表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やくもあやかし物語・2  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
9/84

009『言語学の授業』

やくもあやかし物語・2


009『言語学の授業』 





 初めに言葉ありき、言葉は神とともにあり、言葉は神であった。



 言語学の先生が言った。


 聖書の最初に書いてある言葉らしい。聖書というからキリスト教なんだ。


 わたしはクリスチャンじゃないから、きちんとは分からない。


 でも、それは「言葉と云うのは大切なんだよ」という意味なんだろう。


「ちょっと意味が分かりません」


 ルームメイトのネルが大胆なことを言う(^_^;)。


「はい、どんな風にわからないんですか、コーネリア・アサニエル?」


「わたしはエルフです。エルフはたいていシンパシーでコミニケーションをはかります。だから初めに言葉ありきにはなりません。言うなれば――伝えたい――というパッションではないかと思います」


 そう言うと、クラスの何人かは――そうだね――という顔をした。


 宗教染みた話は、民族とか国とかでいろいろアツレキとかがあるからね、簡単には踏み込めないよ。


「そうね、でも、考えてみて。シンパシーで通じた後はどうかしら?」


「後というと?」


「『お元気?』とか『どこへ行くの?』とか『お腹空いたぁ』とか、情報やら気持ちを伝えるでしょ、それって言葉、シンパシーにしても言葉に置き換えて理解、あるいは、次のコミニケーションに入らない?」


「え、あ……そうですね」


「人間は、感情を整理するにも、何かを伝えるにしろ言葉に寄らなければできないんですねえ」


「あ、分かりました」


 完全には腑に落ちてないみたいなんだけど、そう返事する。


 まあ、もっと先を聞いてみないとね。ちょっと早まって質問してしまったという気持ちもあるみたい。




「バベルの塔というのを知っていますか?」




 わたしを含めて、みんなイエスと応える。


「天にも届こうかという塔を作ったんで、神さまが『こんな神をも畏れぬ塔を作ってしまって、神としては気分が悪い。よし、これは人間がみんな同じ言葉を喋っているからだ。これからは、人間の言葉をバラバラにしてやる!』と言いました。それ以来、バベルの塔も人間の言葉もバラバラになってしまいました」


 うんうん、頷く者が大半。聖書では有名な話なんだろう。


 えーと、でも、なんだかキリスト教の授業のようになってきた。


「しかし、言葉の中には神がバラバラにしたのにも関わらず、ほとんど同じ言葉が同じ意味で使われることがあるんです。言ってみれば神にも打ち勝った言葉ですね」


 え? え? なんだろ?


「臓器移植で、臓器を提供する人をなんといいますか?」


 ドナーです。


 何人かが口をそろえて、残りのみんなも頷いた。


「そうですね、日本語でお寺にお金や品物を寄付する信者を、どう言うでしょうか?」


 え、ええ?


 みんな分からない。だよね、日本の仏教なんて、世界的規模で言えば完ぺきに少数派だもんね。


「ヤクモ・コイズミ、分かりますか?」


 ヤバイ、フラれちゃった。


「えと……えと……」


 うちは浄土真宗なんだけど、ちょっと分からないよ。


「ハズバンドのことを、ちょっと古い日本語で言ったら? 今でも、ママ友同士の会話では使われているわよ『うちの○○ったら、昔はいい男だったんだけど』とか」


「あ、ああ、亭主? あ、ダンナとも言います!」


「そうダンナ、漢字では、こう書きます」


 旦那


 う、わたしより字がきれいかも(;'∀')


「店の主人なども、この旦那といいました」


 うんうん。


「で、元々は、お寺に寄付、つまり提供する人のことを旦那と言いました」


 ああ!


 みんな――分かった――というような顔をしている。


「元は、インドのサンスクリット語でお寺への提供者をダナーと言ったのが、3000年かけて地球を東西にグルーッと回って、それぞれドナーと旦那という原型を良くとどめた言葉として出会ったわけですね」


 なるほどぉ


「つまり、神さまがバラバラにしたのにも関わらず、籠められた精神の大きさ強さによっては、そのまま残ることもあるんです」


 そうかそうか


「言霊と言ってもいいでしょう、そういう言霊の強い言葉を繋いだものが呪文、あるいは魔法の詠唱になるというわけですが、それは魔法学のソフィー先生から教授してもらってください」


 なるほど、こうやって先生たちは連携しているんだ。


「コーネリアが言う通り、まずは、パッションです。そしてシンパシーによっても伝わりますが、言葉に寄らなければ肝心のところは伝わりません。まずは言葉から始めようということで、次にいきますよぉ」


 

 ちょっとだけ面白くなってきたかもしれない。




☆彡主な登場人物 


やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生

ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ

ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁

ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師

メグ・キャリバーン  教頭先生

カーナボン卿     校長先生

酒井 詩       コトハ 聴講生

同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ