#14 勇者もどき一行は魔族と邂逅する
最後の人里を離れて十日ほど。
私たちは既に魔族の領土に入っている。
向かっているのは、使い魔が見つけた「ヒトガタに近い生物が暮らしている農村のような集落」。
牛や鶏を育て、牧草を育て、昼間は仕事に励み、夜は普通に寝ている。
そこからもう半日ほど奥側にも農村はあったけど、ひとまず一番近いそこに向かうことにしたのだ。
領土を隔てる壁からの距離は大体八日ほど。
ただしそれは普通の馬が普通に走っていればの話で、私たちの馬車の馬は既に「改造」してある。
彼らは普通の馬よりも早く動けるし、長時間――一日中働かせても夜ぐっすり眠り、食事をとるだけですぐ元気になる。
なので既に集落へは一時間もかからない状態だ。
「ユウキ殿。
魔族との交渉は、いかがするおつもりでしょう」
「私が最後の勇者であると最初に名乗るつもりだよ。
そこで攻撃されても私たちは別に傷付かないし。
落ち着いているようならそのまま、魔族と人間の和解と、魔族の今後についての構想のための情報収集かな」
ヨエルはふむ、と顎に手をやる。
考えていたのは数秒ほどで、
「我々も、最初に激突した詳細までは伝えられていないのです。
当時の魔王が領土を隔てる壁にまで軍勢を引き連れてきて、侵略の意思を見せたとかなんとか」
「なるほどね」
「既に数百年以上前の話です。
当時の話を魔族側が覚えているかどうか」
その辺は大丈夫だと思う。
リザティアに学んだ通りなら、魔族は人間の何倍も長生きする。
数百年生きる個体も多く、人間で言う青年期のままかなり長く生きて、最後の十数年で一気に老いて死ぬ。
種族によっては千年さえ軽く生きるというのだから、当時を知るものがいてもおかしくない。
そうでなくても、当時を知る親や祖父母に話を聞いて知っている可能性は高い。
「集落にそろそろ着きます。今のまま向かいますか?
それとも、馬車からお降りに?」
「このままでいって、取り沙汰されたら降りよう。
もしくは集落の人が多いところで」
「承知しました」
さて。
集落は大変平和な様相で、広場らしい開けた場所まですいすいと進めた。
門番みたいなものもいなくて、私たちが入っていくのと同時に大人たちが広場に出て、子供たちは家に帰されたようだった。
「ここが魔族の集落だと知ったうえで話がしたい。
私は最後の勇者ユウキ。
悲劇を終わらせるために創世の女神リザティアより遣わされた」
よく聞こえるように、拡声の魔法を使って広場の隅々にまで届くようにして説明した。
ひそひそと話し合う村人たち。
数分待つと、一組の男女がすっと歩み出た。
「この村をまとめる、吸血族と人狼族の長です」
「女神は我らの破滅をお望みでしょうか」
「いいや。魔族を救い、ヒトとの和解を果たさせ、両者が滅びないことを望んでる。
だからこそ私はこの集落を襲わなかった」
女性のほうが安心したように息をつく。
男性のほうは、まだ少し警戒している。
「私は女神と同等の権能を持ってる。
その気になれば、この場に来なくても、魔族という存在を根絶できた。
けれどそうしなかった、この場に来たということを信じて欲しい」
そもそも私は武装さえしていない。
子供を見ても攻撃さえしなかった。
今だって構えも何もしていない。
なんなら女子供を連れていて、武力がありそうなのは双子騎士だけという有様だ。
というのを見て取り、ようよう男性の方も警戒心を和らげてくれた。
「俺は人狼族の長、アイゼンです」
「私は吸血族の長、ミリエラ」
「そう。ヒト族の間では魔族の細かい種類って資料に残ってなくてね、失礼があったら許して欲しい。
可能な限り尊重はするけど、細かい風習の違いまでは分からないから」
きょとんとする二人。
「我らは別に虚礼も何も求めません。
ごく当たり前に接し、尊重しあい、助け合う暮らしを行っております」
「ええ。この村も、助け合いで出来ているものですから」




