始まり
燃える街に全てを置いてきた。
環境が人を作ると言うのであれば僕はもう何者でもない。
頭が全く回らない。ただ熱かった。崩れ落ちていく街の時計塔のように。
心臓の鼓動が激しい。呼吸が苦しいほどに。
遠くに見える故郷は赤々と輝き、僕がもたれかかっている岩は黒々としていた。
肌に自然な冷たさが伝わってくる。それが止めどなく溢れ続ける心をなだめてくれた。
僕は一人ぼっちだ。
この暗黒世界に僕は一人放り投げられた。
どうしてここにいるのかもよく覚えていない。ただ必死だったから。
ボロボロになった街の防壁に目をむけてしまい、すぐに目を逸らした。
外の世界は本当に荒地だった。
そして、ところどころをおぞましい獣たちが歩いていた。
軍の人たちが街に近づくこの獣たちを排除するために何年も何年も砲撃を続けてきたのだろう。街の周囲の土地は起伏だらけで、これに身を隠しながらきっと僕はここまで辿り着いたんだ。
さて、これからどうしようか。
お腹も空いている。それにもの凄く疲れている。お風呂に入りたいし、本も読みたい。
だったらこんなところでとどまっていないで、
家に帰ればーーー
獣にばれたら殺されるので大きな声は出せない。それが余計に苦しかった。
でも、その方が正しいのかもしれない。
みんなそうなった。ならば僕もそうなるのが正しいのかもしれない。
だけど、恐かった。
この感情が僕を生かしていた。
歩き出さなくちゃいけない。
酷くお腹が空いている。
結局僕を突き動かすのは最も原始的な感情だった。
どこにいけば食べ物を得られるのだろう。
僕がいるところよりももっと街から離れたところには廃墟のような建物たちが広がっていた。
歴史の授業や、街のおじいちゃんに話を聞いたことがある。
昔はこんなに狭い場所だけではなくもっと広い世界で人間は生きていたのだと。
僕は街の中しか知らなかったからこれ以上に広い場所なんて嘘っぱちだと思っていた。
でも、こうして見るとそれは真実だった。
昔、人が住んでいたのであればそこには今も食べるものが残っていたりするかもしれない。
あたりを見回して近くに獣がいないことを確認し、ゆっくりと廃墟のエリアへと歩き出した。