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#8 勇者もどきと双子の騎士

アーデルハイト王女として推薦できるという騎士は、結界を通り抜けることが出来た。それだけである程度の信頼は出来る。

そしてこの騎士、男女の双子だった。


年齢は二十二歳、代々王宮に仕える騎士の一族の末で、この国においては希少な良識ある家系だそう。

良識があるならどこかしらの代で国を棄てそうなものだけど、可能な限り騎士団の秩序を守り、手の届く範囲の無辜のものを生かすために踏みとどまってきたのだとか。

だけどもう限界だという双子。

厳格だった祖父が騎士団長を引いて天寿を全うした頃、悪逆非道としか言いようのない輩が騎士団長に就任した。

そうして、見せしめのように両親を含む誠実な騎士が半分ほど――『事故死』した。

表向きには奴隷の反乱を鎮圧する任務での殉職。なるほどね?



で、輩の手下が騎士団を埋め尽くし、双子は王女の近衛として形ばかりの栄転。

嫁ぐ時に一緒についていかなきゃいけないから嫌なら辞めれば?みたいな立場だし最初は嫌だったんだって。

けど、アーデルハイト王女の立場や境遇を見ていくうちに考えを変えたというか、王女を守ることもまた騎士道って思うようになったそうで。


真面目なんだろうなあ、って兄の方はぴしっと座ってて、温和なんだろうなあ、って妹の方はお茶のカップを両手に包んで持って座ってて。

喋ってるのはもっぱら妹の方。

兄の方は追加で喋ったりするくらい。



「この国はもうだめだ、と思っているくせに、私たちって結局騎士を続ける以外ができなくて。

一部の頭良かったご先祖は文官になったりもしましたけど、英雄譚の主人公でもありませんから」

「色々小さく人助けはできても大きく国を変えたりはできませんでした」

「親戚もいるにはいるんですけど、粛清のあとに生き残りは私と兄以外亡命してしまいました。誘われはしたんですけど…」

「逃げたら祖父が怨霊になって追いかけてきそうで」



ぶるっと震える双子。顔色も心なしか青い。



「それで……私たちの代で、騎士の道は終わり。

ご先祖様が地道に受け継いできた志も終わるのだと思うとなんだか惜しい気がしていたので、ユウキ殿にお仕えするという選択肢はとても嬉しいものなんです」

「国外での活動は経験がありませんが、平民に近い暮らしをしてきましたから。城を出られた後の暮らしを助け、お守りすることはできます」



なるほど。でも気になることがある。

この国は近く終わるわけで、そうなると墓所なんかも荒れるだろう。

ここは王都なのだし最終的に激戦が繰り広げられるだろうしね。

実家とかそういうのもなくなると思う。

ついでに言えば交友関係のある人たちも無事生きられるか分からない。

労働奴隷なんかは多分普通に肉盾にされるしね、この国の感じだと。

そこら辺を聞くと、双子は不思議そうに首を傾げた。



「死後の肉体は抜け殻で、魂は巡るものです。家も思い出があればそれでよいのでは?いずれは朽ちるものなのですし。

 それに――私たち、元々あまり交友関係がなくって」

「小さな頃から騎士の訓練。騎士になってからも鍛錬の日々でしたから」

「ユウキ殿、奴隷は私語を慎むよう教育されております。

 ですから、二人が日常的に接触するのはわたくしとその周囲の人間だけなのです」



アーデルハイト王女がそっと教えてくれた。

なるほど。言われてみれば。食料を売る人、その店主はこの国の人かもしれないけど、実際に食料を店頭に出したり何したりって労働は奴隷だよね。

この国。買い出しその他も奴隷がするんだし、基本的に。

この二人は兄妹で支え合ってて奴隷を必要としないみたい。

そもそも騎士という職業的に身の回りが出来ないと務まらないとか。代々そうやって暮らしてきたので異質な存在として見られていて、子供時代はしんどかったこともある、そうで。


そのあとはお互いの心境や今後を話し合う。

騎士兄妹はこちらについてくる。イデアだけでは身の回りの全てができないだろうと言われれば「確かに?」と返さざるを得ない。

野営の経験がない、いやそもそも城の外で暮らした経験もない。


あとイデアだけでは貴人であるアーデルハイト王女やヨエル大司教の面倒を負担するのが難しい。

二人が努力して全部やることにしても、できるようになるまではイデアが奔走することになる。

ならちょうど男女で別れている双子がその半分を担えばよいのでは?とそういう話。


わたしとしても、王族の視点を持つアーデルハイト、神官と貴族との二つの目を持つヨエルの他に、騎士と庶民どちらの目線も持っている兄妹――モカとカイがいると、バランスがよいなあと。

しかも思考回路がまともだ。

多分この世界の平均的な庶民の感覚をモカとカイは持ち合わせている。サンプルにちょうどいい。

そういうわけで、この二人にも無限にものを入れられる巾着袋を与えておく。



「身の回りで必要そうなものや金銭はこれに入れておけばいい。見ての通り小さいから普段から持ち歩けるし、紛失もしにくいだろうから」

「これはありがたいです。殿下がたが出立のための買い物をすれば目立ちますが、私と兄なら目立ちません。まだ言い訳が出来ますし」

「野営のための道具を騎士が買い揃えるのは普通のことですからね。

 違う店で一式ずつ買い揃えれば万が一の予備まで揃えられるでしょう」



なるほど。

しかも購入に際しても奴隷が勘定まで任せられている事が多くて、どんな人がどのくらい買っていくかまで主人が知ることは殆どないのだとか。

だからモカとカイは別々の日に一人分ずつ一式を購入して回り、不自然でない風を装うのだそうだ。

その時にちょっとお高い野営道具を買っても、「ああ上位騎士なのだな」程度にしか奴隷も思わないだろうと。


モカとカイは野営に慣れている。

だから必要になる道具、あれば困らない道具は分かっている。

さすがにこの世界での野宿というものを知らない私にとっては有難い知識を持ち合わせている。大助かりだ。

その気になれば毎晩寝床を拵えるくらい出来るけれど、あまりそういうことをするのも気が引けるし。


そういうわけで。

錬金術の権能で作り上げたいくつかの小粒の宝石を資金に、野営のための装備を整えてもらうことにして、その日は終わりにした。

勿論、モカとカイにも護身のアンクレットは与えた。

これはマーキングも兼ねているので、彼らに危険が迫ってアンクレットが壊れることがあればその場所にすぐ行くことも出来る。


まさかとは思うけどね。

アンクレットが壊れるようなことはない。そのはず。




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