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やくもあやかし物語・2  作者: 武者走走九郎or大橋むつお
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003『入学式』

やくもあやかし物語・2


(『やくもあやかし物語』続編『せやさかい』姉妹作品)


003『入学式』 





 部屋の窓から王宮が見える。



 見えると言っても、林を隔てて距離もありそうなんだけど、おっきいので近くにあるように思えるんだ。


 王宮の他には湖、ヤマセン湖、ヤマセンブルグは小さな国だけど宮殿も湖も大きい。


 それ以外には湖の向こうに山が見えるだけ。


 観察すれば、宮殿にも湖にも森や山々にも、おもしろい! とか、なんだろう? とかがいっぱいあるんだろうけど、今のわたしは、そんな余裕はないよ。


 到着して、すぐに自分の部屋を指示されて、ベッドの上に置いてあった真新しい制服に着替えて、時間まで待機。



『時間になりましたので、新入生諸君は講堂に集合してください』



「はい!」


 館内放送に返事してしまって、廊下に出る。


 廊下には、親切なRPGみたいに矢印が浮かんでいて、ていねいに80mと距離まで出ている。


 他のドアからも新入生たちが出てきてるんだけど、お喋りする者はいない。80mの下には――静かに――とアラームが付いているし。


 足音もしない……と思ったら、モスグリーンのカーペットが敷かれてる。来た時も通ってるはずなんだけど憶えてない。緊張してたんだよね。


 矢印は、階段を下りて一階の廊下を示し、一階はエンジのカーペット、天井は二階よりも高い。壁の所どころには油絵が掛けてあって、ランプは彫刻の妖精が捧げ持っている。


 外見もそうだったけど、学校は古い洋館。矢印が10mを示して講堂の入り口。5mのサインに変わって、ごっつい木製のドアが開く……自動ドアみたい。


 講堂は三階分の高さがあって、シャンデリアが六つもぶら下がってる。執事さんみたいなのとメイドさんみたいなのが両脇の柱ごとに並んでる。


 正面は30センチほどの壇になっていて、壇の上には国旗と校旗たぶんが並んで掛けられて、溢れんばかりの花を生けた花瓶が演壇の横に置かれている。


 座席には、それぞれ新入生の名前が浮かんでいて――Yakumo Koizumi――の席に着く。



「ただいまより、ヤマセンブルグ王立民俗学学校第一回入学式を挙行いたします。一同、起立!」


 

 メイド長みたいなおばさんが凛とした声で宣言。ザザっと一同が立つと、壇の奥のドアが開き、軍服の将軍みたいな人と、王女さまが入場してきた。


「ヤマセンブルグ王立民俗学学校、初代学校長、フィリップ・カーナボン卿ご登壇!」


「諸君、栄えあるヤマセンブルグ王立民俗学学校第一期生としての入学おめでとう。余がヤマセンブルグ王立民俗学学校初代校長のフィリップ・カーナボンである……」


 見かけ通りの硬い感じのおじいさん、たぶん名誉職なんだろうね、スピーチ眠たいし。


「次に、ヤマセンブルグ王立民俗学学校、初代総裁、プリンセス、ヨリコ スミス メアリー アントナーペ エディンバラ エリーネ ビクトリア ストラトフォード エイボン マンチェスター ヤマセン殿下のお言葉を賜ります、一同、アテーンショーーン!!」


 ビシ!!


「みなさん、ご入学おめでとう(^▽^)」


 パチパチパチとにこやかに拍手、すると校長や他のスタッフもそれに倣って拍手してくれて、やっと歓迎されているんだという感じになったよ。


「まずは座ってくださいな。このわたしとしては少し長い話をしますので、リラックスして聞いてください。あ、でも、足や腕を組むのは勘弁してくださいね。あそことあそことあそこと……他にもカメラがあって、わたしのお祖母ちゃんが見ていますので。コホン、では、お祖母ちゃん、いくわね……」


 チャーミングに、そして少し緊張した笑顔でスピーチされる。


 みんなに分かるように英語で話されてるんだけど、わたしには日本語のニュアンスで聞こえたよ。


 この春までは大阪のミッションスクールに通われていたし、それまでは、日本とヤマセンブルグとの二重国籍でいらっしゃった。それと、お人柄だと思う。せっかく縁があっていっしょになったんだから、お互い仲良く、でも、しっかり高め合っていきましょうという感じ。


「この校舎は78年間モスボールされていたものをリニューアルしたものです。その前身は王立魔法学校。イギリスの魔法学校に負けないくらい歴史と伝統のある魔法学校でした。わたしたちは、魔法や魔術も含めての民俗学、人の行いの全てが民俗学の対象だと考えています。むろん、適性や本人の希望や事情があります。このヤマセンブルグの風土と伝統が、みなさんの、そして世界の人々の相互理解、そして発展と平和に繋がればと願ってやみません。えと……以上です。キャリバーン教頭、次は教職員の紹介……わたしがやってもいいですか? 足りないところが合ったら補足していただくということで」


「はい、お任せします、殿下」


「ありがとう、それでは……」


 王女は、スピーチで湧いた暖かさのまま先生たちを紹介。


 みんな個性豊かな先生たちなんだけど、特に、若い陸軍中尉さんが目に留まった。



 ソフィア・ヒギンズ



 ほんの十日前に講師の辞令をもらったばかりで、人を教えるのは初めてらしい。


 でも、家は代々の王室付き魔法使いの家系だとか。


 年齢は分からないけど、二十歳前後かな?


 キビキビした軍人さんなんだけど、どこか同類という気がした。


 そして、もう一人。



 酒井さかい ことはさん。



 この人は車いすの聴講生。


 大阪からやってきた留学生なんだけど、王女さまのご学友でもあり、女王陛下にも仕えておられるとか。


 二人とも、ぜんぜんタイプは違うんだけど、広い意味で同類さん。


 こんな風に人に興味が持てるのは、わたし的にはすごい事なんだよ。


 今までは、人間じゃないものたちとの付き合いばかりだったからね。



 むろん、生徒の中にも面白い人やら、すごい人やらがいっぱい。


 それは、ボチボチとね。



 ちょっと遅れたけど、わたしの、わたし的には高校生活が始まったよ。



☆彡主な登場人物 


やくも        小泉やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生

ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁

ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師

メグ・キャリバーン  教頭先生

カーナボン卿     校長先生

酒井 詩       コトハ 聴講生


 

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