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キンセンカ  作者: 櫻美
9/9

叔父さんが帰った後、私は部屋から出れず

夕飯も食べないでそのまま眠ってしまった。

学校に行く為、無理やり身体を起こして

風呂に入り居間へ行くと支度をする父。


「おはよう」

「間に合うのか?学校はちゃんと行けよ」

「うん、わかってる」


父はいつも通りだった。なので

私もいつも通りにした。

学校の帰り道、何となくそのまま真っ直ぐ

家に帰る気がしなかった私は

ふと、この前立ち寄った店を思い出した。

道を変え制服姿のまま赤く染まり始めた空の下を

歩いて行く。続く空を眺めながら歩いていると

こんな事を思い出した。

それは、私がまだ小さい頃の事。

友達と二人で公園で遊んでいた。

夢中で遊んでいた私達だったが公園にある

時計のチャイムが鳴るのを聞いて帰る事になり

それぞれ帰路についた。その帰り道に何となく

いつも通る道とは別の道を通って帰ろうと思い

知らない道、景色をみながら進み

最初こそ冒険のようなワクワクした気分で

帰っていたけれど迷子になってしまった。

ワクワク感は遠くに消え去り残ったのは

焦りと孤独だけだった。完全に帰路を見失い

しゃがんで泣く事しか出来なかった私は

たまたま通りかかったお巡りさんに連れられ

近くの交番に保護された。

名前などを聞かれ暫くすると

「すぐに迎えに来てくれるって、良かったね」と

優しい顔をして微笑まれ

そこでやっと安心できた私は

交番で出してもらったお菓子を食べながら

呑気に母が来るのを待っていた。そして、

すぐに迎えは来たが、そこに居たのは父だった。

勝手に母が来るもんだと思っていた私は

父の姿を見て安堵どころか焦りが上回った。

「きっと叱られる、そうに決まっている。」

その思い込みが頭をいっぱいいっぱいにして

涙が止まらなかった。

お巡りさんと父はキョトンとした顔で

お互い顔を見合わせていた。


「ご迷惑をおかけしました。」

「いえいえ、お嬢ちゃん良かったね。」

「ほら、帰るぞ」


私の手を引いて交番の外まで出た父は

「ありがとうございました。」

頭を下げて丁寧に感謝を伝えた。

手を引かれどんどん交番から離れ

お巡りさんの姿も見えなくなったら

きっと父に叱られるんだろう、そう思うと

ビクビクして仕方がなかった。

父の顔色を伺っていると父はちらりと

私の顔を見てすぐに向き直ると


「どこで寄り道してたんだ?それとも

遊び足りなかったか?」


今までに聞いたこともないぐらい

それは、穏やかで優しい声だった。


「ううん」ホッとして思わず笑みが溢れる私を

父は大きい手で頭を撫でた。

また、手を繋ぎ直して家を目指す。


今日の空はなんだかあの時の空に

よく似ている。

忘れていた筈だった小さい頃の記憶は

昨日の出来事の様に鮮明に思い出さされた。

そして、気づけば店の前まで来ていたけれど

残念ながら店は空いていなかった。

手書きの「準備中」の文字を見つめながら

突っ立っていると


「ははは、そうか、定休日か」


聞き慣れた声でそう呟く男。

私を上から下まで見て「学校帰り?」


「うん、茂兄ちゃんは何してるの?」


店を指差して「だんご、食べたくなって」

「そう、」


「もしかして、暇?」

「うん、まぁ。」

「なら、ちょっと散歩でも付き合って」

「別にいいけど、」


茂兄ちゃんは私の返事を聞いて

ゆっくりと歩みを進めた。

何となく横に並んで歩くのが気まずくて

二、三歩後ろをゆっくり歩く。

見上げて「綺麗だな」って言ってみたり

大きなあくびをしてみたり

自由で気ままで、まるで猫みたい。


「そうだ、この間ごめんな。」

「ううん、あの後大丈夫だった?」

「ははは、酔っ払っていたから帰って

すぐに寝ちゃってさ。」

「そう、叔父さんとは?仲直りしたの?」


茂兄ちゃんは少し黙って

「ううん」と気まずそうに小さく答えてみせた。


「仲直り、しないの?」

「どうだろうな、俺の事なんて

呆れてるだろうからな」

「どうしてそう思うの?」

「どうしてって、こんなだから。」

寂しく笑う茂兄ちゃん、弱った姿を見て

どうにかしてあげたい気持ちと

この間、父との会話で聞こえてきた

叔父さんからの「あかんのかも知れへんな」

頭の中はぐちゃぐちゃだった。

ただ、「いやだ、いやだ」と心で訴える声だけが

自分の中を埋め尽くす。


「なぁ、静、俺って駄目な奴か?

みっともないか?」

「駄目じゃないけど、でも、」

「でも?」

「お酒、やめてみたら?」

「ははは、酒?それ、関係あんの?」

「あるよ、ねぇ、お酒やめるって私と約束して?

酔っ払った茂兄ちゃんはすっごく駄目よ」

「はは、うーん、そうだな、」


茂兄ちゃんは腕組みをして

悩む様子を見せた。


「あと、叔父さんとも仲直りして?」

「それは出来たらするさ、」

「出来たらじゃ駄目。私が嫌なの」

「ははは、どうして静がそこまで」

「じゃあ、駄目な奴でいいの?」


茂兄ちゃんは「ははは、それは嫌かな」と答え

続けて「ちゃんと仲直りしたらご褒美は?」

子供のようなそれでいて真っ直ぐな目で

言うもんだから思わずドキッとしてしまった。


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