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小西未来の日常
悔しさが、喉の奥で苦い錆のように残っていた。
誰にも見せない表情で、彼女は机に手を置き、深く息を吐いた。
――なぜ、わからないのだろう。
――なぜ、自分にはまだ、できないのだろう。
その問いは夜の静けさとともに、何度も胸の中で反響した。
他人と比べているのではない。ただ、自分の限界が自分を責めてくるのだ。
「理解できない」という現実が、「できていない」という今が、彼女の誇りに小さく針を刺す。
けれど、彼女は知っていた。
もしもその壁を越えることができたなら――
もしも、今のこの霧が晴れたなら――
その先に待っているのは、悔しさではない。
きっと、「楽しい」と呼べる世界だ。
だから彼女は、今日もまた鉛筆を握る。
目に見えぬ答えを追いかけ、少しだけ強く、自分の名前を心の中で呼んだ。