鍵屋の話
掲載日:2026/11/04
売れないモノを売る話
不要なら、必然的に要するようにすればいい
昔、あるところに、誰もが助け合って暮らす村があった。
足りないものがあれば分け合い、困ったことがあれば手を貸し、垣根を越えて暮らしていた。
一人の商人が、その村へ戸の鍵を売りに行くよう命じられた。
「あの村で、鍵なんか売れるものか」
それでも商人は、一軒ずつ家を回った。
「家を守る丈夫な鍵はいかがですか」
村人は笑って答えた。
「この村じゃ、戸に鍵を付ける者なんていないよ」
次の家でも、その次の家でも、答えは同じだった。
何日も通ううちに、いつしか戸を開けてもらえなくなった。
困り果てた商人は、友人に相談した。
話を聞いた友人は、笑って答える。
「簡単じゃないか。僕と持ち場を代わろう」
寒さが厳しくなる頃、友人は鍵を一つ残らず売って戻ってきた。
「どうやったんだ。鍵なんて必要ない村だぞ」
「知っているよ。僕は、冬支度の話をしただけさ」
友人は続けた。
「『今年は凶作で、どこも大変ですね。
お隣は、冬の蓄えが足りないそうですよ』ってね」
商人は、少し黙ってから尋ねる。
「誰かが盗むと、言ったのか」
友人は首を振り答える。
「そんなことは、一言も」
そして、売上を数えながら言った。
「同じ話を隣にも、そのまた隣にもしただけだよ」
「さて、次は石屋と桶屋に話をしに行こう」




