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Dragon Sword Saga4『魔界の王子』  作者: かがみ透
第Ⅴ話 高位の魔族
11/19

忍び寄る魔の手

 ジュニアが俺を抱えると同時に、目の前の景色は、溶け出したように、ぐにゃぐ

にゃになった。目を閉じても、はっきりと、空間を越えていると感じられる。


「ちっ。やっぱり、いやがったか」


 舌打ちするジュニアの声で、目を開けると、まだ空間の中なのだろう、いろんな色

がうねり、混ざり合っているように見える。


 この場所の形も凸凹しているのか、それとも、まっすぐなのか、広いのか、狭いの

かもわからない。


 こんなところに、魔道士でもない、生身の人間が長時間いるのは、不可能だ。


 俺は、目を閉じ、深呼吸して、精神を集中してから、ゆっくりと目を開けた。

 少し離れた前方には、やはり、例の黒いフード姿が見えたのだった。


「てめえ! マリーちゃんを、どこにやりやがった!? まだこの城の中に

いることは、わかってんだぞ! 」


 ジュニアが口火を切る。


「ほう。先程より、威勢がいいな。仲間連れだからか」


 おもむろに、フードの頭をもたげて、魔道士が、陰湿な声を発した。


「マリスを返してもらう。そこをどいてくれ」


 魔道士のうつろな瞳が、俺を捕らえる。


「こちらには、いない」

「ウソだ! じゃあ、なんで、おめえは、さっきから、そこで見張ってんだよ! 」

 ジュニアが食ってかかる。


「領主様のお部屋に張っていた結界を、解いていただけだ」


 いんいんと、魔道士の声が不思議な空間の中で響く。


 俺は、妙な胸騒ぎがしていた。


「ジュニア、時空の中じゃなくて、『もとの世界』へ戻ってくれ」


 一瞬、怪訝そうに俺を見るジュニアだが、すぐに言う通りにした。


 そこは、あの暗い回廊の終点である、大理石の彫刻の扉――領主の部屋の前だった。


 マリスに限って、大丈夫なはずだ。

 だけど、なんで、こんなにも、ここは静かなんだ!? 

 もし、彼女に何かあれば、とっくに暴れて、破壊音のひとつやふたつ、聞こえて

きてもいいようなものだ。


 ひゅん……


 後ろには、あの魔道士も、現れる。


「領主とマリスは、どこへ行ったんだ? 彼女を、どうしようというんだ? お前

たちは、一体、何を企んでる? 」


 焦る気持ちを抑え、出来る限り冷静に振る舞う俺に、魔道士は、うっそりと、口を

開く。


「別に、私は、彼女をどうこうしようなどとは思っていない」


「じゃあ、他の質問にする。どうして、そこの森には、妖魔たちが巣くってるんだ? 

魔物に賞金を懸けているくせに、なぜ森の妖魔たちを放っておく? 」


「彼らは、たいして害はない。こちらが、何もしなければ、何もしてはこない」


「なぜ、遠くの魔物にまで、多額の賞金をやる? その他にも、聞きたいことは、

いろいろあるが、今の俺たちには、時間がない。領主やお前たちが、何を企もうと、

今それを問いただし、戦う暇はない。彼女さえ返してもらえば、余計な詮索はしない

で、この場は、立ち去ると約束しよう。だから、おとなしく彼女のところへ案内しろ」


 といって、すらっと、マスターソードを抜いて見せた。

 魔道士の目が、細められる。


「これが、何かは、わかるだろう? 伝説のマスターソードだ。後ろには、バスター

ブレードだってある。お前が、どんなに魔道に長けた者だったとしても、この二つの

剣が相手では、無傷では済まされないのは想像つくだろう。無駄な戦いをするよりも、

さっさと、俺を彼女のもとへ連れて行く方が、早いと思うが」


 魔道士は、しばらく、じっと俺を見ていた。


 ジュニアも、後ろで、無言でいた。


「……わかった。娘を返すだけで良いのなら、案内しよう。その代わり、本当に、

これ以上、この城に、かかわらないと約束するか? 」


「もちろん」


「ならば、こちらに来るがよい」


 魔道士は、俺たちが、側に近付くと、マントで俺たちを包み込み、空間を渡った。


 真っ暗闇だった。


「おお! なんと、白く、柔らかい肌だ! 素晴らしい! 」


 領主の声みたいだ。ついでに、唾を、じゅるじゅる啜り上げるような音まで、聞こ

える。


 俺の心臓が、どくどくと速くなっていく! 


 時空のうねりの中だったが、なんとなく、真下には、ぼんやりと、何かが動いて

いるのが、見えてきた。


 山のような白い塊と、その下には、赤いものが、ちらっとだけ見える。

 徐々に、その一角だけ、はっきりとしてきた。

 魔道士の結界も、角度を変え、そこへ向かう。


 予感は的中した。


 それは、ガマガエル領主とマリスだった! 


 愕然と、そのありさまを目にしていた。


 領主は、耳まで裂けた口の中から、気持ちの悪い、大きなピンク色の舌を出し、

マリスにまたがり、頬を、ベロベロなめ回していたのだった! 


 そして、その口は、大きく開いた。

 ヒトの頭など、簡単に飲み込めるくらいデカく! 


 俺は、魔道士のマントの中で、暴れると、そこから夢中で飛び出していた。

 魔道士の、俺を止める声が聞こえたが、構うもんか! 


 身体に何かがまとわりつく。


 ぬるぬる、ねっとりとし、ぎゅうっと締め付けられたかと思えば、急に(ゆる)み、

風が吹き通っていくような、さわやかな感覚もやってきた。これが、生身で空間を

通った感触か。


 だが、そんなことはどうでもいい。


 俺の身体が、急激に落下していく。


 どのくらいの高さからかは、わからない。

 それよりも、マリスを――! 


 どしゃっ! 


「ぐえええっ! 」


 何かの上に、俺は落っこちた。と同時に、カエルを潰したような声が聞こえ、

そいつは、ビタン! と、床に落ちた。


 思ったほど、衝撃は感じられず、痛みもない。というより、痛みを感じる間もなく、

俺はガバッと、起き上がった。


「マリス! 」


 夢中で彼女を抱き起こした。


 そこは、やたらに白を基調とした部屋だった。

 白いレースのカーテン、白い家具、白い床に敷かれた、白地に金の縫い取りのある

敷物などの、超豪華な部屋。


 そして、俺が降り立ったのは、真っ白な、ふかふかとした柔らかい、天蓋付きの

ベッドの上だった! 


 赤い東方系衣装の上に羽織っていた薄布を剥がされ、剥き出された肩と腕、鎖骨の

あたりや、頬は、ぐっしょりと濡れていた! 


 領主が舐め回した跡だというのは、一目瞭然だった。人間のものとは違う唾液の

異臭も、漂っている。


 あの大きな口に飲み込まれるのは、なんとか避けられただけ、ほっとした。 


 マリスは眠らされているみたいで、強く揺すっても、ぐったりと、俺に身を預けた

ままだった。


 その表情は、上気したように、頬はほんのり色づき、どこか艶かしい。


 ふつふつと、俺の中には、怒りが込み上げてきた。


 ベッドの下では、あの領主が、どこか打ったみたいで、うめき声を上げ続けている。

 それを、俺は、睨みつけた。


「おい、ケイン! 無茶すんなよ! 」


 領主の向こうに、ひゅんと現れたのは、ジュニアと、今まで俺たちを運んでくれた

魔道士ジョルジュだった。


「お前は、生身の人間なんだぜ! まったく、あそこからここまで、たいした距離

じゃなかったから、良かったものの。そうじゃなかったら、お前は、今頃、別の時空

に迷いこんじまうところだったんだぞ! ま、そうなっても、別に、俺の知ったこっ

ちゃないけどな」


 ジュニアが、半分呆れたように言っていたが、今の俺には、ほとんど耳に入って

なかった。


「おお、ジョルジュ! 一体、どうしたというのだ! なぜ、勝手に私の部屋に入っ

てきた? 悪趣味だぞ! 」


 領主は、やっとのことで起き上がると、白い、やたらにレースの目立つパジャマ姿

(さら)した。


「悪趣味は、てめえだ! 」


 カッとなって、ベッドの上に、マリスを横抱きにしたまま立ち上がった俺を、ビク

ッと、領主は振り返った。


「おお! 貴様か、私を蹴り飛ばしたのは!? 貴様たちは、とっくに帰ったと執事

から聞いておったのに、どうやって、ここまで――」


「そんなことは、どーでもいい! 」


 俺は、背負っていたバスターブレードを引き抜き、すごい早業で巻いていた布を

取り外し、領主の目の前に突きつけた。


「あわわわ! なんだ、その大きな剣は!? この私を、一体、どうしようというの

だ!? 」


「黙れ! この妖怪オヤジ! 」


 俺は、とっくにキレていた。

 勢いよくバスターブレードを一振りするが、ジョルジュが空中から取り出した杖で、

受け止めるのは、わかっていた。


「その娘さえ返せば、我々には関わらないのではなかったか」


 抑揚のない冷静な声だ。が、俺の頭まで冷静になるわけではなかった。


「うるさい! お前たち、マリスに何をしたんだ! 」


 剣を奴等に向けた時だった。


「きゃははははは! 」

 脇に抱えていたマリスが、いきなり笑い出した。


 びっくりして見ると、またすぐに眠ってしまったみたいで、ぐったりしている。


「おまえら、マリスに変な薬でも飲ませて、狂わせたな!? 可哀想に……! 

なんて、ひどいことを! 」


 再び、刃を領主に向けた。


「ま、待て、青年! 確かに、私は、彼女が、そのう……あんまり、おいしそうだっ

たもんだから、つい……だが、誓って、変な薬などを投与したりは、しておらんよ! 」


「きゃはははは! 」

 領主のセリフに続いて、またもや彼女が笑い出す。


「だったら、なんで、こんなにバカみたいになってんだ! 」

「そ、それは……」


 領主は、両手を合わせて、懇願するように、見上げた。


「火酒じゃよ! 特別に加工した無職透明無味無臭の火酒を、水だといって飲ませた

のだ。飲んだ方が、もうちょっと……そのう、……色っぽくなるかと思って……」


 むかっ! 


「この外道がー! 」


「ひーっ! 」


 俺の振り下ろした大剣は、またしても、魔道士ジョルジュの杖に、止められていた。


「……あら? ケインじゃ……ないの。……どうしたの? 」


 その声に、はっとして、抱えていたマリスを見る。

 彼女は、寝ぼけ(まなこ)で、俺を見ていた。


「……マリス、俺がわかるのか? ……大丈夫か? 」

「ええ」

「良かった……! バカにさせられたわけじゃなかったんだな! ほんとに良かっ

た! 心配したんだぞ! 」


 俺は、安心して、マリスの両肩を掴んだ。


「……ケイン……」


 とろんとしていた彼女の瞳は、潤い、きらめいていく。


 その様子から、思わず目を離せないでいると、自然に、彼女が、俺の胸に、もたれ

かかってきたのだった。


 抱きしめてもいいんだろうか? 


 いや、だけど、酒に酔ってて、よくわかっていない彼女に、つけこんでることに

ならないか? 


 どくどくどく……と、心臓が、速くなる。


 おそるおそる、彼女の身体を包み込もうと、腕を曲げていくと――


「おえええええっ! 」


 思いっ切り、彼女は戻していた! 



「ごめんなさい! ケイン、ほんとに、ごめんなさい! 」


 ジュニアに連れられて空間を移動している間中、ずっと、マリスは、俺に謝って

いた。


 戻してスッキリしたとはいうものの、まだフラつきながら、俺の腕に掴まっている。

 ジュニアの魔術で、俺の服は元通りにはなった。

 が、服を汚されたことなんか、構わなかった。


 王女とはいえ人間。気持ちが悪かったら、吐くこともあるだろう。

 俺が、腹立たしくてしょうがないのは、そんなことじゃなかった。


「無理にでも、俺が付き添っていくべきだった! 何もなくて、本当に良かったけど

なあ、お前、自分で大丈夫って言って、簡単についてったじゃないか。俺とジュニア

が行かなかったら、今頃どうなってたか、わかってんのか? あんなおぞましい、

妖魔に侵されたカエル野郎なんかの餌食に――ああ! 思い出すだけでも、不気味だ

ぜ! 」


「ええ、ほんと、ケインが来てくれて、助かったわ。だけど、あれが、まさか火酒だ

ったなんて……」


 酒の中でも、かなり強い蒸留酒で、それを他の飲み物で割って、一〇倍くらいに

薄めて飲むのが普通だ。

 いくら酒に強くても、ストレートで飲む人はいない。


 そんなものをさらに加工して悪用するとは、なんて卑劣なヤツなんだ! 


 クレアのことがあって、急ぎだったから、見逃してやったが、あんなヤツが、魔物

の死体を集めて企んでいることなんか、きっとロクでもないことに決まってる。


「たかが酒だったから良かったものの、もし毒だったら、その場で死んでたんだぞ! 」


「もっともだわ。でもね、あの領主さんの話を聞いてるうちに、なんだか可哀相に

なっちゃったのよ。奥様や、お子さんを、原因不明の病で、次々亡くされて。

 中でも、二番目の奥様の若い頃に、あたしがそっくりだったから、つい話をしたく

なっちゃったんですって」


 あの妖怪オヤジがマリスと、結婚記念の肖像画に描かれているのを想像して、余計

にムカッ腹が立った。


「あんなヤツに奥さんなんかいたように見えるか? 妖怪だぞ、妖怪! 昔は多少

まともで、百歩譲って奥さんがいたとしても、あいつがお前みたいな綺麗な女と、

結婚できるわけないじゃないか! 」


 マリスが、目を見開いて、俺を見直した。頬には、徐々に赤みが差していく。


 あれ? 今、俺、何か言ったか? 


 俺の方も、カーッと、顔が赤くなるのが自分でもわかり、おさまれー! と念じて

いたのだが、なかなかおさまる様子もなく……だが、頭の中は、ちょっとだけ、冷静

になった。


「ごめん、マリスに怒るのは、筋違いだよな。だけど、マリスは、変なとこ世間知ら

ずなんだよ。いいか? これからは、絶対に、独りで行動すんなよ。必ず、俺か

ヴァルを連れていけよ」


 マリスの肩に手を置いた。


 ——って、自分が、彼女の側にいるのを正統化しているように聞こえなかったか、

気にもなったが、マリスは、そうは受け取っていないのか、おとなしく頷いていた。


 そこへ、ジュニアが、割って入る。


「いや、ケインや、あの兄ちゃんじゃ、ゴツくて無理なこともあるだろ? そういう

時は、俺様が一緒に行ってやるぜ。

 魔道士たちの変身の術じゃあ、せいぜい自分の背丈くらいの人間になりすます

くらいしか出来ないだろうけど、俺様の術じゃ、どんなものにも変身出来る。

例えば、イヌやネコみたいに小さいものや、トリみたいに羽ばたいたりも出来るん

だぜ」


「あら、それは、便利ね! 」

 マリスが、ぽんと手を打った。


「それなら、男子禁制の場所とかも、一緒に連れていけるわね」

「だろー? これなら、女子の入浴所にも、一緒に入っていけるんだぜー! 」

「なにぃ? 女子の入浴だと!? そんなの、ダメに決まってるだろー!? 

そんな時は、ミュミュを連れてけばいいんだ! 」


 と、俺が言うにもかかわらず、ジュニアのヤツは、ぽわ!っと、煙を立てて、

黒いカーリーへアの、小さなイヌに化けた。


「かーわいいっ! 」


 ヘテロクロミアの小さなイヌは、きゃんきゃん鳴き、尻尾をふりふりして、マリス

に飛びついた。


「これなら、どこへでも連れていけるわね! 」


 マリスは、ますます、自分の欲しかったペットだと言わんばかりに、イヌになった

ジュニアを抱きしめていた。


 かわいいと得だった。


 俺が、そんな風にマリスに触れられることなんか、有り得ないのだから。


 ――などと、羨ましく思っている場合ではない! 


「だからって、風呂やら着替えやら寝室やらは、ぜーったいダメだからな! 

わかってるのか!? 」


「わかってるわよ、そんなの」


「そうそう、俺様も、誓って、そこまではしないぜ」


 そのイヌ・ジュニアの目が、にたっと笑っているように見えたかと思うと、ヤツは

ますます調子に乗って、マリスの胸に、甘えるように顔をうずめた。


 同時に、俺の目が、更に吊り上がって行くのがわかる。


「悪魔の誓いなんか、アテになるかよ」


 即座に、イヌ・ジュニアを引っ掴んで、マリスから引き離す。


 ジュニアは手足をバタバタさせながら、煙を出し、元の姿に戻ったが、腕を組んで

立ち、余裕綽々(しゃくしゃく)の態度で、俺を見下すように、見上げている。


 こいつ……! なんだかんだ、マリスに取り入ろうとしてる。


 そうやって堂々と、彼女に触れることも出来るし、いつか、魔族に取り込んでやろ

うというのか!? 


 俺も、負けじと、ヤツを見返した。


 ズウウゥン……! 


 いきなり、それまで、俺たちを包み込んでいた周りの空気に、圧力が加わったよう

な、一変して、がくんと重たくなってしまったような感じがした。


 しかも、それは、一瞬のことではなく、当分は続きそうだと、予感させられた。


「これは……魔界か!? 」


 ジュニアの声に、思わず俺もマリスも振り返る。


 それまで、俺たちを連れて空間移動中だったジュニアは、進むのをやめ、周りを

見渡していた。


 今までの、うねっていた景色とは、一変して、辺りは真っ暗な闇と化していた! 



「魔界……だって!? 」


 俺とマリスは、顔を見合わせた。


 ジュニアの身体は、その暗闇の中で、青白く発光していた。


 はっとしたように、自分の手足を見てみると、俺の身体は、ほとんど発光などは

しておらず、微かに、ぼやーっと白っぽい輪郭が見えているだけだった。


 そして、マリスは、ジュニアと違い、全身が黄金色に発光していた。


「お待ちしておりました。我らが若君。ご復活、おめでとうございます」


 ぼうっと、正面に、青白い炎が(とも)ったかと思うと、それは、徐々にヒトの形

となり、炎は消え、マントに包まれた、青白く光る姿が現れたのだった。


「お前は……! 俺の、第一の家臣、△◎◆♧! 」


 ジュニアが、俺たちを押しのけて叫んだが、名前は聞き取れなかった。


「若さま」


 青白く光る家臣は、すーっと移動してくると、ジュニアの前で(ひざまず)き、

彼の手を取った。


 その移動の仕方は、いかにも不自然で、『足を使わずして』だった。


「△◎◆♧、久しぶりだな。一〇〇三年ぶりかあ」

 ジュニアが、嬉しそうな声を出した。


「御喜び申し上げるのが、大変遅くなり、申し訳ございません」

「いいよ、別に。お前も多忙だからな」


 魔界の王子の家臣である青白く光る男は、すらっと立ち上がると、異様に背の高い、

痩せた男だということがわかった。


「この人間どもは、一体どうされたのです」


 ぎろっと、冷たい視線が、俺たちに注がれた。

 氷のような目だった。

 細く鋭く、透き通った目。


 少しだけ、背筋が寒くなる。


「なあに、ちょっと訳ありでさ、一緒に行動してたまでよ」


 王子は、気さくに答えていた。魔族の男は、王子に視線を戻す。


「そのお姿では、まだ王の呪いは解けてはいらっしゃらないとお見受け致します。

いかに、ご不自由をされたことか。

 ですが、ご安心下さい、若君。この△◎◆♧が来たからには、もう安心です。

 お父上である魔王陛下の呪いを、完全に解くことは、わたくしめには出来なくとも、

この魔空間に於いては、若のお力を解放するくらいのことは出来ますゆえ」


「なにっ!? 本当か!? 」


 歓喜の声をあげるジュニアの後ろで、俺とマリスは、再び、顔を見合わせた。


 恐れていたことが――! 


 この空間で、ジュニアに本来の力を取り戻させてしまったら、ヤツはもう、マリス

の言うことなど、聞きはしないだろう。


 そして、魔族の敵となろう伝説の剣を持つ、この俺のことも――!


 二つの青白い発光体は、ゆらゆらと、暗闇の中で、炎のように揺れて、俺たちを

振り返った。


あ〜、キモかった。(^_^;

しかし、彼女はホントにヒロインなのか…??


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