第4章3 道しるべの子守唄
廊下はもう暗くなっていた。城使いの者が明かりを灯すのを忘れているのか、真っ暗にも近い。今日は新月だと思い出したクラウスはふと向こうから歩いてくる者の姿に視線が向いた。右手に浮かべた小さな炎が揺らめく。それがレオナだと理解するまで、クラウスには長い時間がかかった。
「……レオナか」
「久しぶりね、王子。何年ぶりかしら」
壁に背をもたれたクラウスは目を細めてレオナを見た。セレスに手を引かれて初めて城に来たのは多分2、3年ほど前。あの頃はまだ自分の腰ほどにも満たない子供だった。人間の国の時間の流れと、妖精の国の時間の流れは違う。妖精の国の1年は人間の国のそれの5年だというのだ。まだ自分の名前を名乗るのにも時間を掛けていた少女が、もう一人前の大人と同じようにここにいる。
「2、3年……だな。人間の国は本当に不思議なものだ」
「私にとってはこの国の方が不思議よ。いつまで経っても変わらない……不変は良いことだけど、刺激のない世の中は嫌い。あの師匠のせいかしら」
会場から漏れる光を見つめながら、レオナは長い髪を耳にかけた。ふっと右手の上に浮かんでいた魔法の火を吹き消すして、クラウスを見つめる。
「継承式が始まるわよ、王子。行かないの?」
「……継承されるのはルークだ。嫌がってはいたが、押しつけられれば断れまい」
訝しげな表情をするレオナにクラウスはそれだけ言って窓から外を見つめた。星だけが浮かぶ夜。長年争ってきた王権を、それを望まない者にとられるのはどうしてか滑稽ではない。
レオナは溜息をついた。
「……王子。貴方は王になりたくないの?」
その言葉にふとクラウスは視線をレオナに向けた。いつか自分直属の魔術師となるレオナの視線。強い瞳に、自分の人選は間違ってはいなかったとクラウスは確信する。彼女は本当に良い魔術師になるだろう。セレスが認めるまで時間がかかりそうだが。
「なりたいな。それは。……しかし父上の要望なのだ、仕方がないことだろう」
「……王子。あんた意外と馬鹿ね」
即答でレオナはそう切り返した。馬鹿と言われた経験は勿論皆無の王子、クラウスは首を傾げて振り返った。しかし、クラウスがその言葉の真意を確かめる前にレオナがその右手を掴む。
「私だって馬鹿な王子の下っ端なんて嫌よ。それに……」
光の漏れる入り口へと引っ張ってゆくレオナ。その背中と力一杯押しやって、そして微笑んだ。会場の光がクラウスを包む。いつも何とも感じることがない明かりにクラウスは目を細めた。
「どうせ仕えるのなら、『国王』の下がいい。あの馬鹿師匠ならそう言うんじゃない?」
クラウスの視界を真っ白な世界が覆った。そして次の瞬間に聞こえたのは、歓声か。それは定かではない。クラウスは夢心地のような気分の中にいた。反響する歓声も、いつもより光を増したような会場の明かりも。
国王の隣で拍手を向けているルークの姿、そして豪快に笑い声を上げるセレスの表情。冠を手に自分を待つ国王。全ては、自分の待ち望んだ光景。
(ああ、そうか……。そうか、そうだな)
レオナの言葉が思い出された。王になりたいと言ったのに、何をしているんだと、彼女は言いたかったのだ。馬鹿、と言われた意味もようやく分かった気がする。
(待っているじゃないか、私を)
そう、自分の手で掴み取った勝利は自分のものなのだ。クラウスは笑う。2度目だろうか、心からの喜びの笑いを。ルークのひたむきな姿を見るまで忘れていた笑うという感情。
脅しは威厳ではないと思ったのも自分だった。
(……確かに馬鹿だな、私は。けれどそれでいい)
クラウスは赤い絨毯を踏みしめた。夢にまで見た、王位継承の瞬間を現実のものとして。
(だからこそ私は国民の信頼を集めることが出来るのだ)
父の顔は穏やかだった。昔から威厳も持ち合わせたその背中を見つめて育ってきたのだ。クラウスは階段を登る。一歩、また一歩と、自分の夢への実現へ向けて……。
☆
「だから、そこの魔法陣の書き方間違ってるって言ってるでしょう!」
暗闇の中で明かりの役目を負っていたトリクが浮遊する。その光で地面と睨み合っていたレオナが、先程見つけた魔法陣の呪文の誤りを怒気も込めて指摘した。だがそれをセレスは慣れた様子でかわしていく。
「いちいち煩いねぇ。こんな細かいトコ、そんなに気を付けなくても大丈夫だよ。大体、いつからそんな小姑みたいな性格になったんだい、レオナ」
「136歳に言われたくないわ!」
「見た目が若けりゃいいのさ。ほら、こんなにピッチピチ」
『俺様早く帰りたい……』
セクシーポーズをとってみせるセレスにレオナの怒りがまた爆発した。疲れたようにそれを見つめるトリクがその周りを飛び回っている。
ここはクラウスの城の敷地内。国と国の境目で起こる時間の圧力を最小限に押さえるため、セレスとレオナが魔法陣を書いていた。ルークを安全に人間の国へ返す為の魔法だとレオナは言っていたのだが、今の2人の状況を見れば安全という言葉も危うい。ルークは変な覚悟を胸に秘め、大規模な魔法陣が完成するのを待った。
レオナがルーク達と合流したのは、継承式で手薄となったデューンの城から抜け出した時だった。扉を通さなくても無事に帰れるというセレスの魔法を使い、捕まっていた人間達を送り出した後、式場へと向かったのである。どうやら、セレスの言っていた『発明家』の様な仕事というのはどうやら、魔法の発明だったらしい。
そんな師匠の大規模な趣味にレオナは大袈裟に溜息をつきながらルークに言った。
「あっちの世界に帰ったら大騒ぎね。まぁ、事後処理は町長にまかせるわ……。しばらくは神隠しだの何だのってうるさくなるだろうけど」
ルークはそれを思い出して笑う。皆の驚いた顔を思い浮かべると可笑しくて仕方がなかった。当分ミステリアスな体験話が街中で流行するだろう。
1人そんなことを思いながら笑みを浮かべるルークに、クラウスが声をかけた。
「何を笑っているんだ」
突如後ろから声を掛けられ、ルークは驚いたように振り向く。それがクラウスだと分かると、安心して息をついた。クラウスの呆れたような表情を見ると、自分はどうやら端から見ていて凄く変だったのだろう。
しかしクラウスはルークから視線を外し、向こうで喧嘩をしている魔女とその弟子を見つめた。喧嘩、と言ってもレオナが一方的に怒鳴りつけ、それをセレスが軽くかわしているだけなのだが。
「……帰るのか」
「あ、はい。皆、心配してるかもしれないから……」
けれどあの様子を見ているとまだ当分帰れないような気がしてきた。ルークは苦笑しながら義兄を見上げる。白んできた空の下でも彼は造り物のように端正な顔をしていた。本当に血が繋がっているのかルークでも不思議に思う。
「父上はまた会いたいと言っていた。……たまにはこちらに来い、と」
「はい!」
ルークは満面の笑みでそれに答えた。その嬉しそうな笑顔にクラウスも笑う。
「まぁ……人間の国とこの国の時間の流れは違うからな。すぐに顔を出すだろうと言っておいた」
セレス達の様子を眺めているのに飽きたのか、トリクがふよふよと飛んできてルークの頭に止まった。眠いのか欠伸1つしてクラウスを見る。
『ふぁ~あ……そういや王子。ルークの母ちゃんって結局どうなったんだ?』
後からレオナとルークを追いかけてきたトリクは事情を全てセレスに説明された。すべての発端を聞かされたトリクには1つだけ首を傾げざるを得ない部分に気付いていた。それはルークの母がその後どうなったか、である。
クラウスはふとかたわれ時の空を見上げた。雲が白み始め、ゆっくりと青空が姿を現してゆく。新月の夜の終わり。これから、最も賑やかな1日が来るであろう。新国王の決定の知らせと共に。
「そこまでは私にも分からない。…ただ、ルークには悲しいことかもしれないが、人間は時間の圧力に負けると向こうの空気に触れた途端、灰になると聞く」
灰、という言葉にルークは同じように空に向けていた視線をクラウスへと戻した。首を傾げて、昔ルーシーや義父に聞かされた話を思い出す。15年前、自分が捨てられていたときの話だ。
赤ん坊だった自分が、灰の中に捨てられて……
ルークはその時、また心の何処かであの子守唄が反響したような気がした。優しい響きを醸し出す、春のように暖かく、母の腕の中のような安心する旋律。琴線に触れる柔らかな響き。それはもう、彼自身がその思い出にすがろうとしたからではなかった。
「ルーク!出来たよ。おいで」
疲れた表情のレオナの隣からセレスが手を振っている。ルークはそれに答えるようにそちらに向かって歩き出した。ふと後ろからクラウスの声が響く。
「時間を作ってまた来い。父上も……私も、待っている」
振り返ったルークはそれに微笑んで頭を下げた。
「ありがとうございます!」
地面に白い粉で描き出された奇怪な文字と絵のようなもの。外側の円から鎖のように真ん中へと線が引かれている。ルークにはその魔法陣の意味を理解することは出来なかったが、これだけの細やかな魔法陣を書き上げるのには並大抵の者には出来ない。改めて4大魔女セレスとその弟子レオナの凄さが身に染みた。
ルークが魔法陣の中に入ると、一番外側の線が光を放った。そして順々に内側へと光が移動していく。白い閃光にルークは目を瞑った。後ろから詠唱を始めたセレスとレオナの声が耳通りよく響き渡る。
「……天在り地在り光在り。闇は乗じて光と在り」
「神名天上、真名地上。異端なる者に理の加除」
セレスの呪文を聞くのは初めてだったが、彼女がそう声をあげた時、レオナの詠唱には見られなかった程地面が光り輝いた。目を瞑っても、そこには光が存在する。
「尊崇されし、世の神在り。数奇なる者の運命よ」
レオナはそこで言葉を切った。ルークは扉の時とは違う、強い風を体に感じる。そしてセレスの言葉が聞こえたとき、それすらも止んだ。
「廃滅無しと我等に誓えよ」
光の中で、ルークは1つの夢を見た。
『天の目の如く、光揺れ
幾許清き 風は吹く』
声は夏空の下、その直線的な日光の日差しの中で響いていた。女はそれを見上げたまま、歌い続ける。周りを取り囲む森の木々は唄に合わせるかのように左右に揺れ、葉擦れの音は音程の無い、ひとつのリズムを形作った。
久方ぶりに見る故郷の風景は、変わり果てていた。昔のようにぽつぽつとしか並んでいなかった家々が集まり、1つの集落となり、街へと変化していた。思い出せる限りの場所はもうそこにはなく、1人になってしまったかのような気分さえ覚える。
『千の護りと証を持って
汝、扉の鍵とせん』
けれど覚悟は出来ていた。そう女は思った。果てしなく続く青空は何処も同じ。今までの世界も、この世界にもそれは変わりはなかった。ふと草むらに腰を下ろし、眠る子供を見つめ、彼女は旋律を紡ぎ出す。子守唄を子守唄として。
そう、すべては自分の子供の為。
『氷雨の降りし国なれば
亡者行き交う、刻苦の地』
昔、妖精の国への扉が無かった頃。その頃、国への道は3つあったという。この子の物知りな父親に聞いた話だ。彼女はそれを思い出し、ふと微笑みを浮かべる。
『紅ひ薫る 誘いの地
その心 その場に許すことなし』
1つは地獄。2つ目は人を誘う楽園、天国。そして3つ目は、「妖精の国」。
『真の未知を望みし者は
証を持って答えたり』
子供達が道に迷うことのないよう、母はそれを子守唄にした。そしてそれはそのまま、扉の鍵とされ、合い言葉となった。子供を愛する母の想いがつくった、最高の言葉。記憶にも残らないかもしれない。けれどきっと形にならなくても、その真実はいつか最高の奇跡へと変わってゆく。
『鍵を唄うは眠りの精
子よ、その言葉が鍵なれば
忘るることなく、汝の中に……』
太陽の日差しを受けた茶色の髪が輝く。最後の言葉に、何も語らぬ木々はただ黙ったまま枝を揺らした。首筋を撫でる涼風は心地よい。それは静かな寝息を立てている彼の心の片隅の何処かにしっかりと残る。そう、これは夢ではないと今のルークははっきり感じることが出来た。
新緑が光を受ける様は美しかった。そして彼女を照らす燦々とした太陽もまた然り。ルークは第3者の視点で見つめる遠い記憶に暖かい感触を覚えた。ふと、彼女の視線が子供を抱く腕に向けられた。爽やかな風と共に自分の体がゆっくりと灰に変わり、流れて消えてゆく。灰の混じった微風が蒼天の空へと舞い上がる。ゆっくりと、母の体は灰へと化した。
しかし、彼女の微笑みは最後まで消えることはない。安らかに眠る我が子の為に。そしてルークは、微睡みの中でたった1つの旋律を耳にした。それは、子守唄の2番。込められた、大切な意味。
『四維にて吹く風に
我、塵灰となろうとも
想いは此処に
守りは其処に』
この風に私が灰になったとしても。貴方を思う想い、そして護りは此処に。
『汝、光の子となりて
たとえ標に惑わされしとも
久しき日を思うことなかれ』
貴方が王の子として運命に惑わされたとしても、
別れの日を思い出すことのないように。
『我、風と共にあり
我、光と共にあり』
私は風と共にありましょう。光と共にありましょう。
『汝を包むものとなりて
汝と共にあろう……』
最後の言葉は悲しくも、塵灰と共に夢の中に消えた。ルークは視界が滲んだ気がしたが、それでもそれを堪えて見上げた青空がはっきりと彼の瞳に焼き付く。母はルークが別れの日を思い出すことを望まなかった。それが辛いものだと、知っていたから。だからこそ、彼女は彼の中に自分の記憶を残したくはなかった。
しかし、ルークの中にはその子守唄がはっきりと残っている。
(……うん。大丈夫だよ、母さん)
ルークは体が一気に軽くなるような感覚に陥った。灰の中でスヤスヤと眠る15年前の自分の姿に微笑み、別れを告げるとゆっくりとその風景はルークから遠退いていった。多分もう見ることはないであろう、母の思い出。けれど、それはきっとルークの中に永遠に残るのだ。
(……ありがとう)
視界が光に覆われる。暖かな、母のような光に。
☆
突如、ルークの視界は反転した。盛大な音と共に床へ投げ出されたルークとレオナ。強かに腰を打つ2人を見下ろしながら、セレスは優雅に床へと降り立った。仲良く腰を押さえて同じ格好をしている2人に彼女は笑ってみせる。
「おやおや、若いもんがだらしないねぇ……」
レオナがその言葉に反応したようにセレスを睨みつけた。それを笑顔でかわし、セレスは階段を登ってゆく。ルークは服についた埃を払いつつ、ゆっくりと降りてきたトリクに問いかけた。
「……ここ、は?」
『俺様の見間違いがなければ、書庫だな』
そこは確かに、ルークが初めてセレスの家を尋ねたときトリクに連れてこられた書庫だった。地下のせいか、気温が低く、息が白く染まっている。ルークは手を擦り合わせながら、トリクの明かりを頼りに先に行ったレオナとセレスを追った。
「それじゃあ……戻ってこられたんだね」
『……』
微笑むルークに頬をかいて非常に気まずそうな顔をしたトリクは、曖昧に笑って見せた。その様子に首を傾げるルーク。しかしその原因は階段を上がり1階に出た瞬間に向こう側から響いてきた。
それは例によって例のごとく、レオナの怒鳴り声だ。
「ちょっとセレス!これ一体どうゆうこと!?」
驚いたようにトリクと顔を見合わせたルークは声をした方向に走り出した。すると散らかった玄関から何かを掘り出しているセレスがあっけらかんと窓の外を見つめて、見たままの言葉を返した。
「雪だね、間違いなく」
「何、呑気に解説してるのよ!これじゃ、ルークが帰れないじゃない!」
レオナの指差した先には、秋の紅葉し始めた時期から1歩とんで、純白の光に輝く積雪。膝以上に積もった雪の風景は果てしなく向こうまで続いている。白い妖精のように絶えず降り続ける粉雪にルークは呆然とする。妖精の国と人間の国は過ぎる時間の早さが違うとクラウスに教えられていたのを忘れていたのだ。
するとレオナの言葉に耳を塞ぎながらセレスがトリクを指差した。さっさと逃げる準備をしている小妖精にカルナは微笑みかける。否、それが微笑みと取れるかどうかは人次第だろうが。
「私に言うんじゃないよ。トリクだって気付いていたんだ。な、トリク」
アンタが追いかけて来た頃にはもう雪が降ってたんだろ?と有無を言わさぬ強烈な笑顔を向けるセレス。その笑顔から醸し出される最上級の寒気にトリクは固まった。それを庇うように立ちはだかったレオナがセレスを見上げる。
「人のせいにしないでよね、馬鹿師匠!今すぐルークを街に送って頂戴。皆心配してるでしょう!」
するとセレスはチラ、と横目でルークの様子を見つめると視線をレオナに戻した。面白い事を考えついたというような悪戯な笑みを浮かべて弟子を見つめる。
「それなら、レオナ。お前が魔法で送ってやりな。……さすがアタシ、頭いい~。じゃ、そういうことで」
レオナに反論を言わせる隙も見せず、セレスは玄関の扉の向こうに消えた。レオナが慌てたようにその扉を押し開ける。
「ちょ、ちょっと待ってよ、人を転送する魔法はあんたが発明したものであって、私は教わってな……」
立て付けの悪い音を響かせた扉。しかし、その向こうには足跡の1つも残らない銀世界が果てしなく続いている。彼方まで真っ白な空間に吸い込まそうになりそうだ。レオナは体から力が抜けたかのようにドアノブを握ったまま玄関に座り込んだ。セレスの姿はもう見あたらない。
完全に負けてしまったレオナは疲れたような視線を後ろにいたルークに向ける。
「……で?どうするのルーク。どうやら当分ここにいることになりそうよ。一応念のためトリクに手紙を運ばせてルークの無事は知らせなきゃだけど」
『待てレオナ、この雪の中かよ!?』
「当然でしょう!トリクが早めにそう言っていれば、あの馬鹿師匠に魔法陣の行き先を尋ねておくこともできたのよ!?」
レオナとトリクがそう言い合う様子を、どうやら台所にいたらしいメニカが扉の隙間から覗き込んでいた。どうしたものか、という視線を向けるルークにメニカは相変わらずわたわたと慌てた表情を見せた。トリクとレオナの言い争いは、レオナが優勢になりつつある。
なんだかもう慣れてしまった妖精と魔女の弟子との日々。全てはあの日、初めて魔女の庭に足を踏み入れた時から。ルークはレオナ、トリク、メニカを見回して、玄関口を見つめる。気のせいかもしれないが、ルークはカルナのあの豪快な笑い声を耳にしたような気がした。
「……それでどうするの、ルーク?」
どうやら言い争いに勝利したらしいレオナが、話題をこちらに振った。ルークはその声に振り返り、柔らかく微笑む。
「邪魔じゃなければ……雪が解けるまで、ここに居させてください」




