とある人間の手記
人類の日常は突如として失われた。
ある日、世界中に科学では説明のつかない事態が巻き起こり、正体不明の生物がそこら中を跋扈するようになった。
それらの生物がどこで生まれどのように増えているかなど私たち凡人には知る由もないが、急激に数を増やしたその脅威たちは凄まじい勢いで人を殺し、生息域を増やしていった。
あれは一体何物なのか。
例えるのであれば、まるでおとぎ話やファンタジーによく現れる魔物という存在に近い。
奴らは数だけでなく種類も多様で、大人数人で死に物狂いになれば退治できるものから軍隊でも動かさなければどうにもならなさそうなもの、それから私は見たことないがおよそ人類では勝ることの出来ないものまで存在するらしい。
私の故郷が懐かしい。18年前までは命の危機などとは無縁の生活を送っていた。社会という荒波に飲まれながらも、たまにある小さな幸せとささやかな自由の中である程度不自由のない暮らしを送っていた。誰もがそうだったのだ。
多くの人間が死んだ。その犠牲の中でなんとか人類は各地に対怪物の拠点を作り、そこだけが人間の生息圏になった。私たちの生きるスペースはこんなにも小さくなってしまった。小さな頃に見た雪山が懐かしい。遠くの綺麗な海で泳いで遊んだこともあった。家の近くにあった小さな商店で駄菓子を買い込んで友人と交換し合いながら食べた街が懐かしい。
今はもうどこにも行くことができない。この拠点の外には軍の関係者しか出ることはできない。もう二度と戻ることはない。
世界は何やらこの怪物たちを一掃するという目標をかかげているようだが、少なくとも私が生きているうちに成し遂げられることはないだろう。
いつの日か、この悲しみを誰かが拭い去ってくれることを願って私は今日も眠りにつく。