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空と大地の虹物語  作者: スズヨシ リュウ
序章 - 追われる少女**
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第7章 万病の霧

 キラたちは屋敷を後にし、次の調査の準備を始めた。

「中央島、橙土島、赤炎島……どの島も青水島のポーションを独占して覇権を握りたいのね。なぜ、みんな力を欲しがるのかしら…。」ティアがつぶやく。

「みんな、誰かが自分より強い力を持つのが怖いんだ。力を持つ人間は、それがどんな力であれ、他の誰かにとっては希望にも、脅威にもなる。だけど――」

キラは優しく微笑みながら言葉を続ける。

「力は使う人次第だよ。僕はみんなが自由でいられる未来を作る方を選びたい。」

ティアはキラの言葉にホッとした表情で、黙って微笑むのだった。


 西の大湖に到着し、ティアがそっと湖に手を伸ばし、水を指先で触れた。その瞬間、彼女の表情が険しくなる。

「これ、普通の汚染じゃないわ。水のエネルギーが…歪んでる。」彼女の声は低く、どこか不安げだった。「何かが流れを狂わせてるみたい。」

キラは少し眉を寄せ、ティアの言葉を反芻する。

「歪んでる、か…。これだけ広い湖を汚染させるなんて、いったいどんな装置が仕掛けられているんだ。」キラの声には不安の色が混じっている。


リュイが周囲を見渡しながら低い声で言った。「長居するのは危険だ。とりあえず装置を探そう。」

「分かった。」キラは短く答え、ゴーグルを調整しながら深呼吸し気持ちを切り替えた。「…とにかく原因を突き止めないとな。」

キラはゴーグルを調整しながら頷き、3人は慎重に湖畔を進んだ。


探索を進める中で、黒い球体の装置が見つかった。奇妙な光を放つ結晶が埋め込まれており、不気味な音を立てて湖水を吸い込んでは汚染物質を吐き出している。

「これだな。」キラが装置を指差す。

「一つだけでこんな状態になるの?」ティアが眉をひそめ、黒い球体を睨んだ。

キラは装置を覗き込み、冷静に分析するように言葉を続けた。

「この湖全体を汚染した原因だとすれば、これ一つじゃ不自然だ。多分、同じような装置が複数水面に浮かべられているんだと思う。」

「でも、こんな広い湖をどうやって全部探すの?」ティアの声には焦りが滲んでいた。

キラは一瞬考え込んだ後、顔を上げて笑みを浮かべる。

「大丈夫だよ。森の泉でやったのと同じ容量だよ。今回は範囲が広いから湖の水全部じゃなく、水面に力を流して装置を一気に反応させれば、まとめて対処できるはずだ。」

自信に満ちた声には、状況を打開する手立てを見つけた喜びが混ざっていた。

だが、その時、リュイが静かにその場を離れる。

「リュイ?」ティアが振り返る。

「周りを見てくるだけだよ。湖全体に力を流すとなると、何が起きるかわからない。警戒しておかなきゃね。」リュイの笑みは穏やかだったが、その目はどこか緊張していた。

キラはリュイの後ろ姿を見つめ、心の中で疑問が芽生える。彼の行動にどこか違和感を覚えたが、今はそれを追及するよりも、目の前の問題に集中するべきだと自分に言い聞かせる。

「……周囲の警戒はリュイに任せよう。」

――――――――

ティアは湖に向き直り、両手をゆっくりとかざした。彼女の体内から湧き上がる力が薄い光の波となり、湖面に広がっていく。だが、その動作にはわずかな緊張が見える。

「ティア、君の力だけが頼りだ!こんな広範囲に行き渡らせる力は、僕にはない。」

ティアは一瞬だけ振り返り、自信を宿した笑みを見せる。

「大丈夫よ、キラ。力は使い方次第なんでしょ?」

だがその直後、背後から低く響く足音が近づく。

「誰か来る!」キラが振り返った瞬間、数人の武装した兵士が姿を現した。

「こんな時に…!」キラが叫ぶ。

ティアの集中を乱さないよう、彼は即座に前に出て立ちはだかった。

「ティア、君は装置を破壊することに集中して!ここは僕がなんとかする!」

兵士の一人が冷徹な声で命じるように言い放つ。

「リーナを解放してほしくば、役目を果たせ。」

その名前を聞いた瞬間、キラの動きが止まった。

「リーナ…?」キラの声には疑念と驚きが入り混じっていた。

その視線の先、兵士たちの側に立つリュイの姿が浮かび上がる。

「…リュイ?」キラの声は震え、信じられないという感情がありありと表れている。


 リュイは剣を抜き、キラたちを遮るように立ちはだかった。その顔には葛藤が滲んでいる。

「姉を守るためなんだ…仕方なかったんだ!」

キラの目に怒りが灯る。だが、その怒りはただの憤りではなく、失望が混ざった複雑なものだった。

「リュイ…君がずっと僕たちの邪魔をしていたのか?信じていたんだぞ、ずっと!」

リュイは歯を食いしばりながら叫んだ。

「ああ、そうだよ!泉の汚染装置を破壊したのも、滝に罠を仕掛けたのも、全部俺がやったんだ!」

その声には自嘲と後悔が入り混じっていた。

キラは一瞬言葉を失ったが、再びリュイに向き直り、強い口調で問いかける。

「リュイ、それで本当にリーナが喜ぶと思ってるのか⁈ 君の行動が島をどれだけ傷つけたか、わからないわけじゃないだろう!汚染されたこの湖を見て、リーナがどう思うか考えたことがあるのか⁈」

リュイは拳を握りしめ、目を逸らした。キラの言葉が彼の胸を貫いたのだ。

「俺だって…分かってるさ。でも…選べなかったんだ!リーナを失うか、島を捨てるか…どっちかしかないなら、俺は…!」

その言葉を聞いたティアが静かに口を開いた。彼女は湖のエネルギーを操りながらも、リュイに真っ直ぐな視線を向けている。

「リュイ、選ぶべきなのはどっちでもない。私たちはいつだって、正しい道を切り開くために戦ってきたの。あなたも一緒にね。」

リュイの顔が一瞬だけ歪む。その心に再び迷いが生じたのが明らかだった。

キラが最後に低く語りかける。

「リュイ…僕たちは仲間だ。君のために戦える!僕たちは君を裏切ったりしない。だから、君も…」

その言葉にリュイは唇を噛む。その目には苦悩の色が濃く宿っていた。


「やれ!」

迷うリュイをよそに、兵士たちは一斉にキラたちへ攻撃を仕掛けてきた。

キラはすぐさま腰に手を伸ばし、粉袋を取り出すと地面に叩きつけた。その瞬間、彼の手から緑色の光が粉袋に注ぎ込まれる。

「ここは通さない!」

粉袋から飛び出した黒い砂を含んだ風が渦を巻き、勢いよく兵士たちに吹き付けられる。砂を吸い込んだ兵士たちは突如、咳き込みながら崩れ落ちた。

「どういうことだ!」

指揮役の兵士が怒声を上げ、混乱した様子でリュイを睨みつけた。

キラは兵士たちを睨み返しながら苦々しく言った。

「カラタイトだ。水を汚染するなら、空気だって汚染できる。けど、こんなふうに人を傷つけるためのものじゃなかったはずだ!」

「ええい!無駄話は終わりだ!!」

指揮役の兵士が剣を抜き、キラに向かって斬りかかった。

だが、兵士の剣はキラに届かなかった。

「やめろ!」

鋭い金属音が響き渡る。リュイが瞬時に短剣を構え、兵士の剣を受け止めたのだ。

「お前!裏切るのか!姉がどうなってもいいのか!!」

兵士の怒声が湖畔に響き渡る。

リュイは短剣を押し返しながら低く唸るように言った。

「うるさい!姉さんがそんなことで喜ぶはずがない!自分が助かるために島を汚染したなんて知ったら…姉さんは…きっと悲しむだけだ…!」

リュイの手がわずかに震えた。その瞳には後悔と苦悩がにじんでいる。

「…俺は間違っていた。」

そう呟いた瞬間、湖全体が眩い光に包まれた。

カッ!!!!

湖の至る所で爆発音が連鎖的に響き渡る。光の閃光に兵士たちは目を覆い、視界を奪われた。その隙にリュイは一閃の動きで兵士たちを無力化する。

「キラ…!」

その頃、ティアは湖を見つめながら、疲労に満ちた笑顔でキラを振り返った。彼女の力で装置はすべて破壊され、湖を覆っていた黒い霧が徐々に晴れていく。

しかし、ティアは力を使い果たしたのか、その場にふっと倒れ込んでしまう。

「ティア!」

キラはすぐに駆け寄り、彼女を抱き止めた。

「湖が…元に戻ってる…!」

ティアの声は震えていたが、その瞳には確かな安堵の光が宿っている。

湖面には再び清らかな輝きが戻りつつあった。波間に反射する光は、まるで大自然が喜びの涙を流しているかのようだ。キラはそんな湖を見上げながら、ティアの手をそっと握り締めた。

「ティア、よくやったよ。本当に…ありがとう。」

ティアはかすかに微笑み、キラの胸の中で静かに目を閉じた。彼女の呼吸が穏やかに続いているのを確認すると、キラはふっと安堵の息を漏らした。

湖の輝きが次第に増し、青水島の夜空を照らし始める。その光景は、新たな希望の始まりを告げていた。



 夕日が湖面を金色に染め、その輝きはまるで世界が新たに生まれ変わったかのようだった。水面は穏やかに揺れ、どこまでも清らかに広がる。そこに立つ3人の影をそっと浮かび上がらせていた。

リュイは足元の柔らかな土に膝をつき、肩を震わせていた。絞り出すような声で呟く。

「ごめん…俺は、弱かった。」

その言葉には後悔と苦しみ、そして救われた喜びが入り混じっていた。頬を伝う涙が夕日に反射して、きらりと光る。

キラは静かにその傍らに立ち、リュイの肩にそっと手を置いた。その手は暖かく、力強かった。

「誰でも間違える。だけどその間違いを正そうとすることが大事なんだ。」

リュイはキラの言葉に顔を上げ、涙を拭いながら震える声で答える。

「俺は…もう少しで本当に取り返しがつかないことをしてしまうところだった。君たちが止めてくれたんだ…ありがとう。」

リュイの瞳には、悔恨と決意が宿っている。キラはその瞳をじっと見つめ、深く頷いた。

ティアが一歩、二人に近づき、優しい笑みを浮かべる。

「リュイ、あなたが自分を見つめ直してくれて本当に嬉しい。」

リュイは涙ながらに微笑み返し、深く息を吸い込んで宣言した。

「俺は、この島が完全に浄化されるまで、自分の罪を償い続ける。それが、今の俺にできる唯一のことだから。」

静寂が訪れる。3人は肩を並べ、再び湖を見つめた。その光景は、彼らの心に刻み込まれるかのように美しかった。

リュイは目を細めながら、小さく呟いた。

「きっと、この光景を姉さんも喜ぶだろうな。」

夕日の光が三人の影を長く引き、湖のきらめきと共に空へと溶け込んでいった。





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