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ホリイ・ベルの水晶玉(三)

 一瞬にして全裸に剥かれ、きりもみ回転しながら地面に倒れ伏した今生之助こんじょうのすけ様を水晶玉の中に見ながら、危能丸あぶのうまる様が大笑いをした。


「アーッハッハッハ! コンのやつ、みっともねぇな!」


 伊織様は、ただ水晶玉に映し出された光景を見つめて、いつものように黙ってらっしゃる。

 笛吹丸様も無言だった。何かを考えてらっしゃるように、眉をしかめて顎に手で触れた。


 それから今生之助様は、助平な感じの美女に介抱されてたと思うと、すぐに立ち上がり、顔を真っ赤にして泣きながら、『何処へでもドア』の中へ駆け込んで行った。もうすぐにこっちへ帰って来ているはずだ。たぶん自室で恥ずかしさに泣いてらっしゃるのだろう。


「たかが鎌鼬カマイタチごときにやられるなんて、アイツも情けねぇな」

 危能丸あぶのうまる様がニヤニヤしながら呟いた。

「まぁ、相性悪かったんだろうけどよ」


「相性……」

 笛吹丸様が口をお開きになった。

「確かに力任せにぶった斬る今生之助にとって、風に化ける鎌鼬は相性が悪いだろう。……とはいえ、今生之助だぞ? 雪風一族一の剣士なのだぞ? あやかしを斬ることに秀でたあの今生之助が、相性が悪い程度であのように簡単にあしらわれると思うか?」


「ただの鎌鼬ではない……」

 伊織様が言った。

「と、いうことですね? 兄さん」


 笛吹丸様は頷いた。

「まだわからぬが、そのように思える」


「いやいや、鎌鼬ごときにタダもお高いもあるかよ」

 危能丸あぶのうまる様が鼻でおわらいになる。

「実際、コンのやつ、いったんもめんが斬れなくてアタフタしてたことあんだぜ? ヒラヒラしてるもんは斬れねぇんだとよ。ま、オレが燃やしてやったけどな」


 離れた部屋のほうから今生之助様がすすり泣く声が聞こえてきた。やっぱり自室に引きこもられたようだ。


「とにかく……なんとかせねばならん」

 笛吹丸様の声がちょっと怖い。

「一度離れたと思ったら、しつこくまたオトの肩に戻って来おって……。あやつ、何の魂胆があってオトに付き纏う? 危険じゃ!」


 危能丸あぶのうまる様がそれをまた笑い飛ばす。

「でも、ぽこが持ってる刀……。春才天児しゅんさいてんこか? あれ、あやかしが側にいないと抜けねぇんだろ? 鎌鼬が肩に乗ってりゃいつでも抜ける。都合がいいんじゃねぇか、これ? 悪い人間に襲われても、鎌鼬がいりゃ抜刀できる。いてくれたほうが……」


「いや、春才天児も鎌鼬を斬りたがっている」


「本当かよ?」

 危能丸あぶのうまる様は冗談を聞いたようにお嗤いになった。

「刀に意思があるってのか?」


「あるのだ。俺には見える。春才天児は鎌鼬を斬りたくてウズウズしている」


「アホくさっ」

 危能丸様が立ち上がった。

「たかが鎌鼬ごときにそんなに深刻な顔してんじゃねーよ」


「行ってくれるのか、アブ?」


「おう。かわいいぽこに教えてやりゃいいんだろ? あやかしはすべて敵だ、滅するべきものだって」


「中には人間の益になる妖怪もいる。しかし、鎌鼬はイタズラをする。益にはならぬ、害ばかりのあやかしじゃ。ゆえに、仲良くするオトは、間違っている。それを教えてやってくれ」


「害ったって、知らない間に皮膚に切り傷を作ったり、焚き火の灰をばら撒いたりするぐらいだろ」

 危能丸様がまた鼻でお嗤いになる。

「そんなただのイタズラ妖怪、簡単に潰して来てやんよ」


「よし、ホリイ」

 笛吹丸様があたしの額に触れる。


 その指にあたしから魔力を吸い出すと、虚空に扉を描いた。


「『何処へでもドア』だ。これを通って行け。すぐにオトの元へ出られる」


「おう。行ってくらぁ」

 危能丸様がだるそうに扉を開けた。


「言っておくが、侮るなよ? 今生之助を一瞬で倒したほどの妖怪だ。鎌鼬とはいえ……」


 笛吹丸様の忠告を最後まで聞かずに、危能丸様は扉の中へ入って行った。


「伊織よ」

 笛吹丸様が、部屋の隅のほうに座ってらっしゃる伊織様に声をかけた。

「危能丸ももしやられたら……おまえ、行ってくれるか」


 伊織様は何も答えず、ただくすっとお笑いになった。




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