プロローグ
代わり映えのしない毎日、動き続ける世界。
世界の流れに身を委ねても、俺には何も感情を抱くことができない。
季節としては夏真っ盛りで、夏休みだからであろう、近所の中学校で部活でもやっているのだろう。
吹奏楽の音やら野球の掛け声やら、喧騒のど真ん中にいたとしても、もはや俺にはなんの関係もないことだった。
「世は事もなし、か」
どこかのロボットアニメで学生の頃に聞いたようなセリフを口にしてみるも、本当に世の中は動いているのかすらわからなかった。
15年前にはあの喧騒の中に自分もいたのだろうか。時の流れというのは残酷で、もはや俺にはそこまでの思考力はなかった。
30手前にもなって、彼女の一人もできたことはなかった。いや、彼女がいない程度ならいいのだろう。友達もおらず、SNSやソシャゲに精を出し、お金に余裕ができたらギャンブルをして、またお金がなくなる。
そんな生活を続けていって、いつしか両親からも見捨てられた。
職場に行っても腫れ物に触るかのような扱いを受けているが、他人とのコミュニケーションが上手くできなくなっていたのが原因だろう。仕事ができないのだから、窓際に追いやられるのも然るべきではあるとは思う。
俺だってこんな人生が良かったわけじゃない。めぐり合わせが悪かっただけだ。
中学時代には友人がいたような気がするし、オタクキャラだったからパソコン強いんでしょとかなんだか言われて情報の授業で無双したことだってある。
あの頃に戻りたいという願望がないわけではないが、戻ったところで何ができるわけでもないこともわかっていた。
現状、立ち回りを間違えた結果が今の自分である。それこそ大事件でも起こって、自分を中心としたコミュニティでも作らなければ、当時に戻っても一生ぼっちだろうな、なんて考えていた。
「考えるだけ無駄か。酒でも飲んで落ち着くか」
困ったら酒である。成人しているのだから、それくらいは許してほしい。
飲めば楽になる。 嫌なことを忘れて楽になりたい。
そう思って、下町のナポレオンなる酒にスーパーストロングレモンなる酒を割って、エナジードリンクで味付けをしたいつもの酒で、今日も物思いにふけるのだった。