第1章 キラと虹の力
朝日が水平線から顔を覗かせる頃、空島セチエンの空は早くも七色に輝いていた。キラ・セチエンは工房の屋根に立ち、目を細めて空を見上げた。彼の足元には、自作の飛行具「カイト」が虹色の光を受けてきらめいている。
「今日はいい風だな。」
自信に満ちた声を漏らすと、キラは軽やかにカイトに飛び乗った。魔法と技術を融合させたその乗り物は、虹光の力を動力にして空を滑空する特別な装置だった。
彼はカイトの操縦桿を握り、足元に備え付けられた虹光石を軽く叩く。「赤」の光が淡く輝き、装置が生み出した熱風がカイトをふわりと浮かせる。
「よし、行くぞ!」
風を切る音が響き、カイトは一気に空へと駆け上がった。
空に浮かぶ虹の弧が近づくにつれ、キラは操縦桿を微調整しながら高度を保った。虹の中に入ると、周囲は鮮やかな七色の光に包まれ、空気が心地よく震える。
キラは虹の力の流れを図るゴーグルをつけ、カイトの虹光収集装置を作動させ、ると、虹光を吸い込むように装置が輝き始めた。キラは慣れた手つきで操縦桿を操作しながら、周囲の虹光の流れを目で追う。
「赤、確保。次は橙だな……」
虹光を集める作業は単純ではない。色ごとに違う動き方をする光の粒子を見極め、適切なタイミングで装置に取り込む必要がある。
「ほら、こっちだ!」
キラは橙の光を追いかけるようにカイトを急旋回させた。虹の光が尾を引くように輝き、彼の視界に無限の色彩が広がる。その景色に、彼は思わず笑みをこぼした。
光を一通り集め終わると、キラはカイトをゆっくりと旋回させながら空の広がりを見渡した。眼下には他の空島が小さな点のように浮かんでいる。雲の海が広がり、その上にぽっかりと浮かぶ空島群。その光景は、いつ見ても彼の胸を高鳴らせるものだった。
「やっぱり、空はいいな……」
キラは深呼吸して、吸い込む空気に微かに虹の香りを感じ取る。この世界がどれだけ広くても、やはり空にいると心が自由になる気がした。
しかし、その自由の中で、彼の思考はいつも同じ場所へとたどり着く。
「大地って、どんな場所なんだろう?」
カイトを滑空させながら、彼は工房に置かれた父のノートのことを思い出していた。「七つの光が空と大地を繋ぐ鍵となる。」その言葉の意味を、彼はまだ完全に理解できていない。しかし、心の奥底では、その真実を確かめたいという衝動が燻っている。
工房に戻ると、キラは収集した虹光を光石に加工する作業に取り掛かった。カイトの搭載装置が取り込んだ光を分離し、専用グローブから自分の力を流し込み、加工していく。七色の光石が次々と完成するたびに、彼の顔に満足げな笑みが浮かぶ。
「これで今日の分は終わりだな。」
光石を箱に詰め、ひと息ついたキラの視線が、工房の隅に置かれた古びた木箱に吸い寄せられる。
箱には、父が遺した研究資料が収められていた。空島の人々にとっては謎に満ちた言葉――「大地」。キラはノートを開き、そこに描かれた広大な平野や山脈の絵を見つめる。
「もし、本当にどこまでも続く場所があるなら……」
彼は絵を見ながら、自分がその地に立つ姿を想像した。どこまでも広がる土地を駆ける風、足元の確かな感触。それを思い浮かべるだけで、胸が高鳴る。
父が追い求めた「大地」の謎。それを解き明かすことが、自分に何をもたらすのかはわからない。それでも、キラにはその先に進むべき理由があると信じていた。