第5章 旅立ちと仲間
キラとティアは工房街からキラの工房へと向かった。
今度は、どこか緊張した様子で、ティアはキラにぴったりと寄り添うようにしていた。
工房街や主要な村から離れた小さな浮島にあるキラの工房は、彼が一人で切り盛りしてきた場所であり、ここでの時間がキラを成長させ、そして夢を膨らませた場所だ。
キラはすぐに作業台に向かい、旅の準備を始める。
ティアも少し手伝おうとするが、キラが止める。
「君は、これから色々と大変だろうから、少し休んでいて。」キラは優しく言った。
「ありがとう。」ティアは静かに頷き、工房の隅で座りながらキラの準備を見守った。
その時、扉が開き、軽やかな足音が響いた。キラが振り向くと、そこには赤髪の少年が立っていた。
「久しぶりだな、キラ!」
「ケーニッヒ!」キラは驚きの声を上げる。
ケーニッヒはキラの幼馴染で、昔からカイトの競走や、2人とも虹光師としての力が備わっていたことをお祝いしり、兄弟のように育った。ケーニッヒは赤色の力を光石にできる虹光師だ。ガジェットのところでもよく顔を合わしていた。
「ガジェットさんから聞いたぞ。お前、どうやらかなり厄介なことに巻き込まれているらしいな。」
ケーニッヒは真剣な表情に変わり、キラに近づいた。
「ガジェットさんが?」キラは驚く。
「中央騎士団の動きを探ってお前に伝えろと言われてな。見たところ20人くらいが4つの小隊に分かれて誰かを探しているみたいだ。 でも、安心しろ。何に巻き込まれていのか知らないが、お前の手助けをするのは当然だろ?」ケーニッヒは肩をすくめる。
「それで、どうする?」ケーニッヒはキラの目を見て尋ねた。
「もう決めてるよ。父さんの研究を完成させるために、7つの遺跡を探すんだ。まずは紫重本島へ行く。」
キラは力強く答える。
「本島か…。それなら、少し準備が必要だな。」ケーニッヒは少し考えてから言った。
その表情はどこか寂しげだったが、パッと顔を上げて言葉を続ける。
「でも、急げ。今、職人の工房を騎士たちがしらみ潰しに調べてる。職人たちは自分の領分を荒らされるのが気に食わないから、抵抗して時間がかかるだろうが、時期にここにもくるぞ。」
ケーニッヒの言葉にキラは頷き旅の準備に集中し始めた。
「それじゃあ、俺は様子を見てくる。ガジェットさんと他の職人たちにも協力してもらって、騎士たちを足止めめしてやるよ!」
そう言ってケーニッヒは工房から出て行った。
キラはカイトに追跡を逃れるための「隠匿石」や、敵の視界を欺く「幻影装置」の設置し、必要な道具を身につける。
虹結晶を専用ホルダーにしっかりと固定する。自作のゴーグルを額に乗せ、7色の力の流れを見逃さない準備を整えた。最後に指出しのグローブを丁寧に装着し、光石生成や虹の光を操る感触を確かめる。
すべての準備が整うと、キラは満足そうに微笑んだ。
「よし、これで大丈夫だ。」
彼は自らの力を信じ、旅立つ決意を新たにした。
その時、工房の窓から外の様子を見ていたティアが言った。
「誰か来るわ!」
するとケーニッヒが駆け込んできた。
「準備はできたか?あいつら捜索範囲を広げるみたいだ!小隊が一つこっちに向かってきているぞ」
「あぁ!いつでも行ける!」
キラは笑顔で応えた。そしてティアを見て微笑む。
「うん。」ティアは力強く頷いた。
「よし、行こう!」
「紫重島に向かって、出発!」2人はカイトに乗り込み空へと上がる。
空に上がるキラたちのカイトに向かってケーニッヒが叫んだ。
「ガジェットさんから伝言だ!『キラ坊、嬢ちゃん、お前たちが行く道を作っておいてやるから、早く出発しろ。』だってさ!」
伝言を受け取ったというふうにキラはケーニッヒに向かってグッドサインを出した。
空に上がると、騎士たちの小隊がこちらに向かってくるのが、見えた。
「ありがとうケーニッヒ!気をつけ…」
キラが言い終わる直前、ドーンという音とともに工房街から花火が上がった。
キラはカイトを一気に上空まで浮き上がらせた。下からケーニッヒが手を振っているのが見える。
「ティア、しっかりつかまって!」
キラはカイトを加速させ、街からどんどん離れていく。
カイトに取り付けた「隠匿石」が力を発揮し、周囲の視界が歪み始めた。
キラは視界が消えたその瞬間、さらに加速し、姿を完全に隠すことができるようにした。
ティアはキラにしがみつきながら、周りを見回していた。工房街や広場で打ち上げられる花火が、キラキラと輝きながら日の光を浴び、まるで目くらましのようだった。
ドーン!ドーン!と次々に花火が打ち上げられると、騎士団は統率を失い混乱していた。
花火が空を照らす間に、カイトはすでに騎士の視界から完全に消え、追跡をかわすことができていた。
キラの心は落ち着いていた。
「このまま、どこまでも逃げられる。」
キラは更にカイトの速度を上げ、風を切って飛び続ける。
ティアはそのスピードに圧倒されながらも、今まで感じたことのない解放感を胸に感じていた。
「すごい…!本当に、誰にもつかまらずに、こんな遠くまで行けるんだ。」
カイトはもう、工房街の光さえも遠くなり、広大な空へと向かって飛んでいた。