また後で。」

シルフィールと別れて部屋に行く。寮では俺とルナの部屋は隣同士だ。騎士団側で考慮してくれたらしい。久々の自分の部屋に入ると、そのままベッドに横になった。疲れが溜まっていたのか、そのまま眠りに落ちてしまった。


 ふと、目が覚めたら真夜中だった。単純に眠りから覚めたのではなく、起きたのは部屋の扉を開けて何者かが入ってきた気配を感じたからだ。寮の扉の鍵は、物理と魔術の二重ロックになっているためそう簡単に入れるはずはないのだ。あくまで普通は…だが。

「…兄さん。」

やっぱり、と言うべきか入ってきたのはルナだ。鍵の意味が全くない。

「どうした?」

横になったまま答える。

「…一緒に寝ていい?」

と言いつつルナはすでにベッドに腰をかけていた。

「好きにしな。」

「うん…。」

少しだけベッドの奥に寄って場所を開けるとルナは布団にもぐりこんできた。そのまま背中に額を押し付けてくる。それ以上言葉を交わすことはない。任務から帰ってくるとルナはいつもこんな感じだ。特に任務中に吸血鬼化した時は必ずだ。俺は背中にルナのぬくもりを感じながら、ルナは俺のぬくもりを感じながら同じ布団の中で眠りに着いた。


 翌朝、ルナは先に起きると兄を起こさないようにそっとベッドを抜け出し、自分の部屋へと戻っていった。兄さんのぬくもりは名残惜しいが修道女としての朝の務めもある。さびしいけど今は我慢することにした。


 ヴァンは起きると、まっすぐ食堂に向かった。起きた時にはすでにルナはいなかったが朝の務めがあるのは分かっている。だからこそ食堂の前までいくとすでに入口でルナが待っていた。

「おはよう。兄さん。」

「あぁ、おはよう。」

受け取り口で朝食を受け取ると二人で食堂の奥の隅の方の席に座った。わざわざ人がほとんどいない奥の方に座るのは理由がある。その理由として、今も遠くからかすかに聞こえる会話の内容もそうだ。

「…おい、あの二人。」

「あぁ、例の第七部隊のやつらだ。」

「あの年齢で単独で討伐任務をして無傷で帰ってきているなんて化け物だな。」

俺とルナ、シルフィールも所属している第七部隊は騎士団の中で正確には第七特務部隊であり、その名が示す通りこの部隊に所属している者は普通ではない。一人一人が一騎当千に等しい戦闘能力を有しているため他の部隊、特に第一戦闘部隊の騎士たちからすれば第一部隊の騎士が数人がかりで倒す相手すら単独で容易に倒してしまう第七部隊の騎士を化け物呼ばわりするもの納得できる。そのため、第七部隊は騎士団の中では特に忌み嫌われている。

「あら、二人とも早いのね。」

ルナと二人で朝食を食べているところにシルフィールがやってきた。

「おはようございます。シルフィールさん。」

「おはよう。シルフィール。」

「二人ともおはよう。それにしても、また第一部隊の連中はあんなこと言っているのね。」

シルフィールがため息をつきながら言う。

「そういえば、あなたたちの旅はどうだったの?」

「小さな町に一週間滞在しながら夜中に森の中で討伐任務をしていた。おかげで今の時間はちょっと眠い。」

「夜勤明けってところかしら。」

「そうだな。」

「でも、ルナは大丈夫そうね。」

「はい。兄さんほど直接戦闘に参加してはいないので大丈夫です。」

「でも、一緒に行動していたなら結構寝不足にならない?」

「兄さんのサポートが私の役目ですから。」

「そうね。」

「シルフィールの方はどうだ?」

「私も似たようなものね。対象魔族の討伐任務、意外と早く見つかったから予定より早く終わってここに帰ってきたけど。」

「どこも似たようなものか。」

「そうね。さっき聞いた話だと各地で魔物や魔族が活発に活動しているって話よ。第一、第二部隊はそのせいか慌ただしいみたいだし、第三部隊もほとんど出払ってるって状況だから。」

「これから、しばらくまた忙しくなるな。」

「そうね。」

「もしかしたら、またシルフィールさんと一緒に任務に出られるかもしれませんね。」「えぇ、その時は頼りにしているわ。二人とも。」

「あぁ、見知った相手の方がやりやすいからな。」

「はい。その時はよろしくお願いします。」

「それじゃ、私は部屋に戻るわ。」

シルフィールは、食器を自分の食器をまとめると返却口に返却して食堂を出て行った。

「俺たちもそろそろ戻るか?」

「うん。」

ルナと一緒に食堂をあとにすると部屋に戻った。


 部屋に戻ってしばらくすると誰かがドアをノックした。ドアを開けるとそこにはシルフィールがいた。

「何の用だ?」

「アラン隊長からの伝言。あなたたち兄妹も私と来るようにとだけ。」

「次の任務の話か。」

「詳しいことは揃ってから話すと言っていたけど、おそらく合同任務でしょうね。」

「分かった。ルナが務めから戻ってきたらすぐに行くようにしよう。」

「それじゃ、またあとで。」

シルフィールが去った後ドアを閉めた。それからルナの務めが終わったころ、ルナにこの話をした後、二人でアラン隊長の部屋に向かった。


 部屋に入るとすでにシルフィールがいた。

「全員揃ったようだな。これから次の任務について説明する。内容は上級魔族及び配下の魔物の殲滅、場所は東の国サハラの山間部、なお今回の任務は第七部隊の三名による合同任務とする。何か質問はあるか?」

「上級魔族について何か情報はありますか?」

上級魔族は強敵だ。少しでも知っている情報が多い方が対処しやすい。

「第三部隊からの報告によれば、数体の悪魔バスタード将軍級ジェネラルが一体確認されている。皇帝級エンペラーは現在確認されていない。」

「そうですか。」

「他には何かあるか?」

「特にありません。」

「では、さっそく任務に就いてもらおう。移動手段は手配済みだ。準備ができ次第ただちに向かってくれ。」

「了解。失礼しますアラン隊長。」

「失礼します。」


 廊下に出るとシルフィールが声をかけてきた。

「久々の合同任務ね。できるだけ早めに終わらせて休みたいけど。」

「私も頑張りますよ。シルフィールさん。」

「ありがとう、ルナ。」

「いえ、それにシルフィールさんとまた同じ任務につけて好かったです。」

「そうね。でも無理はしないでね。」

「はい。」

「ルナ、行くぞ。」

「はい、兄さん。」

シルフィールと別れて部屋に戻るとすぐに準備を始めた。普段から任務で旅に出ることが多いため、準備にはたいして時間はかからなかった。ルナの準備が終わるのを待って、城門まで行くと大剣を携えたシルフィールとその隣に馬車が待っていた。

「目的地までは馬車ではいけないから、途中の町までこれで移動ね。」

「まぁ、いつものことだ。」

「そうね。それじゃ、行きましょうか。」

「あぁ。」

「はい。」

三人で馬車に乗り込むと馬車は城門を抜けて走り出した。


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