人生2周目とは言わないが兄弟では勘弁してほしい件
初投稿作品になります。
痛い。
体の節々が軋むような感覚で俺は目を覚ました。蝉の声が耳障りで、頭がぼーっとしている。しばらく何が起こったのかわからなかったが、どうやら床に倒れてるみたいだった。
床は体温で温くなっていて、肌はじんわりと汗ばんでいる。
?
なんで床にいんの…
差し込む力強い日差ししばらく見ていたら、ようやく頭が働いてきた。
少しずつ昨日のことを思い出す。俺は階段から落ちる奏をーー
そうだ。弟を助けようとして抱きかかえるようにして落ちた。
ー落ちた俺は俺の目の前にいる。俺の身体が床にある、といったほうが正確であり、わかり易いだろうか。じゃあ、今考えている俺は誰なのか。
え、まさか死んでないよな。せめて幽体離脱であってくれとか思いながら今の状況を整理する。
まず立ち上がって辺りを見渡す。弟の姿は見当たらない。
と同時に自身の異変に気づく。
ー目線が低い。
嫌な予感がする。
「起きろ、起きろって!」
未だに床に転がっている俺の体を揺する。
っやめてくれ、こういう時の俺の勘は当たるんだ。
「にいちゃん起きるからっ。大きい声出すなよ。」
「てか、体中痛ぇし。頭も。」
起き上がり、俺の顔を見る。
「何で目の前に俺がいんの⁉︎」
やっぱり。俺と奏が入れ替わってる‼︎
嫌な予感は当たった。
要するに、高校ニ年生である俺、響紀は階段から落ちた衝撃かどうなのか小学四年生の弟の奏と身体が入れ替わったのである。
「にいちゃん、どうしよう…」
弟が意気地のない声を出した。自分のこういう姿を見るのは結構堪える。
「どうするったって」
そう、今日は平日である。
「学校に行くに決まってるだろ。平日なんだから。」
「なに言ってンの⁉︎おれら入れかわってるんだって!学校どころじゃないじゃん‼︎」
「じゃあ、どこ行くんだよ。言ってみ?」
挑発っぽく言ってみる。返答に対しての完璧な論破を準備しての言葉だった。
「びょ、病院とか行かなきゃダメじゃんか‼︎」
「病院とか行ったらこいつ何言ってんのってなって即精神科行きだからな⁉︎」
ひと呼吸おいてから続ける。
「普通身体が入れ代わるって信じるかお前?」
「信じない…かな。」
腑に落ちないという顔をしているが、これで精神科行きのルートは消滅したはずだ。よし。
「ー奏にはまだわからないと思うが、高校生にとってはな出席、つまり学校に行くことは思っているより大切なことなんだ。入れ代わっているとはいえ、それは俺の体だから、高校に行ってくれるよな?」
「はあ?なんでおれがにいちゃんの学校に行かなきゃなんないんだよ⁉︎い・や・だ。」
んー…
「まだわかってない様だから教えてやるけど、時間無いんだ。わかるだろ?」
そう、これぞザ・年上の権限。これには流石に逆らえまい。
「高校行って授業に出席してくれるだけでいいから。」
そういって渋々オッケーを貰えたところで俺らは急いで身支度をすませた。
ー疲れた。
とんでもない1日(なのか?)が始まったばかりだが、俺にはまだミッションが残っている。
ミッション1:奏を学校まで送り届ける。
奏には高校までの道中にしなければいけないこととしてはいけないこと、何かあれば友達なり何なりに携帯を借りて俺に連絡を入れることと、最低限の金と最終手段等々を叩き込んで学校に入っていくのを見送った。
思うことは一つ。上手くやってくれよということだけである。