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やくもあやかし物語・2  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
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008『先代ボビーの墓参り・2』

やくもあやかし物語・2


008『先代ボビーの墓参り・2』 





 王室墓地はまるで小さな森だよ。



 王宮の敷地は山手線の内側よりも広い。


 でもね、国王が力に任せて広げたわけじゃないんだよ。


 宮殿の周囲は豊かな自然に恵まれていて、その自然を守るために王宮の敷地にしたんだよ。


 他の国なら国立公園とかにするんだけど、そうすると国立公園法とかの法律を作って、管理するためのお役所とか作って、とうぜんお役人の数も増えて大変。


 それで、百何十年か前に「じゃあ、ぜんぶ王宮の敷地ということにしよう」と王さまが言って今に至っている。


 王宮の敷地は一般の国民もお出入り自由なんだけど、ヤマセンブルグの国民は王室に敬意を払っていて、けして無茶なことはしない。


 無茶っていうのは、勝手に家を建てたり、木を切ったり、地面を掘り返して鉱物資源を取って行ったりしないということよ。


 でもね、木の実を取ったり薪を拾ったり、時期と場所を限って狩りをしたりはOK。




「難しい言葉で『慣習法』というんだ」




 墓地に向かいつつ、ソフィー先生が教えてくれる。


「かんしゅうほう?」


「ああ、法律には実定法と慣習法がある。実定法は議会で決める普通の法律だ。慣習法とは、昔からある習慣を法律と同じ効力があるとしてみんなで大切にする取り決めだ。例えば、商売の取引の慣習……これはむつかしいなあ」


「日の丸がそうだったじゃない?」


 王女さまが付け加えられる。


「そうそう、日本の日の丸は長い間国旗とは明記されてなかったんだ」


「え、そうなんですか!?」


「ああ、日本人のほとんどが『あたりまえ』と思っていたんで、あえて法律では縛らなかった。でも『法律で定められていないものに敬礼なんかできるか』と、左翼が体制批判の道具にしたんでな、20世紀の終りに法律で国旗にしたんだ。それまで、日の丸を国旗たらしめていたのが慣習法だ」


「他にもあるわよ」


 詩さんが指を立てる。


「え、なんですか?」


「日本語」


「ええ?」


「法律で決めたわけじゃないのに、みんな日本語喋ってるでしょ? べつに国語法とかで縛ってないのによ」


「え、ああ……」


 ちょっと虚を突かれたっぽい。


「もともと、ここいらは農民が薪や木の身を取ったり、羊を放し飼いにしたりする共同の土地、日本の言葉では入会地というんだが、それが半分近く。動物や妖精の棲家とされる森が半分近く。残りの僅かが王宮の敷地だった。しかし、産業革命が起こって土地の所有権をはっきりさせようという風潮が出てきた。所有権をはっきりさせて持ち主が大農場を開いたり、石炭や鉱物資源を漁ったりする動きだ。それを防ぐために全てを王宮の敷地ということにして、乱開発されることから防いできたんだ」


「ちょうど、境目にうち(王室)の墓地もあったしね、王宮と墓地を結ぶ線から北側を、そういうことにしたの……ということで、ここからが墓地の聖域。いちおう、お祈りしてから入るわね」


「お祈りって、どんな……」


「十秒ほど頭を下げてくれるだけでいいから」


 王女さまが先頭で頭を下げる。


 墓地の森の前、ご先祖と精霊に敬意をはらってる感じで、ちょっと清々しい。


 チラ見すると、子犬のボビーまで大人しく俯いて可愛かった(^_^;)。




☆彡主な登場人物 


やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生

ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ

ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁

ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師

メグ・キャリバーン  教頭先生

カーナボン卿     校長先生

酒井 詩       コトハ 聴講生

同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン


 

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