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へっぽこ妹はじめてのあやかし退治 〜 のはずがいつのまにか宇宙人討伐に 〜 みんなに守ってもらいながら日本諸国を巡ろう!  作者: しいな ここみ


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宇宙毒竜

 湖の中から現れたその毒竜は、全身が鉄で出来ているような見た目だった。

 鱗はまったくなくて、鉄の板をたくさん組み合わせたようなギザギザの体。目は緑色に光っていて、黒目はなかった。


 危能丸あぶのうまる兄様は抱き止めたきわみちゃんをわたしに預けると、勇ましく立ち上がった。


「こんな龍は初めて見たな」

 立ち上がりながら、呑気に仰る。

「おまえ……、なんだ? ほんとうにこの世のモンか?」


 すると、毒竜が、喋った。


二口女ふたくちおんな! 何をしている! 早く供え物をこっちへ持って来るのだ!」


「は……、はいーっ!」


 急いでもちもちしたもののたくさん乗ったお皿を持ち上げ、駆け出そうとした彼女を、兄様が止めた。


「言いなりになるこたァねえ。嫌なんだろ?」


「……はい」

 二口女さんがぼろぼろと泣き出した。


「あれは神龍なんかじゃねェな? あれが何か、おまえは知っているか?」


「あれは宇宙毒龍、ぽいずんどらごん様です」


 わたしには合点がいった。そうか……。宇宙人がいるなら、宇宙龍だっているわけか。


「そこの人間」

 宇宙龍が兄様に、威厳のある口調で言った。

「邪魔をすると町に毒の雨を降らせるぞ。さっさと供え物をその女に持って来させるのだ」


「聞くけどよ。このもちもちしたものをどうするつもりだ? そんなデカい体で、まさかたったこれだけの食べ物で足りるわけがねェだろう?」


「貴様ごときに知る権利はない。失せろ。失せぬと……」


 わたしは時が止まったように固まっているきわみちゃんを、安全なところに寝かせた。背中に『止』と書かれたお札が貼ってあったが、剥がさずにおいた。暴走されたらめんどくさい。

 そして、震える足で立ち上がった。刀の柄に手をかけた。兄様のお力になれるかどうかはわからないが、わたしだって名門退魔師一族の一員なのだ。


「失せねーと……どうするんだ?」

 兄様がニヤリと笑う。


「貴様に毒の雨を降り注いでやるぞ」


「やってみろ」


 空から雨を降らせるのかと思ったら、違ってた。

 毒竜はその口から紫色の液体を吐いたのだ。

 天に向かって吐かれた液体の雨が、兄様一人めがけて降りかかる。


 ばっしゃあー!


「に……、兄様ーっ!?」

 わたしは叫ぶだけで、動くことが出来なかった。


 しかし毒の雨は、兄様に届いてはいなかった。見えない壁が、兄様を守っていた。四角い形に張られた結界の表面を、紫色の液体が滴り落ちる。兄様は、無事なお姿を現すと同時に、わたしにこう仰った。


「飛べ」


 わたしの体が勝手に飛んだ。

 宇宙毒竜へ向かって──


「わああーーっ!」

 口が勝手に叫んでいた。


「ぽこ! 刀を抜け! そのデカブツを初手柄にしろ!」


 兄様はそう仰るが、そんな、無茶な……!


 どうやらわたしも知らない間に背中に『翔』とでも書かれたお札を貼られていたようだ。勝手に体が飛んで行く。ぐんぐんと……。ぶ、ぶつかるーっ!


「フン」

 宇宙毒竜が鼻で嗤った。

 そして口を開けた。


 い……、いやだ! そこから何を吐くつもりだーーっ!?


「妖魔、撲殺ーーッ!!」

 背後からはきわみちゃんが飛んで来た。

 兄様がどうやらお札を剥がして自由にしたようだ。

 兄様はわたしごと宇宙毒竜をきわみちゃんに粉砕させようというのだろうか? 鬼か!


「ウウッ……!」

 わたしの首に巻きついた襟巻きが、唸り声をあげた。

 見ると夏次郎くん、もふもふの中から顔だけ出して、なんか凄く怒ってる。

 兄様のこの無謀な、人を人と思わない、暴力的な仕打ちに怒っているようだ。


 でも……、さすがの夏次郎くんでもこれは無理だ。

 目の前の宇宙毒竜は巨大だし、剥くような着物も着ていない。

 背後から木刀ですべてを壊しに飛んでくるきわみちゃんのほうを剥いたところで、宇宙毒竜が何かを吐くのは止められない。


 詰んだ……。


 わたしの人生、終わった……。


 たった十五で終わるなんて……。


 笛兄ふえにいのお嫁さんになりたかったな……。


 そう思いながら、すべてを諦めながら、涙がぽろりとこぼれた時だった──

 夏次郎くんがぶわっと膨れ上がり、いつものように白い尖った風になり、目の前の敵を、剥いた。


 ガチャガチャガチャーン!


 屋根の瓦が台風で飛んで行くような激しい音がした。


「あうぷ……」

 そんな呆気にとられたような声を漏らして、宇宙毒竜の装甲がすべて吹っ飛んだあとには、ちっちゃな紫色のおじさんみたいなのが、目を丸くして座っていた。

「み……、見つかっちゃった」


 どうやら巨大な宇宙毒竜の姿はハリボテだったようだ。

 紫色の謎のおじさんは、宇宙毒竜のハリボテの中でそれを動かし、強い気分になっていたんだろう。

 夏次郎くんに剥かれた今、その情けない姿を露わにしたのだ。


 正直カッコいいと思っていた鋼鉄の龍は、一瞬にして貧相なその中身を現し、高くしすぎた櫓みたいにぐらぐらしたかと思うと、ガラガラと下のほうから崩れていった。


「妖魔・粉・砕!」


 背後から狂った叫び声が聞こえた。

 しまった忘れてた! きわみちゃんが狙っているのは宇宙毒竜ではなく、妖怪。夏次郎くんを滅するために飛んで来ているのだ!


 わたしは腰の春才天児を抜いて、きわみちゃんの木刀を受け止めようとした。


 や……、やっぱり今回も抜けない! さっきまでは抜けたのに!


 夏次郎くんがわたしの首元に戻ってきた。

 すたんと肩に立つと、ぼーっとした顔で、襲いかかってくるきわみちゃんを見ている。


 その、天から神様が振り下ろすような木刀が、振り下ろされた。


「止まれ」


 兄様のそんな声がしたのと、夏次郎くんが再び白い風になったのが、同時だった。


 空中でぴたりと動きを止めたきわみちゃんに、夏次郎くんが巻きついて、全裸に剥いてしまった。


「きわみちゃーんっ!」


 わたしは叫んだが、兄様に操られるままに飛んでいるだけなので、自由に動くことができない。

 きわみちゃんは素っ裸に剥かれた格好で、空中で固まり、恥ずかしい姿をさらし続けていた。

 隠してあげたいのに、わたしはただふわふわと、空中を漂っているしかできなかった。



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