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夜の蝶  作者: みんと
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第1話 懐古

1年前ぐらいから構想練ってやってました。

でも話の軸決めないままだらだら書いてたので読みにくいと思います(´・∀・`)



今から少し時を遡った、とある日の魔生物学の授業。彼女達は剥製の並ぶ教室で羊皮紙に羽根ペンを滑らせていた。

この鼻にツンとくる匂いはなんの薬品だろうか、後でソラに聞いてみよう。教えて貰っても分かんない自信しかないけど。なんて考えながらウィンディは聴き逃した先生の話の続きに耳を傾けた。


「――このように使い魔には色々な形態があり、契約魔法も全て異なります。注意するように、という話でした。とは言ってもこの教室の皆さんはもう使い魔がいますよね。この範囲は昔に自分で学んでいることでしょう!」


使い魔。人と生き物を契約魔法で結び、使役することができるというもの。普通動物の姿である為「使い()」と呼ばれる。それと同時に、元々動物でも人間の姿に変えさせることが可能なのも使い魔の特徴だ。動物の他に魔獣(モンスター)、人、亡霊などと契約をすることもできる。亡霊に至っては禁術、もちろんこの世界には一例しかない。…すぐ隣にその一例の主人が居ると言うのだから全く驚いてしまうな。


使役の方法にも色々ある。名のまま「使い」として動物の姿や人間の姿で傍に置いておく者、あるいはクロスのように使い魔自身を武器として扱えるように契約する者。圧倒的に前者の方が多いが、クロスは特殊なものが好きなのだろうか。「うん!!」と大きく頷く彼女が見える。まあ、高度な魔法が必要になる、という点ではクロスが後者を選びたがるのも分かる気がする。


亡霊の他にも珍しい使い魔の形態…それは【人】である。人が人と契約し使役する。使い魔側の人間と良い関係を築き上げなければとても危険な魔法だろう。そんな契約を交わした張本人がここにいるのだ。


クロスではない…この眠たげな瞳のウィンディだった。


「復習はここまでで終わり。使い魔の定義と契約儀式についておさえておいてね。長期課題についてはこの紙を見てください、では!」


ここ王立ダルダ魔法学園の魔生物学担当、リルテ・ワーグル教授が杖を振ると彼女の手元にあった紙束が1枚ずつ生徒の元へと滑るように飛んでいった。褐色の肌に映える金色の目が教室を見渡した後、教授はローブを翻して出ていった。


「レポートか〜大変やな〜」

カーレスは口を尖らせる。

「でも、使い魔なだけまだましちゃう?」

そう言うファルルにウィンディは確かにな、と返し、鞄の中から古染(こそめ)の小さな羊皮紙を取り出した。

「えっと?…使い魔についての色々を羊皮紙3巻半以上、やって」

課題の案内を雑にまとめたウィンディは思ったことを次々と口にした。

「あまりにも初歩的やから逆に面倒やな。何よりも書かなあかん量がおかしいわ。でも提出は夏季休暇の後なんや。だいぶ先やね。なんでなんやろ、そんなかかる課題やないのに。まああれか、時間かけてちゃんとやってねって話かもしれんな」

「そんなんここか城の図書棟行ったら一瞬で書けると思うで」

クロスがひょこ、と顔を出して言うが、ソラが否定する。

「それはそうやけど、面白くないんちゃうか?」

「クロスは確実にダーネスとリュークについて書くやろ」

「あ、バレた?」

ルーチェのツッコミにクロスがちょけたところで会話は終了した。そんな時、学校の中庭ではネモフィラが春の暖かい風に揺れていた。





大きな雨粒が強くガラスを叩く。サラチア王国王都は季節外れの大雨だった。ザーーという音が耳に心地良くなってきた頃。


ふう、と息を漏らしてウィンディは顔を上げた。ミントガーネットの瞳が窓に映る。

「朝からずっとこの調子だな……」

朝、侍女として働いている使い魔のジェーナに「危険なので寮に入っていない人は学校が休みになったらしいですよ〜」と起こされてから早3時間程度。雨の止む気配はない。


「学校に本置いてきちゃったんだよな」

どうやら彼女は教科書を学校――王立ダルダ学園に置いてきてしまったようだ。しかも明日からは暫く休みが続く。しかし、そこに行くにはこの雨の中を行かなければならない。

「……これくらい行っちゃってもいっか…よし!」

髪が乱れるだなんだと雨を嫌う貴族令嬢と違って、一人で城を抜け出して濡れようとしている――もはや馬車すらも使うつもりもないウィンディ公女は、そうと決まれば、と持っていた白い羽ペンをスタンドに挿し、立ち上がった。


「あ、ウィンディ。どっか行くん?」

「クロス!」

上着を羽織って傘を持って、完全にこの雨の中に出て行こうとしている彼女にクロスが声をかける。

「ちょっと学校まで。…ってリューク?珍しいな」

よく見れば、クロスのカリカルパ色のドレスの影から黒猫が尻尾を覗かせている。ウィンディが彼に気づくと黒猫も顔を出した。彼はクロスの使い魔、死霊のリュークだ。

「雨で太陽が全く出てないから、リュークも外に出られるかと思ってさ」

「なるほどね。楽しんで!」

「気をつけてなー」

クロスとリュークにひらひらと手を振ってウィンディはそこを後にした。


城の端までやってくると、またよく知る姿があった。ただ無表情に、遠くを見つめながら、突っ立ったまま頭の上で何かをしている。

「レイラ?」

「あぁ、ウィリ様。お疲れ様です」

こそっと出ようとした時に限ってよく人に会うな、さっきルーチェも見たし、とウィンディは裏門の前に立つ自分の使い魔を見つめる。

「どうかされましたか?」

「いや大丈夫なんだけど……」

レイラは濡れた長い黒髪を結い直していた。傘もささず、打ちつける雨もお構いなしにハイポニーテールにしていく。年下のはずなのに、少し透ける白いシャツで色気がある。

「さっきよりも雨弱まったけど、風邪引かんようにしてや?」

「はい」

ルーチェよりもずっと暗いが、深みのある赤い瞳をふっと緩めて彼女は城の中へ入っていった。風魔法で体を乾かす音を聞いた後、ウィンディは目の前の裏門から外へ出た。


「あ」

すぐに彼女は足を止める。

「…乗せてって貰えばよかった…!!」

ついさっき、ペガサスの姿になれるレイラを見送っていったのは他でもないウィンディだった。





「やっぱりレイラじゃない子は慣れへんな……」


晴れているならまだしも、学校まで歩いていくのは気が引けたウィンディは、城の馬舎から一頭馬を借りてきて、彼に乗って学校まで来ていた。濡れた亜麻色の馬は雨の中歩かされたことが不服なようで、身を震わせて水を落とそうとした。

「ごめんね。水魔法じゃなくて申し訳ないけど…」

ウィンディは体を撫でながら風魔法を使う。徐々に毛が乾いていき、馬は満足そうに足を鳴らした。彼を学園の馬舎に置いて、ウィンディは中に入っていった。


とは言っても、寮に入っていない生徒というのは貴族の一部や一時的に実家に帰っている人たちだけで、学校に人の姿は多かった。でも彼らだけで授業をする訳にはいかない為、学園として授業は休みになる。だからか、廊下はいつもより騒がしかった。


「これこれ!」

ウィンディはほぼ使っていない寮の自室で、本を何冊か引っ張り出す。

なぜか使い魔について書かれた、しかも初歩的なものが多い。いつものように、突然思い立った衝動でこれを読んで懐古しようとしているのだろうか。





ふと外を見れば、もう雨は止んでいる。ぽとん、ぽとん、ぴちゃん、と雨粒が木々から落ちる音が聞こえてくる。地面に落ちた赤い枯葉が、雨粒の勢いに舞っていた。


「うわ、もうこんな時間や」

懐中時計を取り出して時間を見ると、針は6時を指していた。

「…今夜は新月か」

ぼそっと呟いて、月出ててもどうせ雲で見られへんけど、と心で付け足す。

ウィンディの懐中時計は、時計としての役割、そして月の満ち欠けを見る役割もある。つまりムーンフェイズが付けられているのだ。月の満ち欠けをいつも見られるようにするだなんて「ロマンチストですね」と言われても仕方がない。でも、ウィンディはいつもそれを心の中で否定していた。まあ、そんな話には全部愛想笑いしてきたけれど。

ちなみに、この懐中時計の時計盤はサラチアの地図になっている。一石三鳥といったところだ。


読んでいた本を鞄にしまい、こっそり城に帰ってくると、部屋に―――――


ジェーナが待ち構えていた。

「なんで1人で行ったんですか!レイラに言われてびっくりしましたよ!?せめてあの子を連れてってくださいよ!!行き先が学校で良かったです!」

「ごめんごめん、わざわざレイラ呼び止めるのめんどくさくてさ」

「全く!いつもレイラか私たちが居るから放っておいてたのに」

「はいはい、ありがと」

暖房の効いた自分の部屋で体を乾かしながら、ジェーナの心配の小言を流していく。と、ウィンディはピタッと止まって彼女に向き直った。


「ところであの子さ、何あげたら喜ぶと思う?」

「え?」

「レイラ、今度誕生日だし」

今は11月。24日はレイラの誕生日。丁度、ウィンディの誕生日の1ヶ月前なのだ。加えると、目の前のこの双子の片割れ達は12月13日生まれである。

「あー…なるほど。うーん、去年はネクタイピンでしたよねー」

「せやね」

彼女はシャツにネクタイという服装が常だ。去年は、ジェーナの胸に輝くパライバトルマリンのペンダントと同じように、アレキサンドライトと黒曜石で特別に作らせたタイピン、ラペルピンを贈ったのだった。

「じゃあ……髪飾りとかどうですか?」

「いいねぇ!ありがと、参考にさせて頂く」





夕食が終わり、ウィンディはまた部屋へと戻ってきた。そして、わざわざ大雨の中持って帰ってきた本を開く。


「人と人の使い魔契約、か……まさか自分がやるとは思ってなかったよな。…いや、後悔なんてしたくないね」

小さく笑って唇を軽く噛む。


小鳥の使い魔、ヴィアとジェーナは()()()小鳥の双子である。ウィンディが7つのとき、領地のヴィエトル邸の中庭で妖精ごっこをしていると、2羽の小鳥が迷いこんできた。風魔法を使って遊んでいるうちに小鳥は屋敷に通うようになり、ウィンディと彼女らは契約魔法を結んだ。白に水色の羽のヴィア、白に紫色の羽のジェーナ。人の姿にすると、ヴィアはミルクティーの髪をサイドテールにしたアクアマリンの瞳の少女、ジェーナは同じミルクティーの髪をまとめたタンザナイトの瞳の少女になった。背丈は今のウィンディより少し高いが、同い年ぐらいだ。


しかし、レイラは違う。2年前、ウィンディと出会った、1人の()()の少女だった。


第2話 12/20 20:00頃 予定


明日は満月ですね☽︎︎.*·̩͙‬

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