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場面11 父とチート魔法

「つまり、このコンテナに入ったら服が消えて裸になったのか?」


「そういう事。ついでに服に入れてたスマホも無くなったの。」


 芽衣子はスマホの喪失を思い出し、新之助からの問いに苛立つ様子を隠すことなく、開けかかっていたコンテナの扉を乱暴に開け放った。


「一応さっき俺も見たけど、中には何も無かったよ。メイ姉が隠したのかと思ってさ。」


 反対側の扉をロックしていた金具を外し、開けながら中を再確認する誠司だったが、やはり何も無い。


 コンテナの扉が両方とも観音開きになり、中に光が差すと、奥まで様子がしっかりと伺えるようになった。


「そもそも隠せそうな場所も無いぞ。」


 腕を組み、コンテナ内部を眺めながら首を傾げる新之助。


「やっぱりこれってあれじゃない?異世界転生でよくあるアイテムボックスみたいな。」


 悪代官のような顔でニヤつく芽衣子だったが、新之助はピンと来ていなかった。


「超能力みたいな能力を最初から色々と貰えるのが異世界転生もの『お約束』なんだよ。どんな言語でも最初から理解する翻訳能力とか。」


「最初から?なんだそれ。苦労して修行の末、手に入れるのが普通じゃないのか?」


「知らないよ。父さんが好きな『はるかかなたの銀河系』でも毛モジャの生物が人間と会話してたじゃないか。あんなもんだろ。実際、俺らも教会の人らと話せたし。」


「あれはちゃんとした言語であって、銀河系最速のガラクタの船長だけが会話を――ちょっと待て。教会の人ってなんだ?」


 教会での出来事を話している誠司と新之助を放置し、芽衣子はコンテナの周りを確認していた。


 アイテムボックスなら物を収納出来るハズ。


 そう考えた芽衣子は玄関に戻ると、足元に置かれた膝下サイズの信楽焼のタヌキを抱えてコンテナに向かった。


「魔法で芽衣子の傷が治ったのか?何故それが魔法だと――芽衣子どうした?」


 話の途中だったが陶器のタヌキを抱えてきた芽衣子に気付いた新之助が不思議そうに声を掛けた。


「アイテムボックスだとしたら分かりやすい"アイテム"が有った方がいいと思って、この子を実験台に。ね。」


 芽衣子はコンテナに入り、中央にタヌキを置くと、扉を閉め始めた。


「さっきも言っていたがアイテムボックスってなんだ?」



「うーん。お得な3点セットみたいなもんだよ。ファストフードなら『ハンバーガー、ドリンク、ポテト』だし、政治家なら『癒着、秘書、私は知らない』。そんでもって異世界なら?」


 三本指を立てながら説明する誠司が芽衣子に続きを促すと、芽衣子は扉を閉めながら答えた。


「そうねー。異世界なら『翻訳能力、アイテムボックス、チート』ってトコでしょ。あたしらにも1個目は与えられたみたいだし、アイテムボックスは普通なら人間に付与される能力だけど、服が消えたからコレがそうなのかなーって。」


 手でコンテナを指す芽衣子の言葉に新之助は引っかかりを覚えた。


「与えられた?誰に?」


新之助に聞かれ、問うように目を合わせた誠司と芽衣子だったが、互いに分からないというポーズを取ったので誠司が答える。


「普通は異世界に行くときに、その世界の神様とかがくれるのがセオリーだけど、俺もメイ姉も父さんも心当たりが無いみたいだから、分からないな。」


 言われて考え込む新之助をよそに、芽衣子は検証を始めた。


「とりあえずコイツを確かめましょ。タヌキを入れて扉を閉めました。では開けたらどうなるか?タネも仕掛けもございません。ワン、ツー、スリー!」


 マジシャンのモノマネでもしているつもりなのだろう、お辞儀をしてクチでドラムロールの真似をしながら扉に手をかける芽衣子。


「ジャジャーン!」


 ドヤ顔と大声で扉を開け放つ芽衣子だったが、中にはタヌキが鎮座しているのみだった。


「消えないわね!あの時と違うのは――誠司が閉めたわね。ちょっとこれ閉めなさいよ。」


 思い通りにならず不機嫌になり始めた芽衣子に誠司は大人しく従い、再度扉の開閉を行ったが、何も変化は無かった。


「分かった!人が一緒に入ってないと作動しないのよ!」


「じゃあまたメイ姉が入るかい?」


「何言ってんの?あたしはイヤ。今度はあんたが入りなさい。そして裸になりなさい。ヒャッハー!」


 誠司をコンテナに蹴り入れると芽衣子は扉を閉じて開けたが、そこにはタヌキと服を着た誠司が居るだけだった。


「実は収納可能なのは限定1個で、今は『芽衣子の服』が入ってるからダメって可能性も有るんじゃないか?だから今は入れる方じゃなく、出す方を検証すべきかも」


 タヌキを抱えてコンテナの外に出る誠司の意見に芽衣子も賛成する。


「それもそうね。じゃあ一度閉めて。…出てこい。私の服!ドンキで上下セット千円で購入した私のジャージよ!深淵より再び姿を表せ!!」


 扉に両手を当てて、神経を集中し、呪文を唱えるように1文節ごとにチカラを入れる芽衣子。


 (メイ姉もドンキで買ってるじゃないか。ってか深淵ってなんだよ。)

 そうツッコミを入れたかった誠司だが、検証中の今は口に出すことが憚られた。


「よし、じゃあ開けるわよ。」


 芽衣子の言葉に固唾を飲んで頷く誠司と新之助だったが、コンテナの中には何も無かった。


「ないわー。あんだけ勿体付けておいて、ないわー。」


 抗議する誠司と、悪乗りした自覚はあるのか少しだけ頬を赤らめた芽衣子に、助け船を出すように新之助が提案した。


「服が無くなった時に扉を閉めたのは誠司なんだろう?だったら誠司が念じた方がいいんじゃないか?」


 新之助に促されて扉を閉めた誠司は心の中で服よ出てこいと念じて扉を再度開けたが、中には何もなかった。


「ちょっと根性が足りないんじゃないですかねー。もしくは筋肉。あ、両方かも!」


「まぁまぁ。今は仕舞っておきたいモノもないんだ。コンテナは後でまた考えるとしようじゃないか。」


 子指で耳の穴を掻きながらクレームをつける芽衣子を新之助は諭した。


「それに、さっきの続きだ。3点セットって言ってたな?なんだチートって。悪い事なのか?」


 何か仕舞いたいのではなく、消えたスマホを取り戻したかった芽衣子だったが、新之助の質問に不承不承ながらに答え始めた。


「元の意味は完全にネガディブだけど――善悪っていうか、"別次元で凄い"って感じね。例えばテストで毎回満点を取ったら普通に凄いけど、絶対に不可能でもないでしょ?」


「そうだな。博史は校内テストでは殆ど満点だった。」


 比較されたように感じた誠司はつまらなそうに縁側近くにおかれたガーデンテーブルを見た。


「でも小学生でノーベル賞を取ったらどう思う?」


「それはすごいな。けど有り得るのか?」


「そう、普通は疑うでしょ?何かズルでもしたんじゃないかって。殆ど不可能に近いレベルで凄い事を『チート』って言ったりもするの。」


「なるほど。それでチートっていうのはどんなのが有るんだ?」


「あたしはそこまで詳しくないのよねー。誠司はどんなの知ってる?」


芽衣子から促されて、今度は誠司が新之助の質問に答えた。


「最近はメイ姉の方がアニメとか漫画とか読んでるから詳しいだろ?婚活クソニートなんだから」


「いやぁオタク歴10年以上の誠司パイセンには負けるんでー。すいませんパイセン代わりに説明おなしゃっすー」


 口調こそ丁寧だったが、芽衣子は顎をしゃくり上げながら眉間に皺を寄せて誠司を睨みつけていた。




「――例えば代償の有り無しで分かれるな。途轍もなく強くなるけど特定人物以外を攻撃したら本人は死ぬとか、地球の商品が買えるけど貴金属が必要とか?」


「代償無しというのは?」


「そのままだよ。思っただけで人を殺せるとか。」


「なんだそれは?面白いのか?」


「面白いよ。くだらないのもあるけど。でも、どちらかと言えば俺は代償有りの方が好きかなぁ。」


「そうだな。何も支払わずに何かを得るのは盗みと同じだ。良くない。アイテムボックスの場合はどんな代償が普通なんだ?」


 アイテムボックスに代償を求める作品を知らなかった誠司だったが、説教モードに突入した新之助に余計な事を言っては自分にとばっちりが来ると考えて必死に考えた。


「代償?アイテムボックスの?えっと、そうだな。重量や収納時間に比例して使用者の大切なモノが無くなる――とか?」


「あはは、面白いなそれは。」


 新之助は納得したようで説教モードが解除したように見えた誠司は、つい余計な軽口を叩いた。


「じゃあコンテナの謎を解明してくれたら、そんな能力を俺から父さんに進呈するさ。」


 能力の付与など自分に出来る訳ないと思っていた誠司は()()をした。


「ははは。よし、良いだろう。謎を解明してやる。」


 そして父は誠司の提案を()()した。



「ごめんください。」


誠司、芽衣子、新之助の三人がコンテナと反対の方向に視線を移すと、そこには老人と少女が立っていた。

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