忍び寄る魔の手
ジュニアが俺を抱えると同時に、目の前の景色は、溶け出したように、ぐにゃぐ
にゃになった。目を閉じても、はっきりと、空間を越えていると感じられる。
「ちっ。やっぱり、いやがったか」
舌打ちするジュニアの声で、目を開けると、まだ空間の中なのだろう、いろんな色
がうねり、混ざり合っているように見える。
この場所の形も凸凹しているのか、それとも、まっすぐなのか、広いのか、狭いの
かもわからない。
こんなところに、魔道士でもない、生身の人間が長時間いるのは、不可能だ。
俺は、目を閉じ、深呼吸して、精神を集中してから、ゆっくりと目を開けた。
少し離れた前方には、やはり、例の黒いフード姿が見えたのだった。
「てめえ! マリーちゃんを、どこにやりやがった!? まだこの城の中に
いることは、わかってんだぞ! 」
ジュニアが口火を切る。
「ほう。先程より、威勢がいいな。仲間連れだからか」
おもむろに、フードの頭をもたげて、魔道士が、陰湿な声を発した。
「マリスを返してもらう。そこをどいてくれ」
魔道士のうつろな瞳が、俺を捕らえる。
「こちらには、いない」
「ウソだ! じゃあ、なんで、おめえは、さっきから、そこで見張ってんだよ! 」
ジュニアが食ってかかる。
「領主様のお部屋に張っていた結界を、解いていただけだ」
いんいんと、魔道士の声が不思議な空間の中で響く。
俺は、妙な胸騒ぎがしていた。
「ジュニア、時空の中じゃなくて、『もとの世界』へ戻ってくれ」
一瞬、怪訝そうに俺を見るジュニアだが、すぐに言う通りにした。
そこは、あの暗い回廊の終点である、大理石の彫刻の扉――領主の部屋の前だった。
マリスに限って、大丈夫なはずだ。
だけど、なんで、こんなにも、ここは静かなんだ!?
もし、彼女に何かあれば、とっくに暴れて、破壊音のひとつやふたつ、聞こえて
きてもいいようなものだ。
ひゅん……
後ろには、あの魔道士も、現れる。
「領主とマリスは、どこへ行ったんだ? 彼女を、どうしようというんだ? お前
たちは、一体、何を企んでる? 」
焦る気持ちを抑え、出来る限り冷静に振る舞う俺に、魔道士は、うっそりと、口を
開く。
「別に、私は、彼女をどうこうしようなどとは思っていない」
「じゃあ、他の質問にする。どうして、そこの森には、妖魔たちが巣くってるんだ?
魔物に賞金を懸けているくせに、なぜ森の妖魔たちを放っておく? 」
「彼らは、たいして害はない。こちらが、何もしなければ、何もしてはこない」
「なぜ、遠くの魔物にまで、多額の賞金をやる? その他にも、聞きたいことは、
いろいろあるが、今の俺たちには、時間がない。領主やお前たちが、何を企もうと、
今それを問いただし、戦う暇はない。彼女さえ返してもらえば、余計な詮索はしない
で、この場は、立ち去ると約束しよう。だから、おとなしく彼女のところへ案内しろ」
といって、すらっと、マスターソードを抜いて見せた。
魔道士の目が、細められる。
「これが、何かは、わかるだろう? 伝説のマスターソードだ。後ろには、バスター
ブレードだってある。お前が、どんなに魔道に長けた者だったとしても、この二つの
剣が相手では、無傷では済まされないのは想像つくだろう。無駄な戦いをするよりも、
さっさと、俺を彼女のもとへ連れて行く方が、早いと思うが」
魔道士は、しばらく、じっと俺を見ていた。
ジュニアも、後ろで、無言でいた。
「……わかった。娘を返すだけで良いのなら、案内しよう。その代わり、本当に、
これ以上、この城に、かかわらないと約束するか? 」
「もちろん」
「ならば、こちらに来るがよい」
魔道士は、俺たちが、側に近付くと、マントで俺たちを包み込み、空間を渡った。
真っ暗闇だった。
「おお! なんと、白く、柔らかい肌だ! 素晴らしい! 」
領主の声みたいだ。ついでに、唾を、じゅるじゅる啜り上げるような音まで、聞こ
える。
俺の心臓が、どくどくと速くなっていく!
時空のうねりの中だったが、なんとなく、真下には、ぼんやりと、何かが動いて
いるのが、見えてきた。
山のような白い塊と、その下には、赤いものが、ちらっとだけ見える。
徐々に、その一角だけ、はっきりとしてきた。
魔道士の結界も、角度を変え、そこへ向かう。
予感は的中した。
それは、ガマガエル領主とマリスだった!
愕然と、そのありさまを目にしていた。
領主は、耳まで裂けた口の中から、気持ちの悪い、大きなピンク色の舌を出し、
マリスにまたがり、頬を、ベロベロなめ回していたのだった!
そして、その口は、大きく開いた。
ヒトの頭など、簡単に飲み込めるくらいデカく!
俺は、魔道士のマントの中で、暴れると、そこから夢中で飛び出していた。
魔道士の、俺を止める声が聞こえたが、構うもんか!
身体に何かがまとわりつく。
ぬるぬる、ねっとりとし、ぎゅうっと締め付けられたかと思えば、急に弛み、
風が吹き通っていくような、さわやかな感覚もやってきた。これが、生身で空間を
通った感触か。
だが、そんなことはどうでもいい。
俺の身体が、急激に落下していく。
どのくらいの高さからかは、わからない。
それよりも、マリスを――!
どしゃっ!
「ぐえええっ! 」
何かの上に、俺は落っこちた。と同時に、カエルを潰したような声が聞こえ、
そいつは、ビタン! と、床に落ちた。
思ったほど、衝撃は感じられず、痛みもない。というより、痛みを感じる間もなく、
俺はガバッと、起き上がった。
「マリス! 」
夢中で彼女を抱き起こした。
そこは、やたらに白を基調とした部屋だった。
白いレースのカーテン、白い家具、白い床に敷かれた、白地に金の縫い取りのある
敷物などの、超豪華な部屋。
そして、俺が降り立ったのは、真っ白な、ふかふかとした柔らかい、天蓋付きの
ベッドの上だった!
赤い東方系衣装の上に羽織っていた薄布を剥がされ、剥き出された肩と腕、鎖骨の
あたりや、頬は、ぐっしょりと濡れていた!
領主が舐め回した跡だというのは、一目瞭然だった。人間のものとは違う唾液の
異臭も、漂っている。
あの大きな口に飲み込まれるのは、なんとか避けられただけ、ほっとした。
マリスは眠らされているみたいで、強く揺すっても、ぐったりと、俺に身を預けた
ままだった。
その表情は、上気したように、頬はほんのり色づき、どこか艶かしい。
ふつふつと、俺の中には、怒りが込み上げてきた。
ベッドの下では、あの領主が、どこか打ったみたいで、うめき声を上げ続けている。
それを、俺は、睨みつけた。
「おい、ケイン! 無茶すんなよ! 」
領主の向こうに、ひゅんと現れたのは、ジュニアと、今まで俺たちを運んでくれた
魔道士ジョルジュだった。
「お前は、生身の人間なんだぜ! まったく、あそこからここまで、たいした距離
じゃなかったから、良かったものの。そうじゃなかったら、お前は、今頃、別の時空
に迷いこんじまうところだったんだぞ! ま、そうなっても、別に、俺の知ったこっ
ちゃないけどな」
ジュニアが、半分呆れたように言っていたが、今の俺には、ほとんど耳に入って
なかった。
「おお、ジョルジュ! 一体、どうしたというのだ! なぜ、勝手に私の部屋に入っ
てきた? 悪趣味だぞ! 」
領主は、やっとのことで起き上がると、白い、やたらにレースの目立つパジャマ姿
を晒した。
「悪趣味は、てめえだ! 」
カッとなって、ベッドの上に、マリスを横抱きにしたまま立ち上がった俺を、ビク
ッと、領主は振り返った。
「おお! 貴様か、私を蹴り飛ばしたのは!? 貴様たちは、とっくに帰ったと執事
から聞いておったのに、どうやって、ここまで――」
「そんなことは、どーでもいい! 」
俺は、背負っていたバスターブレードを引き抜き、すごい早業で巻いていた布を
取り外し、領主の目の前に突きつけた。
「あわわわ! なんだ、その大きな剣は!? この私を、一体、どうしようというの
だ!? 」
「黙れ! この妖怪オヤジ! 」
俺は、とっくにキレていた。
勢いよくバスターブレードを一振りするが、ジョルジュが空中から取り出した杖で、
受け止めるのは、わかっていた。
「その娘さえ返せば、我々には関わらないのではなかったか」
抑揚のない冷静な声だ。が、俺の頭まで冷静になるわけではなかった。
「うるさい! お前たち、マリスに何をしたんだ! 」
剣を奴等に向けた時だった。
「きゃははははは! 」
脇に抱えていたマリスが、いきなり笑い出した。
びっくりして見ると、またすぐに眠ってしまったみたいで、ぐったりしている。
「おまえら、マリスに変な薬でも飲ませて、狂わせたな!? 可哀想に……!
なんて、ひどいことを! 」
再び、刃を領主に向けた。
「ま、待て、青年! 確かに、私は、彼女が、そのう……あんまり、おいしそうだっ
たもんだから、つい……だが、誓って、変な薬などを投与したりは、しておらんよ! 」
「きゃはははは! 」
領主のセリフに続いて、またもや彼女が笑い出す。
「だったら、なんで、こんなにバカみたいになってんだ! 」
「そ、それは……」
領主は、両手を合わせて、懇願するように、見上げた。
「火酒じゃよ! 特別に加工した無職透明無味無臭の火酒を、水だといって飲ませた
のだ。飲んだ方が、もうちょっと……そのう、……色っぽくなるかと思って……」
むかっ!
「この外道がー! 」
「ひーっ! 」
俺の振り下ろした大剣は、またしても、魔道士ジョルジュの杖に、止められていた。
「……あら? ケインじゃ……ないの。……どうしたの? 」
その声に、はっとして、抱えていたマリスを見る。
彼女は、寝ぼけ眼で、俺を見ていた。
「……マリス、俺がわかるのか? ……大丈夫か? 」
「ええ」
「良かった……! バカにさせられたわけじゃなかったんだな! ほんとに良かっ
た! 心配したんだぞ! 」
俺は、安心して、マリスの両肩を掴んだ。
「……ケイン……」
とろんとしていた彼女の瞳は、潤い、きらめいていく。
その様子から、思わず目を離せないでいると、自然に、彼女が、俺の胸に、もたれ
かかってきたのだった。
抱きしめてもいいんだろうか?
いや、だけど、酒に酔ってて、よくわかっていない彼女に、つけこんでることに
ならないか?
どくどくどく……と、心臓が、速くなる。
おそるおそる、彼女の身体を包み込もうと、腕を曲げていくと――
「おえええええっ! 」
思いっ切り、彼女は戻していた!
「ごめんなさい! ケイン、ほんとに、ごめんなさい! 」
ジュニアに連れられて空間を移動している間中、ずっと、マリスは、俺に謝って
いた。
戻してスッキリしたとはいうものの、まだフラつきながら、俺の腕に掴まっている。
ジュニアの魔術で、俺の服は元通りにはなった。
が、服を汚されたことなんか、構わなかった。
王女とはいえ人間。気持ちが悪かったら、吐くこともあるだろう。
俺が、腹立たしくてしょうがないのは、そんなことじゃなかった。
「無理にでも、俺が付き添っていくべきだった! 何もなくて、本当に良かったけど
なあ、お前、自分で大丈夫って言って、簡単についてったじゃないか。俺とジュニア
が行かなかったら、今頃どうなってたか、わかってんのか? あんなおぞましい、
妖魔に侵されたカエル野郎なんかの餌食に――ああ! 思い出すだけでも、不気味だ
ぜ! 」
「ええ、ほんと、ケインが来てくれて、助かったわ。だけど、あれが、まさか火酒だ
ったなんて……」
酒の中でも、かなり強い蒸留酒で、それを他の飲み物で割って、一〇倍くらいに
薄めて飲むのが普通だ。
いくら酒に強くても、ストレートで飲む人はいない。
そんなものをさらに加工して悪用するとは、なんて卑劣なヤツなんだ!
クレアのことがあって、急ぎだったから、見逃してやったが、あんなヤツが、魔物
の死体を集めて企んでいることなんか、きっとロクでもないことに決まってる。
「たかが酒だったから良かったものの、もし毒だったら、その場で死んでたんだぞ! 」
「もっともだわ。でもね、あの領主さんの話を聞いてるうちに、なんだか可哀相に
なっちゃったのよ。奥様や、お子さんを、原因不明の病で、次々亡くされて。
中でも、二番目の奥様の若い頃に、あたしがそっくりだったから、つい話をしたく
なっちゃったんですって」
あの妖怪オヤジがマリスと、結婚記念の肖像画に描かれているのを想像して、余計
にムカッ腹が立った。
「あんなヤツに奥さんなんかいたように見えるか? 妖怪だぞ、妖怪! 昔は多少
まともで、百歩譲って奥さんがいたとしても、あいつがお前みたいな綺麗な女と、
結婚できるわけないじゃないか! 」
マリスが、目を見開いて、俺を見直した。頬には、徐々に赤みが差していく。
あれ? 今、俺、何か言ったか?
俺の方も、カーッと、顔が赤くなるのが自分でもわかり、おさまれー! と念じて
いたのだが、なかなかおさまる様子もなく……だが、頭の中は、ちょっとだけ、冷静
になった。
「ごめん、マリスに怒るのは、筋違いだよな。だけど、マリスは、変なとこ世間知ら
ずなんだよ。いいか? これからは、絶対に、独りで行動すんなよ。必ず、俺か
ヴァルを連れていけよ」
マリスの肩に手を置いた。
——って、自分が、彼女の側にいるのを正統化しているように聞こえなかったか、
気にもなったが、マリスは、そうは受け取っていないのか、おとなしく頷いていた。
そこへ、ジュニアが、割って入る。
「いや、ケインや、あの兄ちゃんじゃ、ゴツくて無理なこともあるだろ? そういう
時は、俺様が一緒に行ってやるぜ。
魔道士たちの変身の術じゃあ、せいぜい自分の背丈くらいの人間になりすます
くらいしか出来ないだろうけど、俺様の術じゃ、どんなものにも変身出来る。
例えば、イヌやネコみたいに小さいものや、トリみたいに羽ばたいたりも出来るん
だぜ」
「あら、それは、便利ね! 」
マリスが、ぽんと手を打った。
「それなら、男子禁制の場所とかも、一緒に連れていけるわね」
「だろー? これなら、女子の入浴所にも、一緒に入っていけるんだぜー! 」
「なにぃ? 女子の入浴だと!? そんなの、ダメに決まってるだろー!?
そんな時は、ミュミュを連れてけばいいんだ! 」
と、俺が言うにもかかわらず、ジュニアのヤツは、ぽわ!っと、煙を立てて、
黒いカーリーへアの、小さなイヌに化けた。
「かーわいいっ! 」
ヘテロクロミアの小さなイヌは、きゃんきゃん鳴き、尻尾をふりふりして、マリス
に飛びついた。
「これなら、どこへでも連れていけるわね! 」
マリスは、ますます、自分の欲しかったペットだと言わんばかりに、イヌになった
ジュニアを抱きしめていた。
かわいいと得だった。
俺が、そんな風にマリスに触れられることなんか、有り得ないのだから。
――などと、羨ましく思っている場合ではない!
「だからって、風呂やら着替えやら寝室やらは、ぜーったいダメだからな!
わかってるのか!? 」
「わかってるわよ、そんなの」
「そうそう、俺様も、誓って、そこまではしないぜ」
そのイヌ・ジュニアの目が、にたっと笑っているように見えたかと思うと、ヤツは
ますます調子に乗って、マリスの胸に、甘えるように顔をうずめた。
同時に、俺の目が、更に吊り上がって行くのがわかる。
「悪魔の誓いなんか、アテになるかよ」
即座に、イヌ・ジュニアを引っ掴んで、マリスから引き離す。
ジュニアは手足をバタバタさせながら、煙を出し、元の姿に戻ったが、腕を組んで
立ち、余裕綽々(しゃくしゃく)の態度で、俺を見下すように、見上げている。
こいつ……! なんだかんだ、マリスに取り入ろうとしてる。
そうやって堂々と、彼女に触れることも出来るし、いつか、魔族に取り込んでやろ
うというのか!?
俺も、負けじと、ヤツを見返した。
ズウウゥン……!
いきなり、それまで、俺たちを包み込んでいた周りの空気に、圧力が加わったよう
な、一変して、がくんと重たくなってしまったような感じがした。
しかも、それは、一瞬のことではなく、当分は続きそうだと、予感させられた。
「これは……魔界か!? 」
ジュニアの声に、思わず俺もマリスも振り返る。
それまで、俺たちを連れて空間移動中だったジュニアは、進むのをやめ、周りを
見渡していた。
今までの、うねっていた景色とは、一変して、辺りは真っ暗な闇と化していた!
「魔界……だって!? 」
俺とマリスは、顔を見合わせた。
ジュニアの身体は、その暗闇の中で、青白く発光していた。
はっとしたように、自分の手足を見てみると、俺の身体は、ほとんど発光などは
しておらず、微かに、ぼやーっと白っぽい輪郭が見えているだけだった。
そして、マリスは、ジュニアと違い、全身が黄金色に発光していた。
「お待ちしておりました。我らが若君。ご復活、おめでとうございます」
ぼうっと、正面に、青白い炎が灯ったかと思うと、それは、徐々にヒトの形
となり、炎は消え、マントに包まれた、青白く光る姿が現れたのだった。
「お前は……! 俺の、第一の家臣、△◎◆♧! 」
ジュニアが、俺たちを押しのけて叫んだが、名前は聞き取れなかった。
「若さま」
青白く光る家臣は、すーっと移動してくると、ジュニアの前で跪き、
彼の手を取った。
その移動の仕方は、いかにも不自然で、『足を使わずして』だった。
「△◎◆♧、久しぶりだな。一〇〇三年ぶりかあ」
ジュニアが、嬉しそうな声を出した。
「御喜び申し上げるのが、大変遅くなり、申し訳ございません」
「いいよ、別に。お前も多忙だからな」
魔界の王子の家臣である青白く光る男は、すらっと立ち上がると、異様に背の高い、
痩せた男だということがわかった。
「この人間どもは、一体どうされたのです」
ぎろっと、冷たい視線が、俺たちに注がれた。
氷のような目だった。
細く鋭く、透き通った目。
少しだけ、背筋が寒くなる。
「なあに、ちょっと訳ありでさ、一緒に行動してたまでよ」
王子は、気さくに答えていた。魔族の男は、王子に視線を戻す。
「そのお姿では、まだ王の呪いは解けてはいらっしゃらないとお見受け致します。
いかに、ご不自由をされたことか。
ですが、ご安心下さい、若君。この△◎◆♧が来たからには、もう安心です。
お父上である魔王陛下の呪いを、完全に解くことは、わたくしめには出来なくとも、
この魔空間に於いては、若のお力を解放するくらいのことは出来ますゆえ」
「なにっ!? 本当か!? 」
歓喜の声をあげるジュニアの後ろで、俺とマリスは、再び、顔を見合わせた。
恐れていたことが――!
この空間で、ジュニアに本来の力を取り戻させてしまったら、ヤツはもう、マリス
の言うことなど、聞きはしないだろう。
そして、魔族の敵となろう伝説の剣を持つ、この俺のことも――!
二つの青白い発光体は、ゆらゆらと、暗闇の中で、炎のように揺れて、俺たちを
振り返った。
あ〜、キモかった。(^_^;
しかし、彼女はホントにヒロインなのか…??




