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へっぽこ妹はじめてのあやかし退治 〜 のはずがいつのまにか宇宙人討伐に 〜 みんなに守ってもらいながら日本諸国を巡ろう!  作者: しいな ここみ


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波小僧

 お城の馬をお借りして、みんなで浜名湖へ向かった。

 蘭様が先頭を駆けた。優雅な身のこなしで白馬を駆り、風を切って行くその後ろ姿が頼もしい。

 和歌ちゃんは天花さんの後ろにしがみついている。さすがはわたしと同じへっぽこという感じだった。

 馬を御することに自信のないわたしは、きわみちゃんに手綱を任せた。彼女の赤帯に必死でしがみつく。わたしもさすがのへっぽこという感じだ。

 又利郎さんはいつもの通り単独行動で、『先に行ってる』と言って影に溶けた。夏次郎くんは襟巻きに化けてわたしの首に巻きついている。


 さぁ、どんな化け物が出てくるか。


 出てきても安心だ。これだけ仲間がいて、何より最強の蘭様が一緒にいてくださるのだから!




 天気はよく、浜名湖は凪いでいた。

 まるで海みたいなおおきな湖だ。


 天花さんが教えてくれた。

「ここは汽水湖きすいこでね、色んなお魚が取れるんだよ」


「わあ! 和歌、お魚大好き!」

 和歌ちゃんがそう言って飛び跳ねてから、聞く。

「『汽水湖』って何?」


「真水と塩水が混じり合った湖のことさ。だから川の魚も採れれば、海のお魚も採れるのさ」


「タコも!? タコもいる!? 和歌、タコさん大好き!」


「ああ。タコもいるよ。和歌はタコとキュウリの酢の物が大好きだからねぇ」


「うなぎは!? 和歌、うなぎも食べたい!」


「残念ながら、うなぎがいるとは聞いたことがないね」

 天花さんは、はっきりと言った。

「でも、もしかしたらいるかもしれないねぇ。うなぎは海で産まれて、川や湖に登ってくる魚だからね」



「おや?」

 蘭様が何かを見つけて、声をあげられた。


 その視線の先を見ると、小さな少年が湖のほうを向いて立っている。


 蘭様がその後ろから近づくと、少年は振り向いた。その顔を見て、蘭様が仰った。


「やはりあなたでしたか……。波小僧くん」


「あっ、蘭様!」

 波小僧と呼ばれた少年は、嬉しそうな声をあげた。

「久しぶり! もうすぐ雨が降るよ!」


「その子……妖怪だね?」

 天花さんが、蘭様に聞く。

「いい妖怪なの?」


「波小僧くんは善いあやかしよ」

 蘭様が柔らかく微笑み、みんなに言った。

「みんなに天気を教えてくれるの」


 体ごと振り返った波小僧くんを見て、わたしときわみちゃんは揃って「かわいい!」と声をあげた。

 印象としては河童に似ているけど、ちゃんと商人の子みたいな服をきちんと着ていて、頭にお皿はなかった。背は低くて、人懐っこそうな黒い目が少し犬に似ていて、わたしは特に親近感を覚えてしまった。


「ところで波小僧くん」

 蘭様が聞いた。

「ここに細くて長い化け物が出ると聞いて参ったのですけれど、何か見ましたか?」


「うん。そいつらが湖に住みついてね」

 波小僧くんは言った。

「とてもいいことなんだよ」


 びっくりしたように和歌ちゃんが声をあげた。

「いいことなわけないでしょ! 人々を『ぜつりん』にしてるんだよ!?」

 ぜつりんの意味がわかっているとは思えなかった。


「少し黙っていなさい、和歌」

 蘭様にそう言われると、和歌ちゃんは嘘のように黙った。

 蘭様が波小僧くんにさらに聞く。

「その細くて長いものというのは、あやかしですか?」


「ううん。違うよ」

 波小僧くんは答えた。

「お空からの恵みさ」


「空……?」

 わたしはきわみちゃんと揃って青空を見上げた。

 釣られて夏次郎くんも見上げた。


「ところでそこのお姉ちゃん」

 そう言いながら、波小僧くんが、わたしのほうを見た。

「その首に巻きついてるの、鎌鼬カマイタチの夏次郎くん?」


「あっ! そうだよ? 夏次郎くんの知り合い?」

 そう言って夏次郎くんを見たが、知らないようだ。困ったような顔をして、首を横に振っている。


「あやかしと仲良くなってくれてるんだね。ぼく、嬉しいよ」


 そう言って波小僧くんがかわいくにこっと笑った。わたしの胸がキュンと鳴った。


「そ、空からの恵みということは……」

 いつの間にかそこにいた又利郎さんが、波小僧くんのすぐ隣で言った。

「う、宇宙人か?」


 波小僧くんは仲間を見るように又利郎さんを穏やかな顔で振り返った。気持ち悪いものにはどうやら慣れているようだ。


「お空からやってくる魚だよ」


 どういうことだろう。わたしにはさっぱり意味がわからなかった。

 お空から魚が降ってきて、それが人間のお口から体内に入り、人間をぜつりんにするのが、いいことだということなのだろうか。

 そしてそれはやっぱり宇宙人なのだろうか。


 蘭様が波小僧くんに聞いた。

「次に降ってくる時が、あなたにはわかりますね?」


「うん。お魚が降ってくる時は、ぼくが南東から波音を大きく立てるから、それをよく聞いていてね」


「そうだわ、あなたにこれを差し上げましょう」

 蘭様がぱんと手を叩き、波小僧くんに何かを差し出した。


 犬耳だった。それを頭につけると波小僧くんがさらに犬っぽい河童みたいになった。さらにかわいくなった。


「ありがとう、蘭様」

 かわいい波小僧くんはぺこりとお辞儀をすると、にこっと笑った。

「じゃ、よく波音を聞いててね」




 波小僧くんと手を振って別れ、わたしたちはみんなで街へ聞き込みに行くことになった。


 先頭の馬に乗りながら、蘭様がみんなに言う。

「それが現れる時には波小僧くんが波音を立てて教えてくれるわ。それまで街の人々にお話を聞きましょう」


「波音といっても……」

 蘭様の後ろに乗った又利郎さんが言った。

「う、海までは近いようで……遠いよ? 聞き逃さないかな」


 蘭様がにっこりとそれに答える。

「それどころか南東といえば御前崎のほうね。遠すぎるわね」


「あ……」

 又利郎さんが気づいて、言った。

天姉てんねえか」


「あたいに任せな!」

 天花さんが、お歯黒をすべて見せて笑いながら、はだけておっぱいの見えそうな胸をどん!と叩き、頼もしく言った。

「ここから御前崎まで十五里ちょっと(約60キロメートル)。そんな近所の音なんて、このあたいが聞き逃すもんかい」




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