第18話 海野さんと、あの声
駅に着いた俺。やはり、すでにみんな集まっている。
昨日は修学旅行が楽しみすぎて、金城と夜中まで長電話してたから少し寝坊してしまった。
すると、同じ班の翡翠さんと金城が手招きしてきた。
海野さんは休みらしい。
「あ…♡ キョーちゃん遅いよ〜♡」
「まったく……あと少しで新幹線が出発するというのに、君は呑気だね」
「わ、悪ぃ!」
俺は慌ててみんなに頭を下げつつ列に加わり、そのまま新幹線へと乗り込む。
――が、
俺の胸が、ざわりと嫌な音を立てた。海野さんがなぜ休んでいるのかは分からない。
だが、これは何かとんでもないことに巻き込まれているんじゃないか。
そんな不吉な予感が頭から離れなかった。
そして――
「みんな、ごめん!!」
「あっ! キョーちゃん!」
翡翠さんの声を背に俺は走り出していた。これから修学旅行だというのに、構っていられない。
俺は自分の直感を信じることにした。
向かう先は一つ。
海野さんの家だ。
* * *
「海野さん!!」
彼女の家に着くなり、俺は玄関のドアを強く叩いた。
だが、返事はない。
両親の気配もなく、彼女の気配も全くない。
――それはさすがにおかしい。
ドアノブに手をかけると、鍵はかかっていなかった。一瞬ためらったが、俺は中に入る。
……不法侵入だが、そんなことを気にしている場合じゃない。
家の中を一通り探してみるが、誰もいない。
静かすぎるほどだ。
そのとき、胸の奥に嫌な感覚が走った。
俺は二階へ向かう。
確か、海野さんの部屋は二階だったはずだ。
階段を上り、目的のドアの前に立ち、深く息を吸いドアノブを回す。
そして扉を開けた。
するとそこには――
裸のまま掛け布団を放り出し、冷えピタを貼って眠っている海野さんがいた。
今まで布越しにしか見たことのなかったその巨大な胸が露わになっている。
とにかく彼女が無事そうで、ひとまず安心する。
だが、これはまずい状況だぞ。もし彼女が目を覚ましたら、俺は不法侵入の変態野郎として警察にパクられてしまう。
それだけは、なんとしても避けたい。
俺はそっと部屋を出ようとした。
そのとき――
「……京一郎くん?」
「わぁっ!?」
見つかってしまった。
海野さんは慌てた様子で布団を引き寄せ、胸元を隠しながらこちらを見つめている。その表情は、どこか恥ずかしそうだった。
俺は誤解を解くためにここに来た経緯を彼女に説明するのだった。
それからしばらくして、俺は部屋の外に追い出された。
海野さんはその間に部屋の中で着替えている。
気まずい空気のまま待っていると、やがてドアが開いた。
海野さんはすでに服を着ていて、少し照れたような顔をしている。
「大丈夫だよ……風邪ひいただけだから」
「そ、そうか……」
ほっとしたのも束の間、どうしても気になっていたことを聞いてしまう。
「……じゃあ、なんで裸で寝てたんだ?」
「私、裸で寝るのが癖なんだ」
……そんな癖あるんだな。
俺は思わず視線を逸らした。海野さんの、今まで知らなかったエロい一面を覗いてしまった気がして胸がドキドキした。
「それで……どうして、ここに来たの?」
「……あぁ。なんとなく、嫌な予感がしてさ……」
「えへへ、それで心配になって来てくれたんだ」
「うん……」
そう答えると海野さんは一歩、俺との距離を詰めた。
そして、そっと俺の手を握ってくる。
俺と海野さんの顔の距離が、いつの間にか近づいていた。
吐息がかかるほどだ。
――風邪は、うつるだろう。
頭では分かっている。
それでも、止められなかった。
すると、海野さんはそっと俺に唇を重ねた。
「京一郎くん……風邪、うつしちゃうかもしれないけど……ごめんね……私、もう我慢できないの……」
「俺もだよ……海野さん……」
甘く、長いキスを交わす。周りの音も、時間の感覚も、そしてあの声のこともすっかり忘れていた。
――そのときだった。
『いや、だから何でそうなるの?』
またあの声だ。
俺は一旦キスをやめ、周囲を見回しながら声の方へ意識を向けた。
「……この前からそうだけどさ。お前、誰なんだよ!」
『え……?』
少し間を置いて、間の抜けた返事が返ってくる。
『……聞こえてたの?』
「いや、普通に聞こえてるけど……」
――つづく




