駆け出しの傭兵の一組のスケッチ 008a
いつからとも知れない、長い間うち続く戦乱の時代。
力が総ての無法の荒野で、人々は細々と生き延びていた。
他人を信じられない男たちが、支配を固めて生き延びるために、他者を暴力と奸計で叩き潰し、搾り取り、ルールを押し付け、縛り付け、圧制を敷き続けていた。
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最近もまた、ある地域で、幾つもの森や村や町が、何者かの集団に襲撃され、焼き払われた。
それぞれの生まれ育った巣を逐われ、必死に逃げ延びた少年少女たちは、何かの働きに導かれるように偶然に出会い、助け合うことで生き延びて、寄る辺ない者同士、これからも助け合って生きていこうと決意した。
幼くして多少身に着けていた技能でその日その日を生き延びるうちに、子供たちは技能の使い方に習熟していき、やがてその技能を用いて生き延びる生き方をそれぞれが体得して、一種の風格を帯びるようになった。
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今ここに、6名の少年少女から成るグループがある。
いっぱしの戦士の風格を帯びた樽のように太い体躯の逞しい少年タエロウがリーダーとなって、他の五名の子供たちを率いている。
神官戦士に憧れる少女セイカ、神官に憧れる少年ナライオ、いつも腹ペコなのに飯より歌う事が好きな歌キチガイの少女ガナリィ、野生児少女カミィ、ハンサムなケイ。
『骨太なタエロウ』と呼ばれる少年は己を鍛え上げるのが趣味で、日々走り込み、腹筋二千回、踏ん張って跳び出す楯での打ち付けと交互に行う片手棍棒素振り2時間を日課としていた。人より多少頑丈な身体に分厚く防具を巻きつけ、大きな盾を構えて敵の前で踏ん張り続け、戦槌を振って戦える胆の据わった男だった。
カミィは軽くてあまり動きを妨げない程度の防具を身に纏い、他者の存在痕跡を見つけて辿り、耳を澄ませて接近を察知し、用心深く立ち回りつつ、倒すべき敵を虎視眈々と狙った挙句に深々と一撃を打ち込むことができた。
ガナリィは敵を惑わし味方を励まし力づける呪い歌の歌い手として既に一歩を踏み出していた。
他方で、少女セイカは憧れの神官戦士への道はまだ遥かに遠く、少年のナライオやケイと共にやっと最近タエロウの指導の下で少し身体を鍛え始めたばかり。
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後ろ盾のない孤児たちなど、油断すれば忽ち狩られてしまう。
敵に襲われないように、森の中に潜み住む。
藪の中に竪穴住居を作って、出入口を草の束で他者の視線から隠し、臭いを犬に辿られないように犬の嫌う香りの特に強い草を撒いてごまかす。
濡らした木の葉の覆いを煙突の上に被せ、炉の煙を人目につかないように散らす。
狩猟漁労採集でその日その日を凌いだ。
暮らしの営みに必要な道具は、総てどうにか自作した。
日々消耗するサンダルを蔓と草で毎日編んだ。
狩猟に必要な防具は蔓や草を編み、平たい石や動物の骨や角などを差し込んで、すぐに壊れるにしても直ちに修繕できる最低限の質のを作って用いた。
雨を防ぐには草を編んで蓑を編み上げ、泥濘や石ころに対しては草で厚手のサンダルを編んで足の甲にも草の覆いを付けたり、たまに皮が充分に手に入ればモカシン靴を作った。
漁の罠も蔓や草を編んだ。成果物を運ぶ背負い籠や腰袋も編み上げた。腰縄一つとっても、新たに編み上げた。水を利用したり調理や食事をするには土器を作った。寒さに対しては毛皮を鞣して着る以外に、竪穴住居を掘って拵え、炉を据えて薪を伐って集めて火にくべて暖を取った。
そうして、僻村の点在する辺境地域を転々と巡りつつ細々と生き延びた彼らは或る日、僅かに蓄えていた金で肌着など少しは人里に降りても奇異の眼を向けられずに済むような衣類を買って身に着けると、遂に辺境の城塞に明日を求めてやってきたのである。
門衛に誰何され、役人に調べられ、やっと城塞に入ることを許されたが、当然武器の装備は厳禁されていた。
しかしこの子供たちは戦って生きる暮らし方が身についていた。
だから、街中で賞金稼ぎの仕事を引き受けて、外へ出て行って戦い、稼ぐことにした。
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最初は街道警備から始めてみた。一定の報酬などない、あくまでも出来高払いだ。
川を渉ろうとすると、リザードマン3体が現れた。戦いだ!
歌いだしながら盾を手に前に出たガナリィがリザの投槍で負傷したが、その後はひたすら盾を構えて防御に専念してどうにか持ち堪え、誰かが一匹目を倒した後に、二匹目はガナリィ自身がリザが槍を投げる隙を衝いて叩き込んだ棍棒で、それはごく軽い当りになってしまったが、それでトドメになった。残った三匹目を倒すのは囲んでしまえば容易だった。
川の流れの中で、死体の一つはどこかへ消えてしまったが、なんとか二匹分までは戦利品を回収でき、宿代の足しになった。
城塞に生還すると、宿屋で長期宿泊契約を結んだ。なけなしの金がごっそり減ってしまったが、これで宿で好き放題に休めるのはこの上なく助かることだった。
拙作をお読み頂き、実に有難うございます。
この短編は、シリーズ『浮浪児の流れ行く先』と同じ世界のお話でございます。
水平線の遥か彼方の国の、遠い昔の物語でございます。