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完璧という名の欠陥

作者: 久遠 睦
掲載日:2025/11/04

第一部 確実性の設計者


第一章 侵されざる壁


新宿の超高層ビル、その27階。佐藤里奈の席からは、東京という巨大な都市が、まるで精密な回路基板のように整然と広がって見えた。彼女の視線はしかし、その壮大な景色には向いていない。目の前のディスプレイに映し出された、複雑怪奇なスプレッドシートの海に注がれていた。数日間、チームの誰もが解決の糸口さえ見つけられずにいた、東南アジア向けサプライチェーンの重大なロジスティクス問題。その混沌の中心で、里奈はただ一人、静寂を保っていた。

今年で28歳になる里奈は、この会社で一種特別な存在だった。派手さはないが、彼女に任された仕事は常に完璧に遂行される。その事実は、一種のオーラとなって彼女を包んでいた。彼女の動きに無駄はない。キーボードを叩く音はリズミカルで、マウスを操作する手つきは外科医のように正確だ。周囲の喧騒が嘘のように、彼女のデスク周りだけが静かな集中力に満ちた空間を形成している。

「佐藤さん、ちょっといいかな」。営業部の若手社員が、おずおずと声をかけてきた。彼の声には、自信のなさと里奈への畏敬が混じり合っている。この部署の男性社員の多くが、彼女に対してどこか物怖じしていた。彼女の鋭い指摘や、揺るぎない意見の前に、彼らの根拠の薄い楽観論や勢いだけの主張は、ことごとく霧散してしまうからだ。

「何でしょう」と里奈は顔を上げずに応える。視線は画面に固定されたままだが、その声は彼の問題点を正確に把握していることを示唆していた。彼はしどろもどろに状況を説明するが、里奈は数秒後には彼の話を遮った。「問題はそこじゃない。先週提出された現地の輸送コストデータ、C列の数字の前提が間違っている。再計算して」

その言葉は、決して見下すような響きはない。しかし、議論の余地を一切与えない、絶対的な確信に満ちていた。若手社員は「あ、はい…」とだけ言うと、すごすごと自分の席に戻っていく。これが日常の風景だった。彼女は、混沌に秩序をもたらす存在。彼女の仕事は、彼女自身を守る鎧であり、他者を寄せ付けない城壁でもあった。

静けさが戻ったデスクで、里奈は小さく息をついた。自分の能力が認められ、頼りにされることには、静かな誇りを感じている。だが同時に、言いようのない停滞感もまた、心の隅に澱のように溜まっていた。問題はいつも同じような顔をして現れ、解決策は methodical な思考の先に見つかる。既知の設計図をなぞるような日々に、彼女は渇きを覚えていた。もっと未知の領域へ。設計図など存在しない、真に自分の能力が試されるような挑戦を、心のどこかで求め続けていた。


第二章 条件付きの鍵


その日の午後、里奈は鈴木部長の執務室に呼ばれた。50代後半の鈴木は、社内でも数少ない、彼女の能力を正当に評価し、その芯の強さを買ってくれている上司だった。マホガニーの重厚なデスクに、ブラインドの隙間から差し込む西日が鋭い縞模様を描いている。

「座りなさい」。促されるままソファに腰を下ろすと、鈴木は単刀直入に本題に入った。「来期から、新しい部署を立ち上げる。全部署横断型の『戦略推進部』だ。会社の最重要課題や、高成長が見込まれる新規プロジェクトを専門に扱う、いわば精鋭部隊だ」

里奈は黙って次の言葉を待った。鈴木は彼女の目をまっすぐに見て続けた。「その初期メンバーとして、私は君を推薦した」

一瞬、心臓が大きく脈打った。渇望していた挑戦。その扉が、今目の前に現れたのだ。しかし、鈴木の話はそこで終わらなかった。

「ただし、これは決定事項ではない」。彼の声が、わずかに厳しさを帯びる。「君が正式に採用されるかどうかは、一つの条件にかかっている。現在君がリーダーを務めている『プロジェクト・ノヴァ』。あれを、文句のつけようのない形で成功させることだ」

プロジェクト・ノヴァは、東南アジア市場への新規参入に関する、極めて複雑な分析プロジェクトだった。その成否が、彼女の未来を決めると言うのだ。これは過去の実績に対する報酬ではない。未来への参加資格を賭けた、極めて難易度の高いオーディションだった。失敗すれば、この話はなかったことになる。セーフティネットは、どこにもない。

興奮と、それと同じくらいの強烈なプレッシャーが、里奈の全身を駆け巡った。彼女には、役職に対する野心はない。しかし、自分の限界を試したいという欲求は、誰よりも強かった。彼女は顔を上げ、その落ち着いた瞳で鈴木を見返した。「承知いたしました。必ず、結果を出します」

その声には、いつものように微塵の揺らぎもなかった。だが執務室を出た彼女の胸の内では、これまでに感じたことのないほどの闘志の炎が、静かに、しかし激しく燃え上がっていた。


第三章 最後の設計図


それからの数週間、里奈の日常はプロジェクト・ノヴァ一色に染まった。深夜まで明かりの灯るオフィスで、窓ガラスに反射する自分の姿と向き合う。データと睨み合い、予測モデルを構築し、あらゆる仮説に対してストレステストを繰り返す。彼女のプロセスは、完璧な建築物を建てる建築家のように、緻密で、一切の妥協を許さなかった。

会議では、彼女の論理が常に場を支配した。曖昧な希望的観測を口にする役員に対し、彼女は冷静にデータを提示し、潜在的リスクを一つひとつ丁寧に、しかし容赦なく指摘していく。彼女の完璧な準備の前では、いかなる反論も力を失った。

そして、最終プレゼンテーションの日が来た。役員たちが居並ぶ重苦しい雰囲気の会議室で、里奈はただ一人、スクリーンの前に立った。彼女のプレゼンテーションは、一つの淀みもなく進んだ。予測される全ての質問に対する答えは、既にスライドの中に織り込まれている。彼女のロジックは難攻不落の要塞のように、誰の侵入も許さなかった。

プレゼンテーションが終わると、一瞬の沈黙の後、会場は賞賛のざわめきに包まれた。プロジェクトは、満場一致で承認された。

会議室を出た里奈に、鈴木部長が近づき、無言で力強く頷いた。言葉はなかったが、それで十分だった。新しい部署への切符は、確かに手に入れた。その夜、里奈は再びオフィスの窓から外を眺めた。しかし、彼女の目に映っていたのは、もはや秩序だった街の灯りではない。その先に広がる、まだ見ぬ未知の領域を示す、地平線だった。彼女は成功した。そしてその成功は、「完璧さこそが前進するための唯一の道である」という彼女の信念を、さらに強固なものにしたのだった。


第二部 疑念の反響室


第四章 新しい軌道


戦略推進部の初日。里奈が足を踏み入れたその場所は、彼女がこれまで慣れ親しんできた静かなキュービクルの世界とは全く異なっていた。壁一面のホワイトボードには複雑な図式や数式が殴り書きされ、空間全体がまるで沸騰しているかのような、運動エネルギーに満ちていた。

そこで彼女は、3人の同僚と顔を合わせた。彼らこそが、社内でも「エリート」と呼ばれる男たちだった。

田中健司。このチームの非公式なリーダー格。トップ大学出身で、カリスマ性と人を惹きつける早口が特徴の、大局的なストラテジスト。彼はフレームワークで物事を考え、アイデアから実行までの思考速度が常人離れしていた。

武田均。データサイエンティスト。口数は少ないが、その眼光は鋭い。定量分析のバックグラウンドを持ち、複雑なモデルを頭の中だけで構築してしまう天才肌。彼の言語は、言葉ではなくデータだった。

森慎二。実行のスペシャリスト。エネルギッシュで現実主義者。社内のあらゆる部署に顔が利き、官僚的な手続きをいとも簡単に突破していく。彼の口癖は「とりあえず、やってみよう」だった。

最初のミーティングは、里奈にとって悪夢のようだった。専門用語や略語が飛び交い、前提条件が目まぐるしく変わっていく。彼らは数分で議論し、方針を転換し、次のアクションを決定していく。里奈が最初の前提を理解しようとしている間に、議論は遥か先へと進んでいた。彼らは100%の確実性を求めない。80%の確信があれば、即座に動く。完璧な準備を信条としてきた里奈は、まるでコンクリートの靴を履いてマラソンを走らされているような、圧倒的な疎外感に襲われた。かつての部署では、周りの男性社員が彼女の判断を仰ぎに来た。しかし、ここでは全く逆だった。彼女は、ただ彼らの会話の速さについていくだけで精一杯だった。


第五章 基盤の亀裂


最初の数週間で、里奈の自信は少しずつ、しかし確実に蝕まれていった。それは、小さなつまずきの連続だった。

市場データの抽出を任された時、彼女は丸一日をかけて、データの正確性を三重にチェックした。完璧なデータセットを手にミーティングに臨んだ彼女に、武田が静かに言った。「佐藤さん、ありがとう。でも、昨日僕が概算で出したデータで仮モデルを組んで、もう次のフェーズに進んでいるんだ」。彼女の完璧な仕事は、その価値を失っていた。

戦略会議で、健司が彼女に意見を求めた。「佐藤さんは、このアプローチをどう思う?」。彼女はその戦略に潜在的な欠陥を見出したが、それを論理的に証明するには、もう少し時間が必要だった。彼女が口ごもった、そのわずか数秒の沈黙を、森が突き破った。「時間がない。リスクはあるが、B案でいこう!」。チームは即座にそれに同意し、彼女の懸念は誰にも省みられることはなかった。彼女の慎重さは、ここでは決断力の欠如と見なされた。

チーム内のコミュニケーションは、専用のチャットツールで、彼らだけの暗黙の符牒を交えて、絶え間なく行われていた。彼女が分厚い資料を読み込んでいる間に、チャット上では重要な決定がなされ、彼女の作業がチーム全体の進捗からわずかに、しかし恥ずかしいほどズレてしまうこともあった。

一つひとつの「失敗」が、彼女の鎧に亀裂を入れていく。彼女は、チームの速度こそが、唯一の能力の指標なのだと内面化し始めた。かつて誇りだった緻密さは、今や「遅さ」の証にしか思えない。熟考は、優柔不断の裏返しに感じられた。盤石だったはずの自信は、砂上の楼閣のように、急速に崩れ始めていた。


第六章 偽りの自分


深夜、新しいオフィスのデスクで、里奈は一人、ディスプレイの明かりに照らされていた。壁のホワイトボードに描かれた、流れるような自信に満ちた線が、彼女を嘲笑っているように見えた。次のタスクに取り掛かろうとしても、指が動かない。またミスを犯すのではないかという恐怖が、彼女の思考を完全に麻痺させていた。

彼女の頭の中では、自己嫌悪の言葉が嵐のように吹き荒れていた。犯したミス、ためらった瞬間、ついていけなかった会話。それらが何度も何度も再生される。同僚たちの姿を思い浮かべると、そこにいるのは、いとも容易く輝きを放つ天才たちにしか見えなかった。

そして、彼女は結論に至る。今までの自分の成功は、単なる偶然だったのだ。要求水準の低い、ぬるま湯のような環境だったから、完璧でいられたに過ぎない。自分は、ここにいるべき人間ではない。偽物インポスターなのだ。かつて、何者にも侵されないと思っていた自信の壁は、今や瓦礫の山と化していた。

週末に、鈴木部長に異動願いのメールを書こう。そう、彼女は静かに決意した。


第三部 居酒屋の告白


第七章 予期せぬ序曲


その日も、里奈にとっては心身ともにすり減る一日だった。週末に異動願いのメールを起草することを心に決め、力なくバッグに荷物を詰めていると、背後から声がかかった。

「佐藤さん、ちょっと時間ある?一杯、どうかな」。声の主は、健司だった。

彼の気軽な誘いに、里奈の心臓は凍りついた。これは、最後通牒だ。君はこのチームのやり方には合わない、と優しく告げられるための、前置きに違いない。彼女は、迫り来る運命を受け入れるしかないという、無感覚な諦念とともに頷いた。「…はい」


第八章 失敗の福音


健司が彼女を連れて行ったのは、会社の近くの、きらびやかなネオンとは無縁の、新宿の裏路地にある小さな居酒屋だった。温かみのある照明が、二人の間の緊張をわずかに和らげる。ビールといくつかの小皿料理を注文し、当たり障りのない話が続いた後、健司はふっと表情を変え、本題に入った。

「この間、鈴木部長と少し話す機会があってね。佐藤さんの前の部署での仕事ぶりを、絶賛していたよ。『彼女の仕事にミスがあったことは一度もない』って」。そう言うと、健司は悪戯っぽく笑った。「それなんだよ、問題は」

里奈が意味を測りかねて彼を見つめると、健司は続けた。「エリートなんていう神話を、まず壊させてほしい」。彼は、自身の2年前の壮大な失敗について語り始めた。彼が主導したプロジェクトが大失敗に終わり、会社に数億円の損害を与え、クビ寸前までいったこと。武田がかつて、たった一行の誤ったスクリプトで、会社の重要サーバーのデータを全て消し去ってしまったこと。森の鳴り物入りの最初の製品ローンチが、市場から全く相手にされず、歴史的な大失敗に終わったこと。彼はそれらを、恥ずべき秘密としてではなく、自分たちを形作った、極めて重要な学びの経験として語った。

そして、彼は里奈の目をまっすぐに見て、この夜の核心を突く言葉を口にした。「君が今、苦しんでいるのは、ミスをするからじゃない。今まで、一度も大きな失敗を許されてこなかったからだ。君の呪いは、成功しかしてこなかったことなんだよ」

健司は言った。「完璧であろうとすることをやめて、学ぶことに集中してほしい。君が転んだら、俺たちが絶対に支える。そのためにチームがあるんだから」。彼の言葉は、空虚な慰めではなかった。それは、失敗を乗り越えてきた者だけが持つ、確かな重みを持っていた。

「俺たちは、新しい何かを創るためにここに集められた。最強で、最高のチームを作ろうじゃないか」。健司はそう言って、ビールジョッキを軽く掲げた。


第九章 違う種類の強さ


帰りの電車の中、窓の外を流れていく東京の夜景が、滲んで見えた。健司の言葉が、何度も何度も頭の中で反響する。胸の上に重くのしかかっていた鉛の塊が、少しずつ溶けていくのを感じた。

同僚たちの顔が、心の中に浮かび上がる。彼らは、自分を裁く裁判官でも、蹴落とすべきライバルでもなかった。それぞれが自分の失敗と向き合い、それを乗り越えてきた、戦友なのだ。彼女を縛り付けていたのは、彼らの優秀さではなかった。失敗を恐れる、自分自身の心だった。彼らは彼女を無視していたのではなく、彼女が泥にまみれて戦いの輪に加わるのを、待っていてくれたのかもしれない。

ここにいるのは敵じゃない。仲間なんだ。

その思いが、彼女の中で確かな形になった時、涙が一筋、頬を伝った。それは、自己憐憫の涙ではなかった。

家に帰り着いた里奈は、パソコンを開き、書きかけだった異動願いのメールを、迷いなくゴミ箱にドラッグした。そして、ディスプレイに映る自分の顔を見つめた。そこにいたのは、偽物の自分インポスターではなかった。ただ、人間であることを許された、一人の女性がいただけだった。


第四部 協奏の頂へ


第十章 最初の質問


翌朝、戦略推進部のオフィスは、里奈にとって全く違う場所に感じられた。相変わらずペースは速いが、もはや脅威ではない。

その日、彼女は複雑な需要予測モデルの前提条件について、確信が持てずにいた。以前の彼女なら、誰にも聞かず、一人で一日中資料を調べていただろう。しかし、新しい里奈は違った。彼女は深呼吸を一つすると、武田のデスクへまっすぐ向かった。

「武田さん、APACモデルの成長率の前提について、少し自信がありません。どういうロジックでこの数字を置いたのか、教えていただけますか?」

一瞬驚いた顔をしたが、武田はすぐに嬉しそうに頷き、ホワイトボードの前に立つと、彼の思考プロセスをよどみなく説明し始めた。その会話を耳にした森が、「あ、その件なら、現地のキーマンから昨日新しい情報が入ってる。その数字、もう少しアグレッシブにできるぞ」と割って入った。

健司も加わり、わずか5分の共同作業で、彼らは里奈が一人で丸一日かけても辿り着けなかったであろう、より精度の高い答えに到達した。彼女の弱さの開示は、非難されるどころか、即座に効果的な協力を生み出した。それは、彼女にとって小さな、しかし革命的な瞬間だった。


第十一章 新しい役割を築く


それからの一年間、里奈は変わり続けた。そして、チームもまた、彼女によって変わり始めた。

彼女は、彼らの速度に追いつこうとすることをやめた。代わりに、彼女が本来持つ緻密さや慎重さを、チームを補完するスキルとして活かす道を選んだ。彼女は、チームの「主席懐疑論者」になった。健司が打ち出す華麗だが時に性急な戦略に対し、「この仮説が間違っている可能性は?」と問いかけるのが、彼女の役割となった。武田が構築する美しいモデルの裏に潜む、わずかなデータの偏りや、森の実行計画に見過ごされたリスクを指摘するのも、彼女だった。

彼女は速くはならなかった。しかし、彼女の存在が、チーム全体をより「賢く」した。彼女の問いが、チームを致命的なエラーから何度も救った。彼女の自信は、再びその輝きを取り戻した。だがそれは、かつてのような個人の完璧さに根差した、脆いものではなかった。チームへの独自の貢献という、揺るぎない土台の上に築かれた、しなやかで強靭な自信だった。


第十二章 頂からの景色


一年後。戦略推進部は、役員会で年間の活動報告を行っていた。彼らが手掛けた二つの新規事業は、会社に莫大な利益をもたらし、部署の存在価値を誰もが認めるところとなっていた。

プレゼンテーションの後、CEO自らが立ち上がり、宣言した。「戦略推進部は、本日をもって恒久的な組織とする。来月より、新たに5名のメンバーを増員し、さらなる発展を期待する」

その夜、プロジェクトルームには、創業メンバーである4人だけが残っていた。健司、武田、森が、改まって里奈に向き直った。

「里奈さん、ありがとう」。健司が口火を切った。「俺たちは速かったかもしれない。でも、君が俺たちを正しくしてくれた。君がいなければ、この成功は絶対になかった」

武田と森も、深く頷いた。彼らの言葉は、里奈への心からの感謝と尊敬に満ちていた。

そして健司は、彼女の未来について語り始めた。「新しく入ってくる5人のこと、君にメンターとして指導役を任せたいんだ。スピードと緻密さ、野心と相互扶助。そのバランスが、このチームの強さだ。その文化を、君に教えていってほしい」

それは、彼女がこのチームの文化そのものを体現する存在になったことを意味していた。

里奈は、目の前にいる3人の顔をゆっくりと見渡した。かつて畏怖の対象だった彼らは今、かけがえのない仲間であり、友人だった。恐怖はもうない。そこにあるのは、深い所属感と、これから始まる新たな挑戦への高揚感だけだった。彼女は、ただ自分の居場所を見つけただけではない。彼女自身が、その大切な場所を、仲間と共に築き上げたのだ。


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