01〈名も無き執事〉
生前ハマっていた乙女ゲームの悪役男爵に異世界転生したオレ。
何故だか途中からだけど新しい人生が始まったわけだし
前世のようなクソみたいな人生は送りたくない
悪役ってポジションだけどオレが担う義理なんてないし
金持ち生を満喫してやろうじゃねえか!!
……そう、思っていたんだけど
───コンコンッ…
「…!誰だ…!?」
「・・・私です。ヘナールでございます」
少し間を置いて、扉の向こうから声が聞こえた
ヘナール…?ゲーム上では聞いたことのない名前だな。モブの個人名か…
「入ってもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ…!」
「失礼いたします」
───ガチャッ…
「おはようございます…マイセス様。今日は早起きなのですね」
「……!」
入ってきたのは立派な執事服を着た男性だった
青銀色の長い髪に、サンタマリア・アクアマリンの様な瞳…
も…もしや、この執事は…
〈名も無き執事〉───!!
そう彼も、タン砂のストーリーに出てきた登場人物だ
この名の通り…彼はモブキャラクターである。
マイセスに虐げ上げられてきた、召使いのひとり...
……この執事…悲痛な最期を遂げたんだよな
ラスボス…マイセス戦クリア後のストーリーは
せっかくだからとしっかり読むことにした。
そのストーリーに、この“名も無き執事”は出てきたんだ
{回想}
『……マイセス様……』
名も無き執事は、マイセスの亡骸を涙しながら抱きしめていた ▼
『申し訳ございません…マイセス様ッ…貴方様を…またしても……救うことが…できなくて……ッ』
片手に持った銀色に光る剣…名も無き執事は
自ずの首に当てる。▼
『どう…か…どうか…お許し……くだ……さ……ッ』
そして…名も無き執事は、自分の首を切る ▼
『ぐッぅ……ッう……』
――カランッ…!!
『……じきに…あなたのお側に…』
〜 タンジーの砂時計 メインストーリー 完結 〜
メインストーリーの最後だったというのに
なにもスッキリしなかったあの終わり方
最終的には攻略相手との結婚エンドストーリーに繋がるから
それを読んだプレイヤーは満足したことだろう
しかし乙女要素を目的とはしていなかったオレにとって
この終わり方はなんとも腑に落ちない…
乙女ゲーなのだからそれ以外のものを求めちゃいけない
といえば何も言えなくなるが…
ストーリー性は乙女外の要素においても好評だった故に
終わり方には期待していた面がある。
ま…ストーリーなんてロクに読めてなかったしな
今までの物語に名も無き執事についての伏線は色々と張られていたんだろう
「あの…大丈夫、ですか?」
「え」
ヘナール は眉を垂れ下げてオレの顔を心配そうに覗き込む
こいつの麗しい顔は逆に嗚咽を催した
「ウッ………な…なあ、ヘナール…!」
「……えっ?!あ……はい…?なんでしょうか…!?」
ただ名前を呼んだだけだというのに、
ヘナールはなぜか驚いた表情を見せる
「??どうしたんだ、そんな驚いて」
「マ…マイセス様が私の名前を呼ぶのが…稀有なもので」
「えっ」
ヘナールはゲーム上ではモブ表記だったから、
直接名前を呼びかけるシーンがなかった…
だけど普通は名前で呼ぶものだろ…?あだ名でもあったのか?
自然に聞き出してみるか…自然にな
「あー、実はな。昨夜頭を強く打ってしまったみたいで…記憶が飛び飛びなんだよ」
「えっ!?今すぐお医者様を…!!」
「いや!そこまで重症じゃないから大丈夫だ!!」
「……そう、ですか…無理はなさらないでくださいね?」
「ああもちろん!……それで、オレ…普段はキミのことなんて呼んでいたんだっけな?」
「あ………“(自主規制)”ですよ」
「・・・」
…………………なんて???
──To Be Continued…